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第78話 輝いて見える世界


 世界が輝いて見えるとは、こう言う事を言うのかもしれない。


 私も鹿島の事大切に思ってるから。


 吉永の言葉を思い出す度に、顔が勝手にニヤけてしまう。


「おはー。なに蒼斗、なんか機嫌良い感じ?」


「いやぁ? 普通だけど? なんで?」


 教室に入って適当に挨拶をしながら自分の席に向かうと、勉強中だった青島が顔をあげてこちらを向いて、そんな事を言って来た。


 もちろん、全然浮かれてなんかいない。


 吉永にはただ、友達として大切に思っていると言われただけでしかない。


 異性として素敵だとか、男として好きだとか、そう言う事を言われたわけでは無い。


 改めて大切な友達だと言われて、仲良くしようと言われただけの話。


 その程度の事でいちいち浮かれていたら、疲れるだけだからな。


「いや、なんてーか、笑ってるって言うか。ニヤついてるって言うか。なんかあったのかなって」


「あれ、そうか?」


 どう言う訳か、吉永の席がある方向を直視出来ないと言うだけで、それ以外はいつもと変わらない。全然浮かれてはいない。


 いや、やっぱり浮かれているかかもしれない。そうだな、浮かれてるな。


「何でもないなら別にいいけど、元気なら良かったよ」


「……ああ。うん、さんきゅな」


「いや、結局俺は何も出来ないから。礼を言われる程の事でもないってか」


 席に座って、鞄の中から取り出した教科書を机の中に移動しながら始まる、いつも通りの朝の会話。


「んな事ないって。康太と服部が居てくれるだけで心強いって。てか、服部は?」


「あー、三組だったかな? なんか剣道部の人と話してくるとか言ってたような気がする。八月に大会あるとか言ってたしそれ関係じゃないか? 部員数少ないとか言ってたから、色々あるんじゃないかな」


「なるほどー。運動部に入ってる人ら見てると、休む暇なさそうに見えるんだけどさ。俺ら中学までどうやって生活してたんだっけ」


「マジそれな。中学まで朝も夕方もずっと野球やってたけど、今考えてもよくやってたと思うわ」


「な。でもさ、部活終わってから勉強してたけど、部活の後ってなんか集中できなかった? 俺の場合は結構スッキリしてたわ。まあ疲れてる時はめっちゃ疲れて、勉強どころじゃなかったけど」


「あー、そうな。すげぇ疲れてるんだけど、頭はちょっとスッキリするんだよな。だから今は帰ったらちょっと走ったり筋トレして、身体動かしてから勉強してるわ。……野球部に入らなかった意味ないかもしれない」


 特に中身のないどうでもいい話を青島としながら、ホームルームが始まるまで何か適当に勉強をしようかと、俺も教科書を開く。


「スッキリするとかスッキリしないとか何の話ー?」


「教室の隅でやらしー」


 すると、青島と俺の後ろの席の女子、井伊いい優菜ゆうな柏木かしわぎ白夜はくやが、いつの間にやら着席していて会話に乱入してきた。


 小学校中学校でもそうだったけど、席が近い人と仲良くなるのは高校でも同じなのだろう。


「や、やらしいとかそう言うんじゃなくてだな」


「そうそう。俺達は運動した後の勉強は頭がスッキリしていいよなーって話をしてただけだから。イーサンと柏木さんが考えてるような楽しい話題じゃないんだなー、これが」


 青島は男同士でも下ネタ会話がちょっと苦手と言うか、少し恥ずかしがる奴なので、当然ながら女子に振られると慌ててしまう。


 イケメンなのに初心とか、中々に良いギャップを持っているが、どちらかと言うと真面目と言った方が良いかな。


 根が真面目だから、真面目な服部と仲が良かったり真面目一徹の田邊の事が好きなんだろう。


 もちろん、俺もその手の話を振られたりでもしない限り、下ネタに走る方では無い。


 だから、女子相手に話すのは恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど、多少は慣れていると言うか、耐性があると言うか。


