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第4話 今日から高校生


 都立深山高等学校の入学式の日。


「あ、鹿島君ヤッホー! いよいよ入学式だね!」


「うーっす。やっほやっほ」


「おはよう、鹿島」


「吉永も姫野さんもおはよう。卒業式以来か」


 母親と一緒に高校に到着した俺が自分のクラスへ向かうと、そこには既に同じ中学出身の同級生が居た。


 一人は『吉永よしなが紅葉もみじ』で、なんやかやと話すようになった絶賛片想い中の相手、なんだけど──。


「──いや、て言うか、かなりバッサリいったな、遠目だと一瞬誰かわからなかったわ」


「だよね! 私も最初ビックリしちゃった! でも、紅葉可愛いからどんな髪型でも似合っちゃうんだぁ~!」


 そんな事を言ったのはもう一人の同中(おなちゅう)仲間である『姫野ひめの冬華とうか』で、嬉しそうに吉永に抱き着いて戯れ始める。


 黒髪ロングだった吉永は春休みの間に髪をバッサリと切ったようで、わかるかわからないかくらいの軽く染めた茶髪のミディアムロングになっていた。


 対して、姫野冬華は中学までと同じで長い黒髪を後ろで綺麗に編んだ、一見するとシンプルな印象を受ける、中学の頃の吉永と全く同じ髪型。


「こーら、制服に皺できるから離れなさいって。もう、ふゆの方こそ可愛いんだから、ちょっとくらい変えてみたらいいのに。今度一緒に考えよっか」


「えー、私はこのままでいいよー。それよりね! 今日──」


 入学式と言う事もあり、俺達同様にそれぞれ同じ中学の出身者同士が集まって、まばらな会話を広げる微妙な教室。


 悪目立ちはしたくはないので、お互いがお互いに探りを入れるような新学期特有の空気の中、姫野冬華だけはそんな空気など知らぬとばかりに楽しそうに吉永に話し掛けている。


 だけど、誰もそれをおかしいとは思わないし、姫野冬華と吉永紅葉を見たクラス全員が納得しているような気がする。


 何故なら、誰がどう見ても二人共が可愛いから。


 恐らくは何処へ行ってもクラスで一番か二番か三番くらいには可愛いであろう吉永紅葉と、恐らくは何処の学校へ行っても確実にクラスで一番可愛いであろう姫野冬華。


そんな二人は何をやっていても絵になる。


 当然ながら、入学直後で微妙な空気が溢れている教室においても、二人が仲睦まじく戯れ合う姿は微笑ましい光景でしかない。


「もうー、わかったから、わかったから。そろそろ自分の席に着いて大人しくしてなさい」


「はーい!」


 元気で甘えん坊な犬と、それをあやすブリーダー。


 姫野と吉永は昔からこんな感じらしい。


「鹿島君も後でね!」


「うぃーっす」


 一体全体、入学式の何がそんなに楽しみなのかはわからない。


 だけど、満面の笑みを浮かべ目を細くした姫野は吉永のすぐ横にある自分の席に座ると、俺に向かって小さく手を振っていた。元気が溢れ返っている女子である。


 と言う事で、何となく二人の会話に混ざっていただけの俺も、吉永の席を離れて自分の席に向かう事にしたのだが。


「あ、鹿島」


 席に向かう俺は吉永に袖を掴まれて立ち止まる事に。


「なんすか?」


「まあ、なんて言うか、入学おめでと」


「それは在校生が言う台詞だと思うけど……。でもまあ、ありがと。吉永も入学おめでとう。高校は同じクラスだから、よろしくな」


「だね!」


 どうやら吉永はわざわざそれが言いたかったようで、嬉しそうに笑って手を離してくれた。


 その後は担任の先生が出現して、点呼を取ったりすれば、体育館で行われる入学式に参加。


 吹奏楽部が演奏する中での入場は中々に得難い経験で、これが高校生なのかと感動したりしなかったりしている間に、入学式は終了。


 入学式だからこんなものなのは当たり前で、楽しくもなければ詰まらなくないと言った印象だろうか。


 いや、正直に言えば普通につまらない。


「楽しかったね! 入学式!」


 ……そのはずなんだけど、体育館から教室に戻る途中。


 なにやら物凄く入学式を楽しんでいたらしい姫野冬華が、吉永に話し掛けていた。


 楽しい要素なんてあったっけ?


 最初の吹奏楽の演奏は良かったけど、それくらいしか内容覚えてない。


「え、何か楽しい事あった? 最初の演奏いいなとは思ったけど、その後ずっとお話だったじゃない」


 なんて事を考えていたら、殆ど同じ内容の疑問を吉永が口にしてくれた。


「うんうん。だって、在校生の先輩がね! “楽しんで学んで下さい”って言ってたから、楽しいなって!」


 全く持ってよくわからないが、姫野は大体いつも感じなので深く考えてはいけない。


「あー、在校生の祝辞? うーん、良かったと思うけど楽しいかどうかと言われると……」


「高校でもずっと一緒にいようね!」


「はいはい」


 見ようによってはあざとく映ってしまう天真爛漫な姫野冬華は、残念ながら完全に素の状態がこれなので手に負えない。


 とは、吉永の言葉であり、無邪気な姫野の飼い主のように見られている吉永は、これまでも大変な苦労をしてきたらしい。


 そんな、小学校の頃からの親友だと言う二人が一緒にいる光景は微笑ましい。


『──冬華とうかだ』


 だけど、それでも……ふと、三好の言葉を思い出してしまう。


 吉永は三好悠馬の事が好きで、三好悠馬は姫野冬華が好き。


 三人は小学生の頃からの幼馴染だと聞いているから、三人の中でどのような関係が築かれているのか、それは俺にはわからなない。


 でも、吉永は辛くなったりはしないのだろうかと思う。


 自分の好きな人が、自分の隣にいる友達を好きだと言う状況は、辛くないのだろうか。


 ……俺は強い人間ではないから、友達に責が無い事がわかっていたとしても、そう言う状況だときっと逃げたくなるだろう。


「姫野さん、吉永さん、もう少し静かに歩きなさい」


 とか考えていると、二人揃って先頭を歩いていた担任に注意されていた。


 中学では同じクラスになった事がなくてわからなかったけど、確かに苦労してそうだな、吉永。

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