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第92話 自己嫌悪の時間はおしまい


 鹿島が女子相手にそんな事やってるの、初めて見た。


 はああ? キレそうなんですけど……。


 て言うか、なんで家に遊びに行く予定まである感じなの? おかしくない? え、この子なんなの?


「……じゃあ、私はもう行くから。てか、やっぱり松下さん優先してあげていいよ。会うの久々なんでしょ?」


「いやいや、俺も行くから大丈夫だって」


「久々ー! ゴールデンウィーク前にちょっと会っただけですもんねー」


 何それ。鹿島って結構遊んでるんだ。勉強ばっかりしると思ってたのに。


 プライベートではこんな可愛い後輩と遊んでるとか……。私、馬鹿みたいじゃん。


「待って待って、吉永。んじゃ! また連絡するから、ちゃんと勉強してろよー」


「うぃー。吉永先輩もまたです! 深山に入ったら宜しくお願いしまーす」


「うん、またね! 松下さん」


 元気よく別れの言葉を口にする後輩ちゃんには悪いけど、私はもう会いたくない。


 それでも、鹿島の手前と言う事もあるので、なんとか愛想笑いを浮かべて返事をした。


「よ、よし、行こう吉永。何処か行きたい場所がある感じ? 付き合うよ」


「別にないですけど? てか、松下さんと遊びに行くならもうよくない? 鹿島が困ってるのかと思って適当言っただけだしね。私はもう帰るから後は二人でごゆっくりー」


 あーあ……。また私めんどくさい事言ってる。


 我ながらホントめんどくさい性格してる。


 ひねくれ過ぎ。自分が嫌になる……。


 隣を歩く鹿島に素っ気ない返事をした私は、さっさとビルから出ようと早足で通路を歩く。


「ああー、まあ、そっか。あー、いや、でも、吉永が帰るなら俺ももう帰るかな」


 こう言う態度を取れば、鹿島が構ってくれる事を知っているから。


 不調とか好調とか、不機嫌だとか機嫌が良いとか。


 鹿島はそう言うのに敏感なのか、元気無さそうな人とか不機嫌そうにしている人の相手をしては自然と笑顔にする、そう言う人だと知っている。


 ちょっと不機嫌になったら構ってくれるのは……知ってる。


「吉永も色々忙しいだろうに、今日は無理言って付き合わせて悪かった、本当に助かったよ。まあ、どうせ帰り道同じなんだから一緒に帰ろうぜ」


 それがわかっているのに、わざわざこんな態度を取って鹿島に構って貰おうとする自分が、心底情けない。絶対めんどくさい女子って思われてる。


「いやー、それにしても相変わらずボロいビルだったよなー、ははは」


 私が不機嫌そうなのがわかったのか、鹿島がいつもの三割増で明るく振る舞ってくれている。


 鹿島に気を遣わせたいわけじゃないのに。こんな事で構って欲しいわけじゃないのに。


 感情が行方不明で言う事を聞いてくれない。


「てかさ、俺らの時よりちょっと生徒多かったよな。って事は、俺達が実績を残せばあの塾も儲かってそのうち綺麗になったりしてな」


 気を遣わせたいわけじゃないけど、私の事だけを見ていてくれる今を嬉しく感じてしまっている。


 だけど、それは良くない。絶対に良くないよね。


 このままだと私は、ただ痛い性格の残念な女になってしまう。それは嫌。


 鹿島にそんな子だって思われたくない。


「──あー……、あのさ、鹿島」


「どうした?」


 まだ中一の葵ですら言っていた。恋は早い者勝ちだって。


 だから、この夏だ。


「えーっと……。その、うーん、やっぱり、ちょっとだけ寄り道していい?」


「おっけー。まだ昼だしな。何処でも付き合うよ。何処か行きたい場所あるのか?」


 この夏に鹿島との距離を縮めて、結論を出そう。


 きっと、私が考えているよりずっと早く、高校生なんてあっと言う間に終わる。


 私の知らない所であんな可愛い後輩と遊んでるくらいだから、鹿島に彼女が出来るのは、もう秒読みな気もする。


 それにあの後輩……松下さんの事やっと思い出した。


 卒業式の日に、泣きながら鹿島の制服からボタン剥ぎ取ってた子だ。


 鹿島と出会った時期が遅かったから詳しくは分からないけど、それでも何度か学校で一緒にいる姿は見た記憶がある。


 どう言う関係なんだろう。本当に仲良さそうだった。今の私より、ずっと……。


 ううん、ううん! 関係とかどっちでもいい。


 考えている暇があるなら動かないと、絶対に後悔する。


「とりあえずご飯食べて、その後ちょっと、あの、水着選ぶの付き合ってよ」


「ごは──え? 水着? 俺が? 近藤とか姫野さん達と買いに行くんじゃなかったっけ?」


「いや、別にいいじゃん。冬が鹿島達と一緒に水着買いに行こうって言った時は“ないなー”って思ったけど、よくよく考えたら男子の意見もちょっと欲しいしねー」


 大丈夫、大丈夫なはず。


 鹿島は私の事も可愛いと思ってくれているみたいだから、チャンスがゼロって事はないはず。


「だったら今度青島達も誘って皆で行くとかは?」


「……別にそれでもいいけど。もしかして鹿島、私と二人だと水着選ぶの恥ずかしとか?」


「いやいや! 別にそう言うんじゃないってか……。まあ、吉永が良いなら、いいよ。わかった。付き合うって。任せろ」


 まずは自分をアピールして、それからアプローチ。


 何となく、鹿島の顔がいつもより赤いような気がするけど、これはどっちなんだろう。


 暑いからなのか、それとも意識してくれているのか。どっちなのかな。


「でも、その前に早いとこ何処かの店入って涼むか」


「あ、うん。ちょっとお昼には早いけど、今なら空いてるだろうしね」


 ボロいビルから出ると、一日中曇り予報だったはずの空からは陽が差していたけれど、私がそれに気が付いたのは、鹿島がさり気なく影がある場所に私を入れてくれた時。


 動きが自然過ぎてヤバイ。格好良い。


「まあそれもあるけど、吉永ちょっと顔赤いからさ。今は熱中症も怖いから早いとこ移動しようか。水着見に行くかどうかは飯食ってから、体調見て決めよう」


「……え? あ、うんうん!」


 って、そうだよね。それはそうだよ。鹿島の前に私の方がずっと照れてるよ。


 男子に水着を選ぶの手伝って欲しいなんて言ったの、生まれて初めてだし。


 死ぬ程恥ずかしいっての。顔くらい赤くなるよ。


「さーて、なに食べるかなー。吉永は何か食べたいものある?」


 こっちの気も知らずに平然として……。


 葵の言う通り、恋は早い者勝ちなのかもしれない。


 だけど、恋愛なんて好きになった時点で負けなのかな、とも思う。


 私は目を合わせるのだって精一杯なのに、鹿島ばっかり普通にしてて、ずるいなぁ。

そんな事をしている時間は、あんまり残されていない気がするから。

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鹿島君もいっぱいいっぱいなんだよなあ…
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