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第7話 深入りするつもりはないから


 ケラケラと笑う青島と服部。


 二人の名前はたった今魂に刻み込んだから、安心しろ。


「いやいや、康太も宗一郎もいい名前だって。でもそれならどうするかー」


「どうするって?」


「いやさ? 青島が青って呼ばれると俺がビクついちゃうから、苗字じゃなく名前呼びにして貰うかなーって思ったんどけど」


「ああ」

「はいはい」


「でも、アレだろ? 二人共名前呼び微妙な感じ?」


「いや、別に俺は康太でいいよ。部活ん時は名前で呼ばれる事もよくあったし、当たり前だけど家族は康太って呼ぶしな」


「別に俺も宗一郎でいいんだけど。単純に長いだろ、宗一郎は」


「確かに、宗一郎はちょっと長いか。んじやぁ、服部は追々考えるとして、青島の事は康太って呼ぶ事にするから──」


「俺は蒼斗って呼べばいい感じ? ん? いや、鹿島は鹿島でいいのか?」


「俺だけ名字呼びってのも嫌だし蒼斗で頼む」


「オッケーイ」


「康太と蒼斗はわかったけど、俺は?」


「服部?」


「服部でいいんじゃないか?」


「もうちょい考えろって」


 高校に入学して二日目。


 自己紹介を終えた生徒はそれぞれに新しいグループを形成し始めて、新しい生活を歩み始める。


 そして、俺と青島と服部が名前トークで盛り上がり笑っているように、同じ教室の別の場所では姫野冬華と吉永紅葉がクラスメイトに囲まれていた。


 視界の端にチラリと見えたその光景が、気にならないと言えば嘘になる。


 だけど、今の俺にはこの二人との話の方がずっと大事で、ずっと楽しい。


 新しく始まった高校生活で早速できた新しい友達との会話が、楽しくないわけがない。


「じゃあやっぱり、新しいのを考えるしかないか」


「新しいのって何だよ」


「服部の新しい名前?」


「ほら、思い出して欲しいんだけど、天草四郎みたいなのいるじゃん?」


「ああ、天草四郎な。島原の乱の?」


「服部半蔵とか言うのは無しだからな。それはもう小学生の時に通り過ぎた」


「いや違う違う、そんな単純なあだ名じゃないって」


「だったらどんなだ」


「ほらほら、あいつって天草四郎って呼ばれてる癖に本名は益田時貞で、なんだったら天草四郎時貞とか呼ばれてるだろ?」


「うん?」


「そうだけど、で?」


「で、服部も本名が服部宗一郎だとしても、天草四郎みたいな新しい名前を考えればいいんじゃないかってさ」


「おおー、それは盲点だったわ。新しい名前か」


「おおーじゃねえよ。それもう俺関係ねえだろ。康太も、なに感心してんだよ」


 男子三人集まれば馬鹿話。


 それは小学生から定年退職まで変わらない男子の真理。


 そして、そんな何も考えていない頭空っぽの会話をしていた俺達三人が笑っていれば、周囲のクラスメイトも集まって来たので、まずは席が近いクラスメイトとの自己紹介。


 そんな感じで楽しんでいるうちに、休み時間は過ぎて行った。


 ◇


 次の休み時間は少し校内を散策しようかと思って、一人行動。


 狭いわけではないがそんなに広いわけでも無い深山高校だけど、一年から三年までの教室のある旧校舎と、各種部室や最新の施設が整った新校舎の、大きく分けて二つの校舎がある。