「もー、イーサンはやめてって言ってるのにー」


「え、イーサンはイーサンじゃないの?」


「鹿島君の発音絶対に外国人意識してるじゃん」


「してますけど?」


「ほらやっぱり、だから優菜で良いって言ってるのに。私はどっかの国のスパイじゃないから」


「おお? てか、井伊さんってあの映画見た事あるんだ? 俺もサブスクで──」


 後ろを振り向けばケラケラと笑う井伊と柏木が居て、視界の端に見えた吉永もまた、俺や青島と同じように近くの席の人達と楽しそうに話しているのがわかって、席が遠いなと、心の中で軽く溜息を吐く。


 勝手にチーム近藤と呼んでいるクラスメイトの女子たち。


 俺と青島の後ろの席周辺に固まっている女子は、全員ダンス部所属の活発的なタイプばかりなので、中々なパワフルさに押される事がある。


 距離を詰める速度が速いと言うか、距離感が近いと言うのは彼女達のような人達にぴったりなのかもしれない。


 今も柏木は俺の座っている椅子の背もたれを掴んで引っ張って、ガタガタ揺らして遊んでるし。何が楽しいのかはわからないけど。


「よはーっす」


 そんな井伊と柏木に気を取られていると、更にもう一人。


 後ろを向いていたせいで気付かなかった俺の背中に、別の女子の挨拶が聞こえて来た。


 あろうことか、適当に勉強をしようと机の上に置いた教科書をひょいと持ち上げて、勝手に俺の机の中に突っ込んだそいつは、当たり前のように俺の机の上に座る、いつも通りだけど。


 そんな感じで、たった今挨拶をして来た女子、近藤こんどう凪々(なな)もそうだけど、チーム近藤は全体的に自由な気がする。


 俺や青島が適当に挨拶をしていると、井伊と柏木が手を振りながら賑やかに挨拶をするわけだが、そう言う挨拶は俺と青島が居ない所でやってくれ。


「机の上に座るなって。座りたいなら俺立ってるから」


「いいよー、そこまでは悪いしー。私がシマっちの上座るからー」


「座んな、厚かましい。六月も下旬になると暑いんだからやめてくれ」


「じゃあ涼しくなったら座るからよろ~」


「よろじゃないから。てか、どけって。ほら、俺の椅子座ってていいから」


「シマっちやさし~。お礼にこの教科書あげるね」


「元々俺のだわ」


 ギャルとまではいかないのかもしれないが、姫野とはまた違った方向に近藤も自由奔放ではある。


 こんな感じでも勉強はそれなりに出来る上に、授業態度も部活も学校行事も非常に真面目に取り組んでいるので、普通に良い奴である事は間違いない。


 休み時間に近藤達が勉強している姿を見た事はないけど、テストの点数もそれなりに良かったから、単純に頭がいいタイプなのかもしれない。そうだとすれば嫉妬しよう。


 教室なんて男子は男子、女子は女子で集まって話すのが殆ど。


 なんだけど、俺とか青島とチーム近藤みたいに、席が近ければそんなの関係なくベラベラ喋ったりもしない事も無い。


 チーム姫野も周辺の男女が集まって何やら盛り上がっているので、教室内でのグループ分けなんてそんなものだろう。


 俺としては、出来れば吉永の所属するチーム姫野に混ざりたいけど……。


 休み時間になる度に吉永の席に足繁く通って話をしていたら、普通に勘繰られると言うか、最悪キモがられる可能性もある。


 なので、その辺に関しては流れに身を任せるしかない。


 いわゆる、空気を呼んだコミュニケーションを取るしかない。


 とは言え、青島が田邊の席まで移動してくれれば俺も何食わぬ顔で青島の後ろについて行って、その途中で中野と話したりして、偶然を装って吉永とも話せたりもするんだけどなー。


 たまには移動してくれないかなー、青島。


 それか、吉永がこっちに来てくれたりしないかなー……とか。


 今は、吉永ともっと話したい気分。

もっと吉永と話したいんだけど、なんて話しかければいいんだっけ。わからなくなってきた

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