第十三話 すれ違う思い
「お土産、渡したいから。明日、少しだけ会える?」
颯太先輩からの電話。胸が少しだけ高鳴る。
でも、昨日のことがまだ、心の奥にこびりついていた。
――悠馬くんと美羽。
腕につかまる美羽の横顔と、何かを返すように笑った悠馬くん。
あの光景が、なぜか消えない。
翌日、約束のコンビニ前。
「はい、これ。修学旅行のお土産」
手渡された小さな袋。
中には、革製のキーホルダーが入っている。
「何? 織り姫?」
「そっ。で、こっちが俺の」
二つのキーホルダーをくっつけると、織り姫のひこ星が向かい合うようになる。
「なかなか会えないけど、これを見て、ちょっと思い出してくれたら嬉しい」
――胸の奥が、暖かくなる。
でも、笑顔が、うまく作れなかった。
「ありがとう」
すぐにバッグにしまってしまった私に、先輩が静かに言った。
「気に入らなかった?」
「ううん。そんなことない。大事にします」
言葉だけは、ちゃんと返した。
だけど、それだけ。
「……今日のななみ、ちょっと元気なくない? なんかあった?」
「別に。普通です」
「なら、いいけど」
冷たい言葉になってることに気づいても、もう取り戻せなかった。
「行く前に、聞いとけばよかったかな……」
「……」
「急に呼び出してごめん。今日は帰るわ」
さみしそうな先輩の言葉が胸に刺さる。
その言葉に返せない自分が、悔しくなった。
心の中に残ってた、昨日のふたりの後ろ姿。
関係ないって思いたいのに……先輩の言葉に素直に答えられなかった。
……どうして、あんな態度をとってしまったんだろう。
***
真白の部屋。
七月三日、わたしの誕生日。
部屋の中には、コンビニのスナック菓子のにおいと、甘い缶ジュースの残り香。
美羽がポテトスティックの袋を開けながら言った。
「ななみの誕生日って、覚えやすいよね。七月三日で“ななみ”」
わたしは、「うん……」とだけ答えた。
どこかうまく笑えなくて、声が少しだけぎこちなくなった。
――この前、見たあの後ろ姿。
美羽の顔を見ると、悠馬くんと美羽が腕を取って笑っていた姿がよみがえる。
『そのこと』を聞きたいのに、どうしても、聞けなかった。
このまま、知らないままの方が良いのかも……
「はい、プレゼント!」
真白がリップクリームを差し出す。
淡いピンクのパッケージで、ケースの中に小さな鏡がついていた。
「かわいい……ありがとう」
美羽は、小さな箱を渡してくれた。
イニシャル入りのハンカチが二枚、きれいに折りたたまれて並んでいた。
***
「何か、今日は、二人ともぎくしゃくしてるし。もしかして、けんかしてる?」
真白は、ポテトをひとつ口に放り込んで、静かに言った
「言いたいことがあるなら、言った方がいいよ」
二人とも返事を返さない。
「そういえば、美羽、よく部活休めたね。地区予選始まってるよね……もう?」
「部活は、やめた。もう、やる意味なくなった」。
「どうして? がんばってたのに?」
「わたし、悠馬にフラれた」
「えっ?!」
「悠馬に告白したけど、“好きな人がいるから付き合えない”って言われた。
だから、もう、やる意味ないし」
「美羽……」
「……ほんとは、わたしの方がずっと先だった。
ななみと悠馬が知り合う前から悠馬が好きだった。ななみより、ずっと、ずーっと前から。
でも、ななみが“告白する”って聞いたから、わたし……言えなかった」
美羽が関を切ったようにしゃべり出す。
「ななみが、テニス部の先輩とつき合ってるって聞いたから、勇気出して告白した。
……でも、だめだった」
「……」
「ななみって、ズルいよ……」
「えっ?」
「ほんとは、悠馬くんのこと、まだ好きなくせに、それを隠して他の人と付き合ってる」
「そんなこと……」
「真白とだってそう」
「真白のこと?」
「小学校のときの噂、真白がしゃべったって思ってる。そう思いながら、真白と友達してる」
「そんなこと……ない……」
「ななみも悠馬も、いい加減、自分の気持ちに素直にならないと、回りがみんな迷惑する」
「迷惑って……」
「もういい。……ごめん、先に帰る!」
美羽は、そこまで一気にしゃべると、部屋を飛び出していった。




