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第74話 ホームグラウンドのはずなのに


「母さんはもう一回買い物に行くから、二人はプリンでも食べて寛いでなさい。それじゃあね、吉永さんもゆっくりして行ってねー」


「あ! えっと、はい! ありがとうございます!」


 四個セットの安物のプリンを一つペロリ食べた母は、そのまま家から飛び出してしまった。


 なんともアグレッシブな人だ。


 家でのんびりすると言う概念が抜け落ちている人だからな。


 まあそれも、いつもは特に気にする事も無かったんだけど、今日に関しては出来れば家に居て欲しかったような、居て欲しくなかったような──。


「す、すごいね、トロフィーいっぱい。全部サッカーの?」


「ああ、えっと、まあ。小さい頃からやってたから無駄に多いだけで、たいしたのは無いけどな」


「そ、そっかー」


「そうそう」


 また話が終わってしまった。


 テーブルで向かい合って座る俺と吉永だが、今日に限って話がまるで続かない。


 自分の家に吉永すきなひとが居るだけで、ホームがアウェイに変わるとは思わなかった。……何だ、この緊張感は。


 吉永もさっきから全然目を合わせないでキョロキョロしてるから、居心地が悪そうなのは何となくわかるけど……。


『プリン食べたしもういいよな、バイバイ!』


 ってのは、流石にどうかと思う。どうしよう。


 お互い無言でいる時間が多いせいで、テレビの音が無駄に大きく感じてしまう。


 さっきまで一人でいた時はテレビの音なんて全く耳に入って来なかったのに、吉永が近くにいるだけで神経が研ぎ澄まされるような、そんな感覚。


 ごちゃごちゃ考えているけど、要するにとても嬉しい。


「えっと、お茶のおかわりいる?」


「あ、うん、じゃあ、貰おうかな」


 いやいやいや、何杯目のおかわりだよ。


 俺もそうだけも吉永も、お茶飲んでずっとテレビ見てるだけって……。


 いや、それはそれで、落ち着いた老夫婦みたいでいいか。


 って、違うだろ! 何を考えてんだ、俺は。


 何か話す事ないか。何か──。


「あ、てか、勉強会は?」


「あー……。えーっと、皆家でやってるんだけど、私は、ちょっと、買い物に行くって事で」


「ああ、なるほどな。買い物は終わったのか? 見た感じこれから?」


 ハキハキ喋る吉永にしては歯切れが悪いと言うか、今日は最初からちょっと様子がおかしい気もする。


「あ、いや、ううん。買い物は、嘘で……。その、鹿島が体調崩したって、聞いたから、大丈夫かなって、思って」


 お茶の入ったコップを両手で持ちながら、ぽつりぽつりと話す吉永を見ていると妙に恥ずかしくなってしまい、気が付けば俺も同じように両手でコップを持っていた。


「そう、だったんだ。何か、その、悪かった」


「こっちこそ! すぐ帰るつもりだったんだけど、部屋の前に居たら鹿島のお母さんと会っちゃって、なんか、なし崩し的に、なんと言うか……」


 あー、なるほど。


 ……吉永を見つけた母さんとその後の展開は、容易に想像できる。

 

「なるほどな。母さん良い人なんだけど強引な所もあるからなぁ、なんて言うか、迷惑かけたのは代わりに謝罪しとくので、どうかお許しを」


「いや! だから、迷惑とは思ってないから。嫌とかじゃなくて、鹿島の家に入るの初めてで、だから、正直ちょっと緊張してる。……ふふふ」


 普段より少し朱色の強い顔で、目を細めながらそんな事を言う吉永を見ると、色々な言葉が頭に浮かんできた。


 惚れた弱みだの、惚れた方の負けだの。


 偉大なる先人の方々は随分と的確な言葉を残したものだと呆れつつも、結局はそう言う事なんだろうなと思った。


「そんな事言ったら俺も緊張してるわ」


「え、え? そうなの? なんで?」


「なんでそこで驚くんだよ。……あ、いや! 誤解はしないで欲しいんだけど、何か変な事考えてるとかじゃなくてな? まあ、なんだ、自分んに女子が来たら年頃の男子は緊張するんだって」


 しかもその相手が意中の人なら尚更。


 もちろん、女子を連れ込む事に慣れてる男なら、いちいちこんな事で緊張する事はないんだろうけど……。


 いや、普通緊張するだろ。しないのかな、みんな?


 それはまあ、ただの友達ならあんまり気にならないけど、好きな女子と家で二人きりって。


 俺が色々考え過ぎているだけの可能性もあるけど、好きな女子と自宅で二人きりと言う状況で、平然として居られる程の頑丈なメンタルは持ち合わせていない。


 吉永相手だと、どうしても考え過ぎてしまう。


「いや、だって……。あー、そっかあ」


「そうそう。お互い緊張してるって事で、今日の所は勉強会に戻った方がいいんじゃない? さっきからリリンクの通知鳴りまくってるじゃん」


「あ、う、んうん」


「早く戻らないと皆心配するんじゃないか?」


「あ、でも、もう少しくらいなら、別に……」


「別にって」


 吉永が何を考えているのかはわからない。


 だけど、そんな見るからにガチガチに緊張するくらいなら帰った方が良いだろ。


 心配してくれるくらいだから嫌われてはいないと思うけど、二人きりの状況をガチガチに警戒してるっぽいのも事実と言うか……。


 いや、まあ、確かに頭の中で色々考えているけど、なんもするつもりはないから、そんなに警戒しないで欲しい。


 それか、アレか? 女子の間で何か悪い噂でも流れてんのかな。


 中野も最初は俺の事をチャラチャラしてるとか言ってたから……。


 え? もしかしてクラス的にはそう言う感じで見られているのか、俺?

想像絶する緊張を感じている、ヤバイ

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