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第46話 世知辛い話


「うんうん。ですから、どうしても料理倶楽部を存続させたかった私達で、一年生の教室を回って部活動に所属していない方を探して、一人一人に頭を下げて回ったんですよ」


「そんな事があったんですね! 流石は安藤部長です!」


「頭下げるだけだから誰でも出来る出来るー。姫野さんも来年は一年生に頭下げるの頑張るんだよー?」


「はい! 頑張ります! 任せて下さい!」


 嬉しそうに返事をするな。


 と言うか、料理倶楽部に誰も入らない前提の会話は悲しくなるから止めて下さい、部長。


「……ん? あれ? 里見先輩が今日来てない事とこの話って何か関係あるんですか?」


 満足して会話を終了させてしまった姫野に代わって、黙って聞いていた俺はそもそもの疑問を口にしてしまった。


「おおー。鋭いね、鹿島君。問題文をちゃんと読むのは偉いよー、姫野さんは残念ながら不合格だねー」


「あ、どうもです。え、てかこれ問題だったんですね」


「えー!!」


 安藤部長と話しているといつも手の平の上で転がされている気分になってしまうけど、深山高校の三年生ともなると皆こんな感じなのかな?


こんな人が沢山居たら怖いんだけど。


「問題でもあるし、課題でもあるかな。隠していても仕方ないので、皆知っている事だから言ってしまいますけど、里見君は『勉強の邪魔をしないなら、料理倶楽部に籍を置いても良い』と言う入部条件を提示してきまして、私達三年はそれを了承した立場ですね」


「……なるほど」


 首を捻っている姫野はともかく、吉永も何となくの状況は理解出来ているっぽいな。


「部活に入っていない一年生に声を掛けたって言ってましたし、里見先輩は何処の部活にも入るつもりなかったんですね」


「うんうん。最初に勧誘した時なんて『深山には勉強をしに来たのであって、部活動をしに来たわけではありません』って、怒られちゃいましたよー」


「それでも、最終的には入部してくれたんですよね?」


「そうですね。でも、無理を言って入部して貰った事もありますから、里見君の勉強の邪魔は出来ないでしょう? だから、勉強したい時には部活には無理に顔を出さなくてもいいよー、と言う今の形になっているんですよ」


「うーん……」


 そんなんで良いのか?


 推薦入試を狙っているわけでもないから、部活動での実績や評価なんてあっても無くてもどうでもいい。


 と言う意見は、俺自身そっち側の人間だから理解出来なくはない。


 それでも、入ったからにはしっかりと活動するべきだとも思っている。


「だからね? 岩瀬さん、姫野さん、鹿島君に吉永さんには、私達三年が上手く部活を盛り上げていけなかった後始末を押し付けるみたいで、心苦しい所はあるんだけど。もし、料理倶楽部を少しでも好きになってくれれば、来年以降もずっと、私達が卒業しても、姫野さん達が卒業してもずっと、料理倶楽部が残るように頑張って欲しいと思っています」


「私料理大好きですよ! 家でもやるようになりました!」


「ふふふ」


 姫野の言葉を聞いて安藤部長が軽く笑うと、新見先輩や寺尾先輩もちょっとだけ笑った。


「俺も料理に興味あるから入部したんで、出来る事は頑張るつもりですよ」


「私も、料理は好きですよ」


「ありがとう、鹿島君、吉永さん。先輩から渡された手つかずの課題をそのまま貴方達に投げるようで、情けない気持ちもあるんですけどね。それでも、私達三年は一学期が終われば形式上は引退と言う事になりますから。今からできる事はそう多くないんですよ」


 そう言うと、安藤部長はまた困ったような、悲しいような笑顔を浮かべて眉をまげてしまった。


 安藤部長にはそんな顔しないで、常にニコニコしていて欲しいんだけど、実際問題どうすればいいのかまるでわからない。


 俺と吉永と姫野の三人がいるから、来年は最低でも二人の新入部員を確保しないといけないわけだけど、深山に来て料理倶楽部に入りたいなんて考える生徒がどれだけいるだろうか。


 俺は何となく料理倶楽部を選んだだけで、吉永は料理に興味があったからと言っていて、姫野は吉永にくっついて遊んでいたら料理に興味をもっただけ。


 つまり、今年の入った三名のうち、純粋に料理に興味があったのは吉永だけと言う事だろう。


 俺と姫野に関してはたまたまだ。


 こんなので来年二人も新入部員が入ってくれるだろうか……? 無理じゃね?


 入学直後にあったオリエンテーションでも、料理倶楽部の部活紹介はさらっと流される感じだったような気がする。


「……実績があれば、いいんですよね。それも、目に見える」


 しかし、部室と言う名の調理実習実がどんよりしている中、口を開いたのは吉永だった。


「そうですねー。一応ね、高校生向けの料理のコンクールなんかも企業主催で開催されているんですけど、その手のコンクールで大賞を貰えるような高校は、やっぱり食物調理科があるような調理に強い学校ばかりでして。私達の部活頻度では腕も熱意も全然足りてないんですよね。後は──」


 吉永が話し始めた所で、安藤部長は三年間色々と考えたであろう話を訥々(とつとつ)と、少し考えながらゆっくりと話してくれたが……。


「いえ、そう言うのは気にしなくてもいいんじゃないかなと思ってます。私達は外ではなく中──学校側へアピール出来て、保護者の方々にアピール出来て、新入生にアピール出来る何かがあれば良いって事ですよね?」


「そんなのあるか? ウェディングケーキみたいなのを作るとか?」


「そんなの作ってもバズ目的で写真取られて、リリンクに流されて終わりでしょ」


「身も蓋もないな」


「そうじゃなくて、進学校なら進学校らしく学力でアピールすればいいじゃないですか?」


 吉永の事は好きだし、彼女の言う事なら全てを受け入れたいと思っている。


 しかし、そんな俺でも意味がわからない事には首を傾げざるを得ないわけで……。


「料理倶楽部なのに?」


「料理倶楽部だから、だよ」


 俺と同じく、と言うか全員何言ってんだこいつみたいな感じになっている中で、姫野が首を傾げながら発した言葉に、吉永は笑顔で答えた。


 吉永の話は机上の空論と言うか、仮に全てが上手く行ったとしても、結局は周囲がどう判断するのかわからない、ちょっとした博打のようなお話。


 だけど、普通の博打と違う所が一つあるとすれば、それは“料理倶楽部の部員の誰一人として絶対に損をしない”と言う、進学校らしい真っ当な案だった。

だけど、これが現実なんだよな


誤字報告ありがとうございます!

土曜日ですけど、今日は誕生日なので何話か投稿します

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