第十四話 本当の気持ち
部屋の中には、バースデーケーキの空き箱と飲みかけのジュース。
膝に落ちたポテトのかけらを、真白がそっと集める。
何かを言いかけて言葉を飲み込んだ。
……真白に伝えなければ、でも、何を言えば?
「……初めは、そうかもしれないって思ってた。ななみのこと。
でもさ、そうだったとしても。今はもう親友でしょ、私たち」
言葉が胸にしみて、涙がすこしずつ熱を増してあふれ出す。
ポテトの袋をくるくると丸めながら、手がゆるく震えた。
「……うん」
それだけで精いっぱいだった。
泣きそうになるのをこらえながら、パーティーの片付けを続けた。
家に帰って、プレゼントの袋から、リップとイニシャル入りのハンカチをそっと取り出した。
そして、机の上に静かに並べた。
……わたし、知らず知らずのうちに、二人を傷つけていたのかな?
美羽の言葉が、頭の中で何度も響く。
……素直になれって言われても……
ほんとうに好きなのは、どっちなんだろう。
颯太先輩? それとも……悠馬くん。
このまま気持ちを曖昧なままにしていたら、また、誰かが傷ついてしまうかもしれない。
今、自分に嘘をついたら、きっと全部が歪んでしまう。
……少なくとも、颯太先輩との関係は、今までみたいには戻れない。それだけは、もう確かだ。
先輩からもらったシェルポーチとキーホルダーを見つめた。
***
夜遅く、スマホが震えた。
画面には「颯太先輩」の名前。
ほんの一瞬、ためらってから通話ボタンを押す。
「ごめん、遅い時間に、今、大丈夫?」
「はい」
「この前は、急に帰ってゴメン……
今日、ななみの誕生日だろ。おめでとう」
「ありがとうございます」
先輩の声は、いつも通り優しかった。
だけど、今の私には伝えなければいけないことがある。
「先輩、実は、ちょっと……」
「で、今度、会えないかな? 誕生日のお祝いもしたいし」
「……私、先輩に話したいことが……」
「えっと……そうだ、今日の模試、すごくよく出来た。ななみから貰ったペンケースのお陰かな」
「わたし、先輩に言わないといけないことが」
先輩が、言葉をさえぎるように続ける。
「……あーっ、やっぱりダメだったか」
「初めから、ななみには、他に好きな人がいるって気づいてた。
でも、絶対、そいつのこと忘れさせてやるって思ってたんだ」
「先輩……」
「頑張れば、俺のこと好きになってくれるって……信じてた。
――だけど、やっぱり俺じゃダメだったかー」
先輩は目いっぱい明るく言っているのがわかる。
沈黙が続く。
時計の針の音だけが静かに聞こえる。
「……俺たち、もう別れよう」
言われた瞬間、心がどこか、すうっと冷たくなった気がした
「……わたし」
何か言おうとするのに、言葉が続かない。
「ごめん、さよなら」
その一言を残して、先輩は電話を切った。
スマホの画面が暗くなっても、しばらく手放せなかった。
悲しかった――けど、不思議と涙は出なかった。
悠馬くんのときは、あんなに泣いたのに。
ただ、終わってしまったんだなっていう寂しさだけが、あとに残った。




