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第81話 少しずつ変わっていく


「次は顧問のお話なのですが、料理倶楽部の顧問が進藤先生から雨宮先生に変更になりまーす」


「おおー!」


「雨宮先生?」


「へー」


 部長の言葉に、部員の口からは思い思いの言葉が漏れた。


 俺はと言うと、たいして興味が無かった。


 何故なら、顧問が変更すると言っても、そもそも進藤先生なんて殆ど部室に居なかったから、正直どんな先生なのかもわからないから。


 それに、顧問が変更したからと言って、だから何がどうなるんだ? と言う感想くらいしか湧いてこない。


 要するに、たいして興味がなかったんだけど──。


「進藤先生はあんまり部活に顔を出してくれないダメな顧問ですからねー。名前だけのお飾り顧問を追い出して、新しい顧問をお迎えしたと言う事ですねー」


 ニコニコ笑って話している安藤部長は可愛らしいけど、言っている事はえらく辛辣だったので、顧問変更云々よりそっちが気になった。


 ほら、俺以外の部員もどう反応すればいいのかわからない、って顔してるじゃないか。


「どうして顧問が変わるんですか! 進藤先生ご病気なんですか?」


 そんな中でも、姫野だけは平常運転。


 今の部長の発言を聞いて進藤先生が病気だと思ってしまう所は、姫野の人の良さと言うか育ちの良さが垣間見える。……だけど、絶対に病気ではないと思う。


「進藤先生はピンピンしておられますねー。でも料理倶楽部の顧問としてはダメダメだったので、もう少し部活動に顔を出してくれて、もう少し料理に興味がありそうな先生を顧問にして貰ったのですよー」


「して貰ったって……」


「うん、そうだね。僕たち三年が生徒会を通じて交渉をしたんだよ」


 部長の発言を聞いて呟いた俺の言葉。


 それを拾って答えてくれたのは、新見先輩と寺尾先輩だった。


「生徒だけで楽しむのも悪くはないんだけど、多少は熱心な先生が顧問についてくれる方が、部活としても面白味が出るんじゃないかなってね。部長と新見君と話して交渉してたんだよ」


「まあ、僕らはもう引退するからあまり関係ないんだけど。それでも、料理倶楽部がこれからもずっと続いて行くのであれば、やっぱり料理倶楽部に対して少しでも真剣に向き合ってくれる顧問は必要だろうと思ってね」


「来年の今頃には私達はもう深山にはいないから、この三年間、上手く部活を盛り上げられなかった私達に出来る最後のお仕事みたいな感じ、かな?」


 新見先輩と寺尾先輩はそう言うと、岩瀬先輩が座っているテーブルと、俺達一年生が座っているテーブルに向かってニコリと笑いかけてくれた。


「ありがとうございます! 部長たちのお陰で、遂に料理倶楽部は最強の顧問を手に入れたんですね!」


「姫野さんの中で料理倶楽部がどう言う立ち位置なのか気になるねー。傭兵部隊か何かなのかなー」


 両腕でガッツポーズをしながら話す姫野を、いつも通り部長が受け流す。


「最強かどうかはともかく、生徒から要望を出して顧問の変更要請なんて出来るものなんですね」


「確かに。部活の顧問って、お願いしたら変わって貰えるものなんですか?」


「全然聞いて貰えなかったですよー。もう新学期始まっちゃってるから、来季からなら対応も可能だって言われたのですが、今すぐは色々と難しいって言われてしまいましてねー。これが中々に大変だったんですよー」


「へー? それでも変わって貰えたんですね」


「どうやって新しい顧問が決まったんですか?」


 姫野と部長のやり取りを適当に眺めつつ、俺と中野が適当に質問をしてみる。


 すると、新見先輩と寺尾先輩が二人で見合ったかと思うと、またまた何とも言えない微妙な表情を浮かべてしまった。


 なんだ?


「いえいえ。料理倶楽部の顧問が変わってくれないなら、それが心残りになって東大受験やる気なくなるかもしれないーってお話をしてたら、紆余曲折合って雨宮先生が引き受けてくれる事になったんですよねー」


 何でもない風に、相変わらずニコニコと話す安藤部長。


「ああ、ほらほら? 合格確実って言われていた八重島先輩が東大受験失敗してくれたお陰で、受験失敗の実績もありますしね? これはもしかすると同じ事が起こるかもしれないなーってお話をしてただけなんですけど、そしたら動いてくれたんですよねー」


 内容を聞いて納得した。


 それは新見先輩も寺尾先輩も微妙な表情になるよ。


 なんだったら、俺も今微妙な気持ちになってるし……。


 教師を脅迫するような真似までしてるのか、安藤部長。


 それから、どんな人なのか知らないけど、八重島先輩の受験失敗を実績とか言うのやめてあげてください。


 進学実績。それも東大に現役合格可能な生徒の実績であれば、進学校であれば何処だって、喉から手が出るほどに欲しい。


 安藤部長が実際の所どの程度のレベルの人なのか詳しくは知らないけど、教師陣が重い腰を上げて部活の顧問をポンと変える程度には、全国模試の成績も高いんだろう。


 つまり、部長は高校三年生の一学期のこの時点で、本当に東大合格が可能な範囲にいると教師陣が認めて期待している生徒だと言う事だろう。


 東大の何処を受けるのかは知らないけど、やっぱり凄いんだなぁ、部長。


 なんとなくだけど、部長って独特な世界で生きてる感じするし、天才肌とかそう言う感じなのかな。


「……それって、その、脅迫じゃないんですか」


 そして、俺が言わないようにしていた事を、中野がボソっと呟いてしまった。


「ふふふ。仮にそうだとしても、これは皆が幸せになれる良い脅迫ですね。私達は受験に集中したい、料理倶楽部は熱心に指導してくれる顧問が欲しい、進藤先生は今まで通りのんびりできる。大団円ですよー」


 パチパチと拍手をする部長に続いて、凄い凄いと言いながら嬉しそうに拍手をする姫野。


 その様子を黙って見ていた俺は、同じく黙って様子を見ていた吉永と目を合わせて軽く頷いて思った、安藤部長とはこれからも仲良くしようと。

ずっと一緒は無理だとわかっているけど、ちょっと寂しい。

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