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第76話 最初の1をくれた人だから


 勉強会が無事に終わると、私は一人部屋に閉じ籠って、更にベッドの中に潜り込んだ。


『吉永の事が大切だからに決まってんだろうが』


 ヤバイ、鹿島本当にヤバイ。


 誰にでもあんなのやってるんだとしたら、本当にヤバイ。


「ううううう」


 布団に包まりながら、ベッドの上をゴロゴロと動き回った私は、今日の出来事を思い出して悶絶していた。


 女子も男子も関係なく接するし、運動神経抜群だし、頭超良い。


 恥ずかしい事とかさらっと言うのに全然似合ってるし、どんどん格好良くなるし、そりゃモテるよ。


 それはモテて当然でしょ。


 一組の女子が鹿島鹿島って言う気持ちはわかるよ。


 私もその一人だしね!


 あんまり詳しくは知らないけど、突っかかって来たはずの中野といつの間にか仲良くなってたり、クラスの人達と豆にリリンクしてるのも知ってる。


 鹿島が誰にでも優しくて、誰とでも仲良くなれる事は知ってる。


 でも、私はその他大勢の中の一人にはなりたくない。


 鹿島の特別になりたい。


『吉永の事が大切だからに決まってんだろうが』


「ううううううう」


 思い出すだけで悶え過ぎて死んでしまいそう。


 ……まあ、友達として大切って意味だったけど。


 それでも、大切だと思ってくれているのはやっぱり嬉しい。


 どのくらい大切なのかな。聞いてみたいかも。


 聞いてみよう。


『私の事友達として大切って言ってたけど、どのくらい大切なの? 友達ランキングみたいなのあるの?』


 いや、聞けないでしょ。


 舞い上がり過ぎて頭がおかしくなっているのか、リリンクに打ち込んだチャットを目にした私は冷静になって、送信する前に慌てて消した。


 でも、何か話したい。


 少しでもいいから、なんでも良いから、鹿島と話したい。


 彼ピ好きピ! みたいな事を言っている女子と自分は、違う生き物なのだと思っていたけど……。実はそっち側だったのかもしれない。


 鹿島しゅきピ過ぎる。


 大切にされているとわかった途端にもっと話したくなるとか、自分の事ながら浅はかさに呆れてしまう。


 もちろん、大切と言っても鹿島からしたらただの友達で、鹿島の事だから青島や服部相手にも同じ事を普通に言いそうだし、夕花や愛実にも──冬にも……。


 わかっているけど、嬉しい気持ちは抑えられない。


 勉強そっちのけで、スマホを片手にベッドの上をゴロゴロするなんて、私はどうかしてしまっていると思う。


 そんな事をしている暇があるなら、机に向かって一つでも何かの単語を覚えた方が良い。


 そんなのわかってるけど。


「うううううう」


 でも、そんな事言ったって集中出来ないんだからどうしようもない。


 三好の時とは本当に何もかもが違う。


 こんなにも情緒が乱れる事なんて無かった。


 たぶん、三好の事も好きだったのだとは思う。


 それでも、今になって冷静に振り返ってみると、やっぱり恋とは少し違ったのかもしれないとも思い始めている。


 仲の良かった友達も、私にべったりだった妹も、悠馬も、皆が冬を好きになる。


 皆の一番が、いつの間にか私から冬になってしまう毎日。


 だから、私はただ、冬に取られたくないと思った。


 誰か一人でもいいから、誰かの一番になりたかった。


 三好悠馬は私が持っている一番だったから、それを必至に守りたいと思っただけで……。


 もしかすると、恋とは、少し違ったのかもしれない。


 でも結局、三好の一番が冬になった事で私には何もなくなってしまった。


 だから、高校から始めようと思った。


 ゼロから。冬のいない場所で。私を知る人が誰も居ない場所で、ゼロから。


 そう思っての受験勉強だった、はずなんだけど──。


『好きな人に振られて涙も流さないような恋愛なんてクソ食らえって事だ』


 鹿島は。


『吉永さんは良い恋愛をしたはずだよ』


 夏期講習で再開した鹿島蒼斗は。


『とりあえず、さ。今は勉強に逃げてもいいんじゃないの? 学校が世界の全てじゃないでしょ』


 冬に全部取られて何もなくなってしまった私の側に、ただ居てくれた。


 告白の話を蒸し返す事もなくて。


 黙って、ただ一緒に勉強をしてくれた。


 0から頑張ろうと思った私に、最初の1をくれた人。


「鹿島、蒼斗」


 何を考えているのかよくわからないけど、優しくて、落ち着いていて、気配りができて、男女問わず人気があって。私の好きな人。


 鹿島の事を考えると心が温かくなる。強くなれる気がする。


 私の手を取って欲しい。私の方を向いて欲しい。


 鹿島の一番に、鹿島の特別になりたい。


 でも、もし仮に恋人になれなかったとしても、結婚出来なかったとしても、受け入れるつもりではある。


 ……きっと、死ぬ程辛くて、凄く泣いてしまうだろうけど、それでも、鹿島が選んだ人なら泣きながらでも祝福しようとは思っている。


 本当に好きだから、本当に大切だから、鹿島が幸せなら、私は──。

幸せになって欲しいと思ってる

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