第69話 それじゃあ、諦めると言う事で
わかっているつもりだったけど、認識が甘すぎたかー。
頑張っていればそのうち振り向いてくれるだろうとか、そんな簡単な問題ではなかったのかもしれない。
「ふぅー……」
シャワーを浴びた俺はそのまま髪を乾かす事なくベッドに倒れ込むと、大きな溜息を吐き出した。
吉永の家で晩飯を食べると言っていたので、母も外でご飯を済ませる事にしたらしく、誰も居ないのが幸いだったかも。
「なるほどなー」
三好への告白が失敗した吉永が泣いていた気持ちが、今なら何となくわかるかも。
こう言う感じなのかな。
どうしよ、普通に泣けるんだけど。
吉永の家に遊びに行って喜んでたけど、三好の奴はもうそう言う次元じゃなくね。
いやいや、両家で旅行て……新婚さんかな?
対して、俺の場合は今日も遊びに行ったわけじゃなくて、ただ黙々と勉強してただけだしな。
恋愛系の創作物では幼馴染が負ける事が多いとか聞くけど、幼馴染って普通に強すぎないか。チートだろこんなの。
「はあああ……」
思い出を積み重ねてきた年月でも勝ち目はない。
もちろん、親密さでも勝ち目はない。
しかも、家族同士が仲良いとか。これもう勝負になってねえだろ。
ベッドの上に寝転がった俺は目を見開いて、とりあえず仰向けになった。
その間、スマホからはリリンクの新着メッセージの通知音だけがピョコピョコと鳴っていたが、今は見る気も起きない。
家族公認で、普通に家で寝泊まりする仲ってカップル通り越して夫婦だろ、そんなもん。
三好の奴よくもこれで吉永の事を振れたな。馬鹿じゃねえの。
まあ、あいつの場合は顔も性格もいいから許されるんだろうけど、だとしても吉永振るとかマジで信じられねえ。
姫野の感じからしても、やっぱり三好がまだ姫野に告白をしてないのは間違いない。
だからって、姫野に告った所でほぼ確でフラれるから、そうなるとやっぱり吉永とくっつく事になる可能性が出てくる。
吉永もそれを待ってる節はあるからなー……。
姫野が三好とくっついてくれたら、流石の吉永も三好の事をきっぱり諦めてくれたりすんのかなー。
まあ、三好を諦めたからと言って俺の方を向いてくれるわけでも無いんだけど。
「はあぁぁぁ………」
諦めるか?
そうするか。そうしよ。
相手はあの吉永だ。
姫野のせいで一組では目立たない感じになってるけど、どっからどう見ても明らかに可愛いし、性格良いし、おまけの頭までいいからな。
しかも家もなんかデカかったし、良い所のお嬢さんと俺とじゃ住む世界が違ったまである。
元々俺の手が届く相手では無かったと言うだけの話だろ。
はいはい、終わり終わり。
「はぁぁぁ……」
みたいに、簡単に諦められるなら誰も恋愛で苦労しないんだろう。
告白してきっちり振られたら、未練がすっぱり断ち切れたりするもんなのかな。
でも、告白して振られた吉永はまだ普通に三好のことバリバリに意識してるから、現実にはそう単純でもないんだろう。
て言うか、告ったその後って、また友達としてやっていけるんだろうか。
そもそも、告白とかしていいのか?
女子の場合は好きな人以外から告白されると泣く程にムカツクって、告白ハラスメントだっけか、それも考えないとなんだよな。
迂闊に告白して泣かれたらこっちも泣きたくなるし、それで皆から気味悪がられて、女子全員から距離を取られるのもそれはそれで辛そうなわけで……。
やべぇ、どうすればいいのか全然わからねぇ。
ベッドに横になって呆けている間に外はすっかり暗くなっていて、青島と服部が訪ねてくるまで寝ていようかと思ったんだけど──。
「何やってるの、電気も付けないで」
その前に、いつの間にか帰宅していた母に声を掛けられた。
「おかえりー」
「ただいま。それより勉強会は? 友達の家でしてたんじゃなかったの?」
「あー、んー、なんか調子悪いから先帰って来たー」
「え、大丈夫? 何処痛いの? 頭痛とか?」
「いやー、なんとなく全身が疲れてるだけ。寝てたら治ると思う」
「そう? じゃあ母さんは今のうちにシャワー浴びちゃうけど、蒼斗が寝てる間にお友達来たら家に上げとけばいい?」
「おけー、よろしくー」
何となく頭も痛くなって来たので、何も考えたくなかった俺は、そのまま目を閉じて現実を忘れる事にした。
◇
次に目が覚めたのは22時前。
「悪い、起こしたか」
青島と服部が俺の部屋に荷物を取りに来た時。
「いや……全然、今何時?」
「今は21時56分で、俺と服部はさっきシャワー浴びて来たとこ」
「蒼斗のお母さんから体調悪くて寝てるって聞いてたから、起こさないようにしてたんだけど、悪いな。気にせず寝ててくれ」
「マジか。こっちこそ悪かったな。明日も朝から吉永の家で勉強だし、早く寝るかー」
普通に起こしてくれて良かったのに、何も聞かずに黙って寝る準備をしてくれるとか、青島も服部も相変わらずいい奴だなー。
