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第47話 そんな事を言われたら


「どうぞ、吉永さん。姫野さんはしばらく黙ってお話を聞くよーに」


 安藤部長も気になるようで、部長の言葉を受けた姫野がコクコクと頷くのを確認した所で話を促した。


「えっと、はい。まず前提として、私達がどれだけ部活を頑張った所で、たぶんですけど、卒業までに料理の腕がプロ並みに成長する事はないですよね」


「ええ、そうですね。仮に部活動の頻度を上げた所で、週一から週二、三の部活動を三年間頑張るだけで、誰でも板前さんのような一流の職人技術を習得できるのなら、きっと誰も苦労はしないでしょう」


 何となく、安藤部長の雰囲気がいつもと違う?


「ですから、料理倶楽部は今のままでいいと思うんです」


「いや、それだとまずいって話を──」


「しー、鹿島君も静かにお話を聞きましょうね」


 俺が話し始めると、唇に人差し指を当てた部長が言葉を差し込んで来た。


 おっと、俺もお口はチャック、手はお膝にしておいた方がいいか。


「ただ、今のままで良いと言うのも現状維持と言う話では無くて、岩瀬先輩や里見先輩と私達で料理倶楽部としての方向性の模索も必要だとは思っています。これに関してはすぐには決定できない事と、私一人で決められる問題でもないので省かせて貰います」


「料理倶楽部の活動内容を今すぐ変更するのは不可能ですからね。部の活動目的を変えるとなれば今ここに居ない里見君の意見も聞かないとダメでしょう。はい、そこはわかりました。となると、部活動以外の話ですか。学力を──ああ……そう言う。勉強ってそう言う事? うんうん」


「えっと、はい。たぶん、そうなります。先輩相手に失礼かと思いますが、新見先輩、寺尾先輩、安藤部長、それに岩瀬先輩の先日の中間テストの学年順位を教えて欲しいです。知っていれば里見先輩の成績も。あ、あと三年生の先輩方は志望大学も聞きたいです」


「僕は前回のテストは34位で、志望大学は一橋大学だよ」


「私は22位で新見君と同じく一橋ですよ」


 おお、新見先輩も寺尾先輩も頭良いんだ。


 料理しない時は勉強教えて欲しいなー、とか思っていたら。


「私は一位で東大志望ですよー」


「え?」


「すご」


「安藤部長すごー! 私203位でした!」


 安藤部長は、俺が思っているより凄い人だったらしい。


「えっと、すみません、岩瀬先輩は……」


「えー、まあ、えっと、私は57位で……。志望大学はまだ絞り込めてない、かな」


「あ、じゃあ、里見先輩のってわかったりします?」


「ご、ごめんね、里見君とクラスも違うからあんまり話す事なくて。部活でも黙々と作業してるから、そう言う話にならなくて……。ごめんね?」


「い、いえいえ! ありがとうございます岩瀬先輩!」


 岩瀬先輩はちょっと大人しそうと言うか、クラスでもあんまり目立たないで静かに過ごしていそうな感じの先輩女子。


 姫野や吉永とは反対側と言うか、そんな感じと言うか。


 俺もここまで来ると吉永の話したい内容、目に見える実績とやらが凡そ理解出来たけど。


 しかし、そうなると問題になるのは、先輩の話をうんうんと頷きながら楽しそうに聞いている姫野だろうか。


「私は7位で、鹿島が15位でした。冬はさっきも言った通り……その、えっと、203位でしたが」


「おおー」


 安藤部長がパチパチパチと手を叩くと、珍しく他の先輩方も手を叩いてくれた。


「私は三年間この成績をキープしつつ上を目指します。鹿島も私より頭良いので上を目指して貰います」


 え、俺って吉永からそんな風に思われてたの?


 やば、どうしよう。普通に嬉しいんだけど。


「ふ、冬は……その、頑張って私達で成績を、伸ばします」


 だけど、自分の成績を維持する事と俺の成績がまだ伸びる事は自信を持って宣言してくれた吉永だったのに、姫野の話になると急激に自信を喪失してしまった。


 まあ、それもそうか。


 だって、姫野って中間テストの勉強期間も吉永に勉強教えて貰っていて、それで学年203位だったんだよな……。


「私は頑張ります。ですので、先輩方にも頑張って欲しいです。一朝一夕で料理の腕を上げたり料理のコンクールで賞を貰えるような部活にはなれないと思いますが、勉強は私達を絶対に裏切りません。料理倶楽部に所属する者は皆学力優秀であり、料理倶楽部に所属した者は飛躍的に学力が向上する。これを実績として、来年の新入生にアピール出来ればと考えました!」


 深山高校三年生の現時点での学年一位。


 恐らく、俺達が考えるよりもずっと高い位置にいるのであろう安藤部長に見つめられながらも、隣に座る吉永は堂々と自分の考えを口にする。


「わかった、頑張るよ。そう言う事なら、俺は二年までに学年十位以内に入るよ」


 だったら、俺は何も言わずに黙って頑張るだけでいい。


 吉永に期待されているなら頑張るだけだ。


 吉永が出来ると信じてくれているなら、他の選択肢は要らない。


「わ、私は……」


「冬も頑張ろ? 料理倶楽部無くなるの嫌でしょ? 冬の成績が悪くなったせいで料理倶楽部無くなっちゃったら悲しくない?」


「あ、うぅ……」


 吉永、その言い方は流石に怖いって。


「うんうん、そうですね。姫野さんが頑張ってくれれば何とかなるかもしれないですね。全ては姫野さんに掛かっていますよ」


 そして、吉永に脅しを掛けられて俺に助けを求めるように視線を送って来た姫野を、安藤部長は後ろから容赦なく刺した。


 やっぱりこの人はちょっと怖いかもしれない。

頑張る以外の選択肢はなくね?

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