第38話 遠足のグループを決めたわけだが
こうして、中間テストの結果が出た事で、チーム近藤の面々と適当に話している途中にふと気付いた事があった。
「そうだそうだ、井伊さんも柏木さんもちょっといい? 服部は横にずれろ」
「へいへい」
「なにー?」
「なになに?」
服部をどかした俺は、後ろに座る女子二人を手招きすると、軽く身体を乗り上げて近寄って来た二人を相手に小声で話を始める。
「二人ってもう遠足の班は誰と行くか決まってる?」
「えー、まだざっくりだよね?」
「だよね。凪々たちと組めればいいなって思ってるけど、そんくらい?」
「お、マジ? 俺と青島と服部三人で五人のグループに混ぜて貰おうって考えてるんだけど、そっち何人くらい居そう?」
「え? そうなの? 姫ちゃん達は?」
「今回は別行動なんだよねー」
「へー? あ、ちょっと待ってねー。凪々ー! ちょっといいー?」
俺の言葉を受けた柏木が立ち上がると、後ろの方で他のクラスメイトと話していた近藤を呼びながら手招きした。
「はいはーい?」
柏木白夜に呼ばれてスタスタと歩いて来たのは、チーム近藤を率いるリーダー近藤凪々。
高校ではダンス部に所属していて、幼少期から中学までは劇団に所属していたと言う元気女子でもあり、チーム姫野とは別の女子グループを率いる若きカリスマ。
いや、正直その辺はわからないけど、俺や青島の後ろの席に居る女子が近藤を中心に動いているのは何となくわかっている。
実際、今俺が井伊や柏木に提案をしたら真っ先に近藤を呼んだから、この認識で概ね合っているはずだ。
「どしたのー? 優菜テスト結果どんなだった? 青島くん達のも見せて見せてー」
「俺のこんな感じ」
「俺はこれ。ってか、何回このやり取りすんだ」
「はいよ。こんなんいくらでも見ていいけど、そうじゃなくて」
「ほうほう。おー、鹿島君すっご、やるねー!」
「だぁろぉー? ……いやそうじゃねえよ」
グーを突き出して来た近藤の勢いに飲まれて、思わずグータッチをしてしまったが、そうではない。話が進まない。
「青島君と鹿島君と服部君が、遠足の班一緒にならないかって聞いて来たんだけど、どうする?」
しかし、俺の視線に気付いた井伊さんが話を戻してくれた。ありがたい。
「え? なんで? 姫ちゃんは?」
「なんで全員姫野さんの事聞くんだよ」
「えだって、鹿島君いつも姫ちゃんと一緒だし?」
それもそう……なのか?
だけどそれは吉永と一緒にいるのであって、姫野と一緒にいるわけではない。
「でも、次の遠足は別々なんだよなー。だから、明日の班決めで手間取るのもだるいから、今のうちに聞いとこうかなって」
「俺等は蒼斗と服部が固定ってか、一緒なのは前提で。他に今五人決まってるって所があればそこと組もうかなーとは話してたけど」
「この提案は蒼斗の独断専行だけどなー、俺も誰でもいいとは思ってる」
「誰でも良いとかびみょいんだけど、私らも決まってるのは五人だっけ?」
「だよね? 私と白夜とナナで、後はリサとリコだから」
「オッケー! リコリサには後で聞いてみるけど、とりあえずオッケー。いえーい!」
「いえーい」
近藤の突き出したグーに、青島と俺と服部が順番にグータッチを決めた所で、話は纏まった。
もし姫野と吉永がいなかったら、一組の中心になって盛り上げていたのは近藤なんだろうなーとか思いながら、その後はまた中間テストの話に戻る事に。
そんな感じで、蒼斗がチーム近藤と楽しそうに会話をしている光景を、離れた席からチラチラと眺めていた紅葉は、ふつーにイライラしていた。
◇
翌日のクラス会は先生が言っていた通り、遠足についての話し合いがなされた。
まずは行き先発表だけど、一年生に関して言えば例年同じだから皆既に知っているので、そこまでの盛り上がりはない。
お台場なんて行って楽しいのかどうかはわからないけど、遠くから深山に来ている生徒も居るだろうから、一概に全員が興味ないとも言えないだろう。
「では、まずは八人一組で五グループを作って下さい。グループが出来たら次の話に進みますね」
そうして、教壇に立っている女子のクラス委員長の田邊が言うや否や、全員が動き出して活発に話し始める事となった。
部活が忙しい人達は時間が無くて根回しが足りていないようで、教室内を精力的に動き回っては、クラスメイトに声を掛ける。
仲の良いクラスメイト、お近づきになりたい女子、お近づきになりたい男子が居るであろう者が、あの手この手で誘っているが、もうグループが決まっている俺はその様子をぼけーっと見ていた。
深山の生徒だけではないようだけど、勉強が好きで何時間も机に向かって集中できるような連中は、基本的に何をやるにもモチベが高い。
学校の行事の一つ一つに対する熱の入れようが、中学の頃とは段違いな気がする。
鹿島ー! 俺んとこと組まね!
鹿島君もう誰と行くか決めた?!
えー、もう誰と行くか決めてるのー?
等々、最前列の窓際付近の席に居座る俺の所までやって来ては、グループの勧誘活動に勤しむクラスメイトが多々いる。
そのテンションの高さにこっちまで楽しくなったのはいいけど、意外とみんな根回しをしてないんだな、とは思った。
俺もまだクラスメイト全員が友達だと言える程に関係を深めてはいないけど、とりあえず全員と挨拶して雑談が出来る程度の知り合いにはなっている。
だから、多少なりとも話せる人間をとりあえず誘ってるだけかもしれないけど、もしかすると、中間テストの結果を知って、評価を上げてくれた人もいるのかもしれない。
よくは分からないけど、モテる人間ってのは生まれた時からこう言う感じなのかもな!
ちょっと楽しいかも。
これがモテる奴らが見ている世界なのかな!