第十話 花火の下でほっこり
美幸先輩は、私と颯太先輩を見て、「ふーん」と小さくほほ笑んだ。
そのほほ笑みが、意味ありげすぎて、どう反応していいか分からなくなる。
「浴衣、がんばったねぇ。いい感じじゃん」
「えっ……どうも……」
先輩の視線が、こそばゆくて、視線を外すだけで精一杯だった。
「……マンゴーラッシー飲みたくなった。拓海、買ってきて。さっき通った屋台にあったやつ」
拓海先輩は、ほんの一瞬だけ美幸先輩の顔を見てから、うなずいた。
「……わかった」
そして、颯太先輩の腕を軽く引いて、「颯太はななみちゃんの分」と言いながら売店のほうへ連れていく。
「俺も?」
「二ついるからな」
「はいはい、ななみちゃんは、何かいい?」
「同じで」
二人の姿が人込みに消える。
***
「ななみちゃん、悠馬に、LINE送ったでしょ」
「……悠馬くんから聞いたんですか?」
「うーん。見てればわかる。あいつ、面白いほど、うろたえてたもん」
そう言って笑った。
「おかげで、また野球するようになったよ……ありがとね」
今度は、声がちょっとだけ真剣だった。
「はい。あっ、いえ、そんな……」
自分でも気づかないくらい、ほっとしてた。
「悠馬ってさ、昔から女子の前ではダメなんだよね。緊張しちゃって
特に……ななみちゃんの前では」
「はい。……えっ?」
聞き間違いかと思ったけど、先輩はうちわを止めて、
「うまく気持ちを伝えられない分、カッコつけようとしちゃうの。
そこんところは大目に見てやってね。姉としてお願い」
そういうと、笑ったままこっちを見た。
***
拓海先輩たちが戻ってきた。
颯太先輩が、マンゴーラッシーの蓋を開けて手渡してくれる。
「はい、気を付けてね」
「ありがとうございます」
冷えたカップが、手のひらにひんやりと心地いい。
「で、美幸、何話してたの?」
「秘密。女子トーク。ね、ななみちゃん」
ウィンクをひとつ送ってくる。
ストローを口元に寄せながら目を泳がせてしまう。
美幸先輩は、自分のマンゴーラッシーを受け取りながら、一口だけ飲んだ。
「じゃ、私たち行くから」
拓海先輩の手を軽く取って、夏祭りの人込みに向かっていった。
***
辺りが少しずつ暗くなって、空にぽんっと音が広がった。
花火が始まった。
けれど、周りの人の背が高くてよく見えない。
背伸びをしていると颯太先輩が、真顔で言った。
「見える? 肩車してあげようか?」
「えっ、ば、馬鹿!」
思わず口にしてしまい、すぐに顔が熱くなる。
「す、すみません……!」
「ごめん、ごめん。冗談だよ」
先輩は笑って、マンゴーラッシーをひと口飲んだ。
「もう……びっくりさせないでください」
私も、つられて笑う。
「やっと笑った。そっちの方が全然いい」
その言葉に、心臓がひとつ、とくんと打った。
「あっちの方がよく見えるよ。行こ!」
そう言って、先輩が私の手を取った。
何も言えずに先輩に手を引かれて、人込みの中を進んでいった。
浴衣の裾を気にしながら、はぐれないようについていった。
小高い土手の上にたどり着いた瞬間、パッと空に大きな光が広がった。
きれい……
夜風が少しだけ冷たくて気持ちよかった。
次々と上がる花火を、颯太先輩の隣に座って黙って見上げていた。




