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第十一話 さみしさと不安

今日も部活が終わるころ、校門の前で颯太そうた先輩が待っていた。

スマホをいじりながら、ちらっと目を上げる。


「じゃっ、また明日」


そう言って、真白ましろは、少し速足でその横を通り過ぎる。

私は、颯太先輩に並んで歩き出す。

まだ少しだけ緊張する。でも、それにも少しずつ慣れてきた。


花火の日以来、颯太先輩と、ときどき一緒に帰るようになった。


「今、何してるの? 部活」


「真白とダブルスの練習。なかなかリズムが合わなくて苦労してます」


「俺も、拓海たくみと初めて組んだ頃は、なかなか呼吸が合わなかった。

 あいつ、上手すぎて足引っ張ってばかりだったからなー」


「私たちは両方下手だから、その点は大丈夫です」


そんな他愛もない会話の日もある。

颯太先輩がしゃべり続けているのを、笑いながら聞いているだけの日もある。


二人で歩く学校からの帰り道。

何かにふわっと包まれているようで、心が落ち着く。


「それじゃっ、ばいばい」


颯太先輩は、私をマンションの下まで送ってくれた後、来た道を帰る。

その後姿を見送っているとき、少しさびしくなる。

そして、なぜだかちょっと不安になる。




***




休みの日にも、ときどき、一緒に会うようになった。

今日も、その日だ。

メイクは、学校とは違う“おでかけ”仕様。


ベースは、色なしのトーンアップ下地だけ。

パウダーをふわっと重ねて、テカリを押さえる。


チークは、アプリコット系をほんのり。

アイシャドウはベージュ系でまぶたに少しだけ。もちろん、ラメはなし。

色つきリップクリームは、うすいローズ系で、つやと血色だけを少し。


髪は高めのポニーテール。前髪は少し巻いてふんわり。

服は、アースグレーのゆるふわシャツとチャコールのプリーツスカート。


やっぱりメイクがうまくいくとテンションが上がる。


デートのとき、いつも颯太先輩が言ってくれる「今日もかわいいね」のひと言。

それを思うと、朝のメイク時間ぜんぶがうれしくなる。

そんなときは、早く颯太先輩に見てもらいたくなる。


「よし!デートメイク、秋バージョン完成!!!」


早く颯太先輩に見てもらいたくて待ち合わせ場所のショッピングモールに急ぐ。



駅の改札を出た瞬間、颯太先輩がこちらに気づいて手を振る。

その瞬間、胸がくすぐったくて少しだけ目線をそらした。


「……めっちゃかわいい。今日も」


そう言って笑う颯太先輩に、リップのツヤがちょっとだけ照れくさく感じた。

メイクの仕上げに時間かけてよかったって、心の中で思った。




***




フードコートの席に向かい合って座って、クリームソーダを飲む。


「どこ行く? このあと」


颯太先輩はスマホを取り出して画面をさっとスクロールする。


「この"さよなら、未来のカケラ"ってSFアニメ、今やってるっぽい。ここの映画館で」


「SF……?」


「すごい映像だって評判、いや?」


「いえ、行きます」


館内は暗くて、席に座るとふわっとひんやりした空気。

予告が終わって、音楽と映像が大きく広がりはじめた――そのとき。


颯太先輩がそっと、手を握ってきた。


あったかくて、でも緊張で手のひらが少し汗ばんでいて、それを知られるのが心配だった。

心臓が急に、ばくばくと速くなった。


登場人物のセリフが全然頭に入ってこなくて、「ガガーン」とか「ギーン」とかの効果音だけが耳に残っている。

ドキドキが大きすぎて、画面のほうがぼんやりしていた気がする。




ハンバーガーセットのポテトをつまみながら、颯太先輩が映画の話をしてくる。


「後半の戦闘シーンすごくなかった?」


「……はい。たぶん」


「あと、主人公のノアが最後によみがえるときとかちょっと感動した」


「うん……なんか、すごかったですね」


そう言いながら、あいまいな返事しかできなかった。

握られた手が気になって映画どころではなかったとは、絶対言えない。


デートの帰りは、いつも颯太先輩はマンションの下まで送ってくれる。

そして、いつも通りに来た道を帰っていった。

先輩の後姿を見送りながら、いつものように、さみしさと不安がそっと胸に残る。




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