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ガ島に量産型戦艦、空母が征く

作者: 仲村千夏

 南洋の海に沈む太陽を背に、鋼鉄の群れが進んでいた。トラック泊地を発して六日目。編隊の中心には、他国のどの艦とも異なるシルエットを持つ艦艇が並ぶ。


 量産随伴戦艦〈栄山〉。わずか一万五千トン、しかしその艦首には堂々たる36センチ砲連装砲塔が構える。前後に一基ずつ。副砲は持たぬが、高角砲と機銃座は空に睨みを利かせていた。


 その両舷には、量産随伴空母〈葛城〉〈朝風〉が護衛に付く。共に旧戦艦用船体を改設計して建造された“量産型軽空母”だ。戦線への迅速投入と柔軟な損耗補填を前提にしたこの艦隊こそ、南方戦域における“急造精鋭”だった。


     ◆


「米軍、ルンガ飛行場への補給を再開したとの報あり。潜水艦〈伊一七六〉からの電報です」


 艦隊指令部の無電室で報告が上がる。


「よし、第二機動打撃群、進路を南南東に変更。予定通り夜間突入だ」


 指揮を執るのは、南洋艦隊所属・中将・稲村重義。かつて艦隊派の一員として戦艦中心主義を唱えた彼が、今や空母と量産型戦艦の統合作戦を主導する立場にあるのは、時代の皮肉に他ならなかった。


「こんな小型艦で大艦巨砲に替わると思わなんだよ……だが、戦とは数じゃ。火の海に叩き込んでくれよう」


     ◆


 ガダルカナル島沖、8月21日夜――。


 月明かりを遮る雲の切れ間から、突如砲火が閃く。


「第一戦隊、前方の米巡洋艦に対し、主砲開放!」


 〈栄山〉の艦橋で指揮を執る艦長・志田彰は、左舷に現れた敵シルエットを見逃さなかった。米巡洋艦〈ヘレナ〉と〈サンディエゴ〉、それに駆逐艦4隻からなる巡洋隊。


 艦首砲塔が火を噴いた。轟音。三式弾を含む一斉射が、米艦隊の先頭艦へ降り注ぐ。


「命中! 〈ヘレナ〉に被弾あり! 火災発生!」


「速度を維持。右旋回、次斉射、目標〈サンディエゴ〉!」


 夜の海に火柱が咲く。だが相手もただではない。米駆逐艦が煙幕を展開、魚雷を発射。


「回避舵――間に合わん!」


 艦尾近くに魚雷一本が命中。爆発が船体を揺らす。だが〈栄山〉は沈まない。急降下爆撃を想定した耐衝撃構造が、致命傷を防いでいた。


「損傷軽微、推進力維持! 対空戦闘、用意!」


 夜が明ける――と同時に、敵機動部隊の艦載機が現れる。F4F、SBD、TBF……米空母〈ワスプ〉〈エンタープライズ〉から飛び立った精鋭たちだ。


「各艦、対空戦闘! 随伴空母隊より直援機、援護に向かわせ!」


 空母〈葛城〉から発艦する零戦が、空を裂いて突入。陣頭に立つ〈栄山〉の周囲は、機銃と高角砲の火網で包まれる。


「直撃弾、艦首右舷! 被弾三箇所、浸水軽度!」


「敵機、残り二機! 撃墜確認!」


 被害はあったが、艦隊は踏みとどまった。そして、零戦一個中隊が敵急降下爆撃機編隊を攪乱、〈朝風〉からの攻撃隊が敵空母〈ワスプ〉を急襲。


「雷撃成功! 敵空母、火災確認!」


     ◆


 戦闘後のトラック泊地。


 〈栄山〉は応急修理のためドック入りしていた。船体は抉れ、主砲の砲架には敵弾が食い込んでいる。


「まるで、軍神を生け贄に差し出すようだな」


 艦隊司令の稲村は呟く。共に戦った随伴艦の〈真城〉は、魚雷で沈没。〈朝風〉も飛行甲板を半壊しながらも帰還。


 だが、米空母一隻撃沈。巡洋艦一隻大破。戦果は決して小さくなかった。


「このふねらが戦いの矢面に立ち、大艦を護った」


 戦艦〈長門〉や〈大和〉を温存しつつ、量産艦で前線を支える――それが、条約派と艦隊派が苦闘の末に辿り着いた、新たな答えだった。


 これまで「質」にこだわった日本海軍が、「数」で敵を圧するという逆説。海の上の小さな艦艇たちは、その矛盾を引き受け、死線を潜り抜けていた。

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戦艦というか、モニターか海防戦艦あたり?
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