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第5話 同じクラスは嬉しいけれど


 体育館での入学式が終われば、再び教室へ。


 明日以降の予定だとか、注意事項だとか。


 細々とした話とプリントを配られて、高校一日目は終了。


 この後は生徒と親が入れ替わって、教室では保護者向けの話がされるとかなんとか。


 そんな訳で、生徒は早々に教室の外に放り出されてしまう。


 自己紹介やらのオリエンテーションは明日になると言う事で、各自真っ直ぐに帰宅するようにと言われたが──。


「宜しくー! 宜しくねーー!」


 教室を出て帰路に就けば、自由になったクラスメイトの何人かが待っていましたとばかりに、姫野に話し掛け始めた。


 姫野は姫野で話し掛けて来た相手全員に嬉しそうに返事をするので、一瞬にして盛り上がるのだからたいしたものと言うか。


「凄いな、姫野さん」


「凄いでしょ、冬」


 同じ中学だった事もあるので、当然途中まで同じ帰り道の俺と吉永と姫野。


 だから、一緒に帰宅するはずだったんだけど、すんなりとは帰宅出来ない様子。


 ハーフだかクオーターだかの姫野は、正直言ってかなり可愛い。


 いや、可愛いと言うか凄く綺麗と言うべきだろうか。


 なんにせよ、中々にお目に掛かれないレベルの美人だとは思う。


 しかも明るく元気と言う事もあって取っ付き易いので、人気になるのも頷ける。


 もちろん、俺は吉永の方が可愛いんだけど、姫野の人気は中学でも凄かったから高校でも凄い事になるのかもしれない。


「紅葉ー! 鹿島くーん!」


 クラスメイトに囲まれていた姫野を遠巻きに見ていると、いつも通り楽しそうに笑う彼女が駆け寄って来る。


「はいはい、どうしたの」


「これから皆でお昼ご飯食べに行こうって! えっとね、青島あおしま君と、篠原しのはらさんと、田邊たなべさんと──」


「いやいや、名前言われてもわからないから。冬は行きたいの?」


「行きたい! 早速みんなと友達になれるチャンス! やったよ!」


 青い瞳を輝かせた姫野が、飼い主に“待て”と言われている犬のようで、申し訳ないと思いながらもちょっと笑ってしまった。


「……だってさ、鹿島はどうする?」


「うん? え、俺?」


 まさか自分に話が来るとは思っておらず、ニヤけた顔をしていた俺は吉永の言葉を受けて一瞬詰まる。


「当たり前でしょ。鹿島はお昼ご飯行くの? 行かないの?」


「うーん、行ってもいいっちゃいいんだけど、今日はパスかなー。てか、今日はちょっと寄り道して帰るつもりだったから、俺はいいよ」


「え、そうなの?」


「そうそう。明日も行くなら行きたいけど、今日はいいかな」


 地元からそんなに遠いと言うわけではないけど、それでも片道三十分弱掛けて通学する新天地。


 真っ直ぐに帰れと言われて“はいそうですか”と受け入れるつもりは更々無い。


 折角時間があるんだから、今日は高校周辺の地理をざっと確認しようと決めていた事もあったので、行きたい場所が沢山ある。


 それに、今日は帰ったら親戚の家でお祝いの食事が大量に待っていると思われるので、外食を控えておきたいと言う気持ちもある。


「んー……。じゃあ、私も今日はいいかな」


「ええーー!?」


 俺はともかくとして、姫野の中では既に吉永の参加は決定していたようで、不参加を表明されるや否や、陽気な外国人のようなオーバーリアクションを取っていた。


 海外の血も入ってるから、外国人ってのもあながち間違ってはないのかも知れないけど。でも、歴とした日本人だ。


「行こうよ行こうよー! 紅葉も鹿島君も行こうよー!」


「そうだぞ、吉永。何事も最初が肝心って言うだろ? 折角のお誘いなんだから行った方がいいって」


「冬が行きたいなら止めたりしないから、私も明日行くなら行こうかなって。先生も真っ直ぐ帰れとか言ってたしね。……て言うか、その言葉そっくりそのまま返してあげるから、よく考えて発言したら、鹿島」


 ぐうの音も出ないカウンターが炸裂したので、吉永に敗北した俺は彼女から視線を外して姫野の方を向く事に。


「まあ、お誘いは嬉しいけど、今日は用事があるって事で。今日の所は姫野さんだけで参加して来るといいよ。また今度行こうって伝えといてくれると助かる」


 誘いを断るぼっちメンだと思われるのは心外なので、いつでも誘ってオーラは出しておかなければならない。


「うーん……。じゃあ私も明日行こー! みんなに言ってくるね!」


 だがそこは、姫野冬華。


 一度断られた程度の事を気にする子ではなく、ダメなら次へと気持ちを切り替えるポジティブ女子。


 飼い主の命令を忠実に守るワンちゃんのように、吉永と俺の下から元気よく駆け出した姫野がクラスメイトの場所に辿り着くと、ペコペコと頭を下げて笑っていた。


「おおー。凄いな、姫野さん」


 斯く言う俺も、初対面の時はあんな感じで迫られた記憶がある。


 この世に悪い人なんていなくて、みんな優しくて、みんな良い人で、人類はみんな兄弟姉妹である。


 真面目にそんな風に考えているのかもしれないが、距離の詰め方が尋常じゃないくらいに早いんだよな。


「ホント、凄いよね」


 なんとなく、同意した吉永の言葉に若干の含みを感じた気がして、チラリと横を見る。


 だけど、隣に居たのはいつも通り姫野に対して優しい笑顔を向ける彼女だったので、それ以上何も言わない事にした。

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