「──まあ、なんて言うか。さっき吉永のお父さんとか姫野が言ってた三好ってのが、まあアレだ。吉永の片想い相手だ」
「……そうなんだろうなってのは、何となくわかった」
「幼馴染で家族ぐるみって言うと、俺と愛実みたいな感じなんだろうなー、ってのはわかったよ」
「そんな感じっす。わかってたつもりなんだけど、こうも差があるのかと思うと、なんて言うか、まあ結構色々考えちって。……逃げ出してしまった、悪い」
「別に、俺も服部もそんな事で笑ったりしないって」
「だな。ただ、まあ、正直なんて言えばいいのかわからないってのはある。この問題に関しては俺等が何か言えるわけでもないから。結局は蒼斗がどうしたいかだからな」
布団を敷きかけていた二人は床に胡座をかくと、俺もいつの間にやらベッドに腰掛けていた。
「そう言ってくれる方がありがてえ。変に慰められると泣いてたかもしれないし」
「蒼斗は、なんだろう……。まあ、いや……なんて言うのかわからない」
「なんだよそれ。でも、康太は俺より自分の事考えてた方がいいって。こっちは元々望み薄だって話は、前の勉強会の時にもしてただろ」
「それは……そう、なんだけど」
「あんま言いたくないけど、俺はスパッと諦めるのも一つの手だと思うわ」
「服部」
「……いや、いいよ、康太」
「蒼斗には悪いけど、あそこまで家に溶け込んでる相手には勝てないだろ。俺と愛実だって幼馴染だけど、お互いの家に遊びに行く事はあっても、寝泊まりなんてしないわ。それも、幼稚園小学校ならともかく中学高校になったら、付き合ってもいない異性の家に普通は寝泊まりなんてしねえよ」
「いや、まあ、そうかもだけど、て言うか、まあ──」
「まあまあまあ。康太の気持ちは有り難いけど、服部の言う事も尤もではあるから」
「俺だって別に、蒼斗を傷つけたくて言ってるわけじゃねえよ。ただ、客観的な立場から意見を言ってるだけだから。それに、蒼斗が帰った後の晩飯の時も、次の夏休みは向こうの家族と一緒に出掛けるみたいな話してたしな」
いやー、きっちぃなー。
「あ、い、いや! でも吉永さんは行くなら自分以外で行けばいいとか言ってたから、皆乗り気ってわけでもなさそうで──」
「康太が蒼斗を応援したい気持ちもわかるけど、俺は諦めた方がいいと思うわ。……蒼斗が落ち込んでる姿は、あんま見たくねえし」
「……まあ、正直、俺も服部の言う通りだとは思ってるよ」
吉永の事を考える時、いつだって最初に思い出すのは、泣きながら三好への好意を口にする彼女の姿だ。
三好と小さな頃から積み上げて来た思い出があったからこそ、吉永はあんなにも泣いてしまったのだろう。
それに対して、俺と吉永の間には何もない。何も。
下らない事を話して笑ったり、一緒に勉強したり、部活で料理をしたり……その程度。
残念ながら、本当に何も無い。
一緒に旅行に行った事も、一つ屋根の下で寝泊まりした事もない。
勉強以外で遊びに行った事もなければ、下の名前で呼ばれた事すら無い。
俺が勝手に好きになっただけの独り相撲でしかない。
「……どうやったら、スパッと忘れられると思う?」
「悪いがそれはわからん。偉そうな事言っても俺は愛実以外の恋愛経験ないから、失恋の立ち直り方とかはわからない。すまん」
「……悪い、俺もわからない。……あー、まあ、わからないけど、それじゃあ、あのさ、今度遊びに行かないか?」
「遊びに?」
「そそ! 俺らそこそこ遊ぶようになったけど、そうは言っても部活と勉強ばったかだっただろ? 気分転換になるかわからないけど、悩み事が頭から消えるくらいにパーっと遊ぶとか、身体動かすとか、いいんじゃないかなって、思った。……駄目か?」
「いや、いいんじゃないか。そう言う事なら全然付き合うよ。蒼斗が行くならクラスの連中も余裕で集まるだろうしな。俺も予定合わせるから一緒に遊ぼうぜ」
「遊びかー。まあ、高校入ってずっと勉強だったしな。ちょっと気分転換して頭解すのは有りか」
「だろ? 球技大会は面白かったけど遊びって感じでもなかったから、何も考えないで遊ぶのも悪くないよな」
「おっけ。そんじゃ、期末終わったらどっかで予定作って遊ぼうぜ、蒼斗。康太と俺はまだまだ勉強が足りてないから、やる事はきっちりやっとこう」
「そうすっかー。二人には悪いけど、ちょっと付き合ってくれたら助かる」
「そんな事気にするなって、いくらでも付き合うから」
「そりゃな。吉永さん以外にもきっと良い人はいるから、今は落ち込むだけ落ち込んで期末終わったら遊んで忘れよう」
泣きそうな顔をしていたであろう俺の肩を叩いて、励ましの言葉を掛けてくれた青島と服部。
茶化したり馬鹿にしないで一緒になって真剣に考えてくれた二人の事を、俺は生涯大切にしようと思った。
康太と服部は、期末が終わったら遊びに付き合ってくれよな




