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第43話 やっぱり、嘘は良くない


「だ、だから、そうじゃなくて、ちゃんと聞いてって……。佐々木君と泉井君が、今日言ってたから。正直、サッカーの事よくわかんないけど、二人の話し振りを聞いたら私にも何となくわかったよ。鹿島が、なんか、その辺の人達より全然サッカー上手だったって事」


「うーん」


 上手いか下手かで言えば、上手かった自信はある。


 だけど、俺はただ上手いだけだったからなー……。何と言ったものか。


「トレセン? なんか上手い人が集まる練習とか、小学生の頃に入ってたチームとか色々声掛かってて、中学の部活動してるのが勿体ないとか言われてたんでしょ? プロにもなれるかもなんでしょ?」


「待て待て待て。それは流石に話に尾ひれが付きすぎてるって。……いや、まあ、なんだろう。上手かったのは上手かったと思うよ」


 なんせ、命を懸けて死ぬ気でやってたからな。


「だったら、何で高校ではサッカー部入らなかったの?」


「それは前に話したと思うけど、深山のサッカー部が俺に合わなそうって言うか。やるからには真剣にやりたいと思ってたからかなー」


「……でも、それ、嘘だよね」


「いやぁ、うーん、別に嘘ってわけではないんだけど……」


 横に座る吉永はそう言うと、珍しく強い視線を向けて来た。


 なんで今日はこんなに突っかかってくるんだ。


 吉永ってサッカー興味無いんじゃないのかよ。


 佐々木と泉井の奴、何て言って吉永を動かしたんだか。


 人の好い吉永を使って俺をサッカー部に勧誘しようとは、中々の策士だけど……。


「私が前に鹿島から聞いた話しをちょっとしたら、佐々木君も泉井君も言ってたよ、うちは本気で全国狙ってるって。最近は都大会にもいけるようになって、皆本気で頑張ってる、って。もしかしたら、鹿島から見たら遊んでるようなプレイなのかもしれないけどみんな真剣だ、って。二人共、言ってたよ」


「──……まあ、だな。泉井も佐々木も真剣だよな。あいつら見てればわかるよ」


「だよね。二人が朝練もやってるの、私も知ってるもん」


 もちろん、そんな事は知っている。


「みんな真剣に頑張ってて、鹿島が入ればもっと上に行けるって言ってたよ」


 どうしてサッカー部に入らないの?


 そんな目をした吉永に見つめられては仕方ない。


 そもそも、この話しに関しては、嘘をついたり変に誤魔化していた俺にも悪い所はある。


「それでも、俺はサッカー部には入らないよ」


「うん、わかった。でも、だったら、理由は知りたいかも。誰にも言わないから、何かあるなら知りたい」


「んーーー……。でも、つまんない話になるから、聞いてから、しょーもなーとか言うのは無しだからな?」


「わかった! 誰にも言わない。聞きたい」


「じゃあ。んー……。そんなたいした理由じゃないんだけど、吉永は知ってるだろ? うちの父さんが去年の春に他界したって」


「……うん。私が知ったのは二学期が終わる頃だったけど」


「わざわざ話す事でも無いかと思ってたしな、ははは」


「はははって……」


「まあまあ。そんで……なんだろうな、俺にとってのサッカーってのは父さんに勧められてなんとなく始めたスポーツでさ」


「へー? そうだったんだ?」


「そうそう。試合を見に来ては上手い上手いって褒めてくれるから、どうかなー、始めたばかりの頃は褒めてもらう為に頑張ってたような気がするけど……。それももう、よくは思い出せいなー」


「うん」


「だから、小三の時に父さんが体調崩して病院で生活するようになって……。まあ、試合見に来れなくなってからは、サッカーなんて辞めようと思ってたんだよ」


「そうなんだ?」


「ああ、元々そんなに好きってわけでもなかったしな。サッカーなんて疲れるだけだし! 練習のせいで休みの日は学校の友達と遊べないし! 練習と試合のせいで父さんの見舞いにも行けない! 死ぬ程忙しかったから辞めたくもなるって」


「……サッカー、そんなに好きじゃなかったんだ?」


「まあなあー。……けど、そしたら、まあ、なんだろう。『蒼斗が試合で活躍している姿を見たら元気になれる気がするから、頑張って続けてみないか』って、父さんに言われてさ」


 だから、死ぬ気で頑張った。


「そう……だったんだ」


「うん。今もそんなに変わらないけど、馬鹿な子供だったからなー。俺がサッカーで活躍すれば、俺がサッカー上手くなれば、そしたら父さんが元気になると本気で思ってたのかもしれない。もちろん、そんな訳はないんだけど。……でも、そんな訳が無いと思いながらも、必死に頑張ったよ」


