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第51話 ただのエゴなのはわかってるけど


 深山に居る生徒の全員がお祭り大好きな、頭の中がアオハルハッピーな人ばっかり、と言う事は決してない。


 校風を知らずに高偏差値と言うだけで入学した者もいれば、受験時にこんな感じだろうと予想していたイメージと、いざ入学した後のイメージが全然噛み合わないと言う者だっているはずだ。


 遠足にしても、球技大会にしても、夏休みも登校して皆で準備をする九月の宮祭にしても。


 皆が皆、俺や吉永や姫野みたいにモチベを高くして取り組めるわけではないだろう。


 それは分かっているつもりだ。


 どうしても、人には性分と言うものがあるからな。


 皆で盛り上がるのがちょっと苦手だと言う人がいるのは、どうしようもない話だと思う。


 深山は昔からこう言う校風なんだから、校風が合わないとわかってるなら来るなよ。


 みたいな暴論を翳す話にならない連中もいるが、俺はこの意見がめちゃくちゃ嫌いだ。


 入学してしまった人間にそんな事を言った所で、何の解決にもならないからな。


 俺達はこのクラスで、この学年で、卒業まで肩を並べて走り切らないといけない。


 誰が良い誰が悪いなんて話は、心底どうでもいいし建設的ではないだろう。


 だけど、だからこそ、一人でも多くのクラスメイトと楽しく過ごしたいと思うのは、極々自然な事ではないだろうか。


「吉永の言わんとしてる事は、俺もわかる。わかるんだけどさー……。俺らは自分たちの意思で深山を目指して、勉強して受験して、そして受かって。で、今は同じクラスになったわけだろ?」


「うんうん! 勉強頑張ったよー!」


「うん。だね」


「だったらやっぱり、そう言う、何て言うんだろう? ちょっと合わないなって思ってる人達の中にも、俺達と似てる部分はきっとあると思うんだよな。中野君とか佐伯さんとか、学校行事にあんまり興味がなかったら、無理しなくていいからね。……みたいなのは、やっぱ寂しくない?」


「そうだね、鹿島の言いたい事はちゃんとわかるよ」


「うんうん。皆仲良くが一番だよー」


 そう言う意味でも、俺は料理倶楽部の里見先輩とも一度、きっちり話してみたいと思っている。機会があれば、だけど。


 安藤部長や新見先輩、寺尾先輩、二年の岩瀬先輩も。


 里見先輩が部活に顔をだしてくれないのは、勉強をしているから仕方のない事だ。


 って、諦めちゃってるみたいだけど……なんか、そう言うのも違う気がするんだよなぁ。


 だって、全然新入部員が入ってくれなくて、部活動から同好会に格下げされるって時に、頭を下げて回っている安藤部長達の話しを、文句を言いながらも聞いてくれた人で。


 それで、最終的に入部してくれた人だろ、里見先輩って。


 部活中もタブレットかスマホばっかり見てて全然話した事は無いけど、話してみたら結構話しが通じると思ってるんだよなー。


「──って事で、中野君も部活入ってないみたいだから、深山では勉強に集中したい生徒の一人なんだろうけど。もうちょっとクラスに溶け込めるように、今後も話しかけてみるよ」


 中学の時は、ここまでクラスメイトの事に興味はなかった。


 みんな見ている方向があまりにもバラバラ過ぎたからだろう。


 明らかに話が嚙み合わないような連中とは、端から話す気も起きなかった。


 単純にそれ所じゃないってのもあったかもしれない。


 でも、高校では多分そんな事は無いと思っている。


 目指す大学こそ違えども、少なくとも俺達には大学進学と言う共通言語がある。


 少しでも難しい、少しでも上の大学を目指して勉強を頑張ると言う、共通の目標があるわけだから、絶対に話が合わないなんて事は無いと思っている。


 実際、中学の頃より話しやすい人ばかりだと思う。


「鹿島は、そうやって他人の事ばっかり気にかけて……。いいよ、私にも出来る事があれば協力するから」


「わかった! 私も中野君と沢山お喋りするよ! 仲良くなるよ!」


「姫野さんは何もしなくていいよ」


「そうね。冬は何もしなくていいからね」


「えー!!」


 女子ならどうかわからないけど、男子は姫野にぐいぐい来られたら色々と複雑な気持ちになってしまうだろう。


 もし中野がうっかり姫野に惚れてしまったら、余計に話が拗れてしまうかもしれない。


「ま、球技大会の事もそうだけど、とりあえず勉強だな」


「だねー。今日の進路指導で先生と卒業生の先輩が言ってた通り、毎日欠かさずコツコツとやる以外に勉強の近道はないんでしょう」


「おおー」


「おおじゃないだろ。姫野さんちゃんと勉強してるんだろうな?」


「し……てる、よ」


 あ、こいつ勉強してないな?


「あー……。まあな、無理に勉強しろって言って無理矢理勉強をやらされた所で、全然身につかないしな。姫野さんは今のままでいいんだって。でも、来年までに姫野さんの成績が伸びなければ料理倶楽部はなくなってしまうのかもしれないなー、寂しくなるなー」


「そうだねー、冬が勉強を頑張らなかったせいで、料理倶楽部が潰れちゃったら悲しいけど、それも仕方のない事なのかもしれないねー」


「し、してる! 勉強してるよ! でも、紅葉も鹿島君も一緒にやろ! えっとね、家に帰ったら──」


 勉強は当然、学校行事は勿論、部活は言うに及ばず。


 学生であれば目の前の課題には全力で取り組まなければならない。


 それが、大人に守られて育てられている俺達に与えられた宿題なのだから。


 その後、俺と吉永は姫野が勉強をするように適度に尻を叩きながら帰った。

今は、皆と仲良くなれるならそれが一番良いなと思ってる

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