 その為、これから授業が始まった時に移動教室の時に迷子にならないようにと思って、校内探索をしていた所。


 旧校舎と新校舎を繋ぐ渡り廊下を歩いていたタイミングで、ふいに声が掛かった。


「何やってるの、鹿島? 何処か行くの?」


 背後から声を掛けて来たのは吉永だったわけだけど、声を聴いただけで誰かわかったので、特に驚きはない。


「よっす。俺はあれだ、校内探検でもしようかなって。てか、吉永は?」


「えーっと、ううん、別に。私は何となくだけど──。あー、自販機どこかなって」


「ああ。自販機ならさっき見たよ。案内しようか?」


「あ、うん。なんか、探検の途中でごめんね?」


「別にいいって。探検って言うか、俺もただ校内見て回ってただけだから、行こうぜー」


「いこいこー」


 こう言う事があるから、下見は大切だと思う。


 自販機の場所を調べておいたお陰で、吉永と一緒に歩ける時間が発生したのは僥倖と言えるだろう。


「あ、て、てかさ、鹿島サッカー部には入らないんだ?」


「うん? うん、だなー。てか、それ言ったら、吉永も吹奏楽やらないの意外だったな」


「まあ、うん。色々考えた結果、みたいな」


「なるほどなー。俺らも今年から高校生だしなー。色々考えるよなー。でも、オーボエだっけ? あんまり楽器詳しくないんだけど、結構好きだったんだろ?」


「それなりって言うか、まあ、それなりかな。鹿島もサッカー好きだったんじゃなかったの? 小学生の頃からクラブとか入ってやってたんでしょ?」


「うーん……。俺もそれなりって言うか。ま! お互い高校からは別の部活を頑張るって事で、楽しもうな」


「うんうん。あー……。でもさ、料理倶楽部とかもあったんだね。深山って」


「あるあるある。一応ホームページにも載ってるから後で見てみたらいいって。部員数は少ないっぽいけど、少ないなら少ないできっちり教えて貰えそうで楽しみかも」


「私も、まあ、料理に興味ある方って言うか」


「おお! 吉永って家で料理とかしてるんだ?」


「まあ、それなりって言うか。そこそこって言うか」


「いいなー。俺もちょっとくらいは料理を覚えたいから、高校では勉強と料理を頑張ってみるかなって事で料理倶楽部に決めたんだよな」


 吉永は家で料理とかするんだなー。どんな料理作るんだろう。


 機会があれば食べてみたいけど、残念ながらそんな機会は訪れないだろうな。


 サッカー部のマネージャーになるみたいだから、部活が始まれば忙しくなって、こんな感じで話す機会もなくなるだろうし。


 てか、中学の部活にマネ―ジャーなんて居なかったけど、マネージャーって何やるんだろ。


 そんな感じの事を考えながら、適当に会話を繋げているうちに目的地に到着。


「どうぞ、こちらが自販機で御座います、吉永様」


「案内御苦労、鹿島。──ふふふ。なになに、どうしたの」


 吉永の事は好きだけど、それ以上の事を望んでいるわけではない。


 ただ、俺の見える範囲で楽しそうに笑っていてくれるなら、それで十分だ。


 たぶん、今ならまだ引き返せると思うから、あまり深入りはしないようにしよう。


「別に、なんでもないって。それじゃあ、案内終わったからまたな」


「え? あ、何処か行くの?」


「何処かって、休み時間終わる前にそろそろ教室戻ろうかなって」


「あ、じゃあ待って待って、私も戻るから」


「おっけおっけー。いや、なんも買わないのかよ」


「あ、いや! 買う買う! 買うから、ちょっと待ってて」


「それくらい待つから慌てるなって、ははは!」


「もう笑わないでって!」


 自販機に案内させておいてジュースを買うのを忘れるって、可愛いな本当に。


 それにしても、好きになったら何やってても可愛く見えるんだから、ずるいよなー。


「まー、一組まだよくわかんないけど、良さそうなクラスで良かったよな」


「うーん、まだよくわかんないけどね。お待たせ」


「うぃーっす」


 吉永はジュースではなくお茶を買ったようで、用事が終わった俺達は、今度は教室に向かって歩く。


「姫野さんとか教室でずっと囲まれてるけど、もうクラスの中心って感じあるよなー」


「……まあ、うん。かもねー」


「俺も中学同じってだけで同じクラスになるのは初めてだから、正直全然姫野さんの事知らないけど、めちゃくちゃ元気そう」


「だねー」


「あー、まあ、そんだけって言うか。でさ、俺の横の席にいる青島って奴もめっちゃ話し易くて──」


 なんだ? なんだろう。


 なんか、急激に吉永のテンションが下がったような、気がするんだけど……。


 一瞬そんな気がしたんだけど、結局よくわからないまま教室に到着。


「──紅葉―! と! 鹿島君! 何処行ってたの!?」


「はいはいはい。近い近い近い」


 すると、入室と同時に吉永を発見した姫野が突進してきた。


 勢いが強すぎるだろ。


「ジュース買いに行ってただけだって。ほーら、歩き辛いから離れなさいっての、冬」


 飛びついて来た姫野を受け止めた吉永は、やれやれと言った様子で軽く溜息を吐き出すと、姫野を見て楽しそうに笑顔を浮かべた。


 小学生の頃からの付き合いだと言うだけあって、本当に仲が良いんだろうな……幼馴染って。


 姫野と吉永からさっさと離れた俺は、いそいそと自分の席へ帰還。


「あ」


「ん?」


 帰還しようと思ったが、その前に吉永の声が聞こえたような気がしたので振り返った。


「あ、ありがと、鹿島。自販機」


「どういたしましてー」


 こう言う律儀な所も良い子なんだよなぁ。


 自販機の場所教えただけでお礼言うって、育ちが良すぎないだろうか。


「お、蒼斗もどったか」


「うーっす。どけどけーい、服部―」


「へいへいー」


 自分の席に戻れば服部が座っていたので、適当にどいて貰った所で、休み時間が終了した。

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