 同年代の連中とはサッカーに対する入れ込みようが違ったから、文字通り父の命を賭けてやっていたから、それは上達もするだろう。


「プレイの一つ一つが父の力になると考えていたから、俺のサッカーは上達したと思う。だから、なんだろうな、サッカーが上手いかって話ならそれなりに上手いとは思うよ。他はあんまり自信ある事ってないんだけど、サッカーだけは自信もある」


 でも、サッカーだけじゃなくて勉強も頑張らないとお母さんが大変だからそっちも頑張りなさい、とも言われたわけだけど……。それは言わなくていいか。


「うん」


「だけど、それでもやっぱり、俺はそこまでの人間だったんだなーってのがわかった、と言うか」


「そこまで、って言うのは?」


「うーん、なんて言うかなぁ……。父さんが居なくなって久々に部活に出たら、何か感覚って言うのかな? 何かが違っててさ」


「うん」


「最初はよくわからなくて、なんだこれって思ったんだけど。……わかっちゃったと言うか、納得したと言うか。自分が“ああ、これでもうサッカーしなくていいんだ”とか、思ってる事に気付いちゃったんだよ。父さんが居なくなって、サッカーをやる必要が無くなって。その時に、まあ、アレだな。俺って本当にサッカーの事、本当に全然好きじゃなかったんだなーって、わかっちゃったんだよ」


「……うん。うん」


「だから、アレだ。いつぞやのファミレスで言ってた、真剣にやらないなら駄目だ、って言うのは深山のサッカー部の人達の話じゃない。──俺の事なんだよ。ごめん、嘘付いてた」


「……う、ん」


「なんかもう折れたって言うか、元々不純な動機でサッカーしてたのもあるからさ。俺はもう、真剣にサッカーが出来そうにないから。だから、中学の部活でスパッと引退して、高校ではサッカー部には入らない事にしたわけよー、不真面目な部員がいたら他の人の迷惑になるかもだろ? あはは!」


 だけど、部活を引退する日にわかっちゃったんだよなー。


 サッカーが嫌いで仕方ない自分が居る一方で、サッカーが好きだった自分も居た事に。


 だから、部活の引退日に誰も居ない部室でこっそり泣こうと思っていたのに、誰か知らないけど告白してる奴がいて、先に部室で泣いてる奴がいたんだよな。


 しかも、その知らない奴がすげぇ泣き出したから、なんかもう全部どうでも良くなったと言うか、それ所じゃなくなったと言うか──。


 あの日、あの場所に吉永が居てくれて本当に良かったと思う。


 今では吉永との出会いに運命すら感じている。


 ……と言うのは、恥ずかしいから言わないけど。


「不純、なんかじゃ……無いよぉ……」


「え? は? お、おいおいおい、なっ、泣くな泣くな!」


 隣を見ると、吉永が涙をボロボロ溢して泣いていた。


「無理矢理……話させて……ごめん、ごめんね、鹿島ぁ」


「いやいやいや! あ、えっと、ハンカチあるから、はい! これ使え使え! 俺が吉永泣かしたみたいになってんじゃん!」


 こんな話で泣く事ないのに、なんて涙脆さだ。


「ごめん……なざいぃぃ……」


 佐々木と泉井から俺をサッカー部に誘うように言われて、それで仕方なく動いたんだろうけど、吉永はいつも人の事しか考えてない。


 人の事ばっかり考えて、誰かの為に動いて。


 それで泣いてるんだから、世話が無いと言うか。


 俺は吉永に泣いて欲しいわけじゃないんだけどなぁ……。


 吉永に目の前で泣かれるのもこれで三回目だぞ、何やってんだ俺は。


「サッカー部には入んないけど、その代わりに深山では一緒に料理倶楽部で頑張ろう! な? な?」


「う゛ん゛んん」


 その後、泣いている女子への対処方法が未だにわからない俺は、どうにかして吉永を泣き止ませようと必死になって話し掛けた。


 こう言う時に肩を抱き寄せるとか、胸を貸すとか、漫画で見たようなイケメンムーブが出来ればいいんだけど……。


 いやいやいや、出来ねえって。出来るわけないだろ、普通。


 三好ならやっても許されたのかもしれないけど、俺が肩に手を置いたらその瞬間にパーンって弾き飛ばされそう。


 仕方が無いのでスマホを取り出して、吉永が好きな犬の動画を検索して延々と流す事にした。

泣かれるくらいなら、最初から正直に話しとけば良かった。マジで……。


※誤字報告ありがとうございます!

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