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第37話 テスト結果は良かったけど 


 日曜日を挟んだ週明け、中間テストの結果はすぐに出た。


 各教科の授業の初めに答案用紙が返却されて、俺の予想した通りと言うか皆予想していただろうけど、間違いの多かった問題の解説と、テスト問題に関連する過去の大学受験の解説等々。


 全ての勉強は大学受験に繋がっていて、大学受験に出される問題が定期考査で出される問題の延長線にある事を教えられた。


 教師陣も大変だろうに、きっと日曜日にも採点していたに違いない。凄い。


 試験結果に一喜一憂する懐かしい教室の空気を感じながらも、全教科の結果が出揃った翌日。


 帰りのホームルームで、担任からペラペラの細長い紙を渡される事となった。


「はい、鹿島君。まだ上を目指せるので、期末では期待していますよ」


「はい」


 出席番号順に呼ばれて、担任から個別に渡されたペラペラの紙。


 それは、各教科の点数、クラス順位、学年順位、平均点が書かれていて、一枚で全てがわかる小さな成績表だった。


「おおー」


 中学ではこんなの渡された事が無かったので、ちょっと感動。


 受け取った生徒は全員が食い入るように紙を見つめているが、もちろん俺も今回の結果を興味深く見ていた。


 しばらくして、全員にペラペラの紙を渡し終えると、担任から中間テストにおける一年一組の評価や、学年評価、過去の学生の話などを聞かされてお開きとなる。


「どうだった! 蒼斗!」


 そして、先生が退室するや否や、隣の席から嬉しそうな声が聞こえてきたので、そちらへ向く事に。


「はいよ、俺のはこれな。康太のも見せて」


 と言う事で、お互いの紙を交換して確認し合う。


 青島のクラス順位は40人中、18位。


 学年順位は286中、99位と、しっかりと中盤以上の──見方によっては、上位層と言えなくない位置。


 英国数だけで見ると少し心許ないけど、そこに関しては俺も人の事を言えない。


「おおー……。いや、疑ってたわけじゃないんだけど、やっぱ蒼斗勉強出来るんだな」


「たまたまだ。たまたま」


「どれどれ。俺にも見せてくれよ、っと」


 そう言って会話に加わった服部が、青島が手に持っていた俺の紙をひょい取り上げてしまった。


「おい、俺──」


「ほらよ」


 すると、俺の紙を見るなら服部のも見せろと言う前に、服部の紙を手渡された。


「おー、蒼斗がクラス3位って事は、やっぱ1位2位は田邊と吉永さんのどっちかって感じか」


「じゃね? あっちで囲まれてるから聞いてみたら?」


「いいよ、面倒くさいし。落ち着いたら聞くって」


「服部はクラス11の学年74か、全然いいな」


 週一の料理倶楽部と違って、部活と道場通いでほぼ毎日剣道をしている事を考えれば、やっぱり服部は頭が良いのだろう。


 要領が良いとも言える。


 と言う事は、服部より勉強が出来るらしい篠原もそれなりに上位か。


「でもこれで分かったよな、服部」


「あ? 何がだ?」


「康太は普通に勉強出来るって事がわかったろ?」


 紙を返しながらそんな事を言えば、紙を受け取った服部が笑顔を浮かべて肯定する。


「そら、勉強出来なかったら深山に来てねえしな」


「だけど、まだちょっと上と差があるから。こっから気合い入こうぜ、康太」


「うっす!」


 何事も出来ると思わなければ上達は遅い。


 京大を目指すとすればまだ足りないだろうけど、二百位とかじゃなくて本当に良かった。


 ここから波に乗って田邊に食らいついていけば、青島の目標は全然不可能なものではない。十分に実現可能な範囲だろう。


「いやー、でも蒼斗やるな。クラス3で学年15か」


「俺は服部と違って部活に時間取られてないから、今回はそれだけだって」


 総合で見れば学年15位かもしれないが、科目毎に見ればそれも変わってくる。


 英語は一桁だけど、国語と数学はどちらも20番台だから、俺の点数で15位って事は、上の生徒は今回のテスト内容程度なら全部満点を取っているのかもしれない。


 ここを改善しない事には学年トップ10には絶対に入れないだろう。


 つまり、吉永には追いつけないと言う事だ。


 クッソ……。めちゃくちゃ勉強したのに、全然足りてなかった。


「それだけじゃないって。だって俺の入ってる英語研究会も週一の活動でこれだから、いや、やっぱ服部も蒼斗もすげぇよ」


「お、落ち込むなって! な、蒼斗」


「まだまだこっからだよなー! 行けるなら勉強会の頻度増やしてもいいしさ。時間あるなら俺んに来るか、別に俺が康太の家行って一緒に勉強してもいいから、次は今より順位上げようぜ」


「……うっす!」


 そんな感じで、自分に言い聞かせるように気合を入れて、気持ちが切り替わって来た所で──背後からお声が掛かる。


「青島くん達どんなだった?」


「あ、えっと、俺はこんな感じで、蒼斗は──」


 皆のテスト結果は気になる。


 特に周囲の席に座る人がどんな感じの点数を取って、どんな順位なのかなんて、とりあえず聞いてみたくなるものだ。


 自分の点数が良ければ自慢したいし、悪ければ自分より悪い点数を探す。


 それが学生と言う生物のさがだと思う。


 ちなみに、俺は見せびらかしたい派閥に属している嫌らしい人間の一人なので、喜んで見せびらかす。

 

「はいよ、俺のこれー。井伊いいさんと柏木かしわぎさんのどんなどんな?」

 

「うわすっごー! 鹿島君クラス三位だよ、見てみて白夜はくや


「えー、すごー、私の前の席の人優秀だー」


「だろー?」


 青島と俺の後ろの席に座る女子。


 井伊いい優菜ゆうなさんと、柏木かしわぎ白夜はくやさんに褒められた事で嬉しくなった俺は、自信満々に二人の褒め言葉を肯定して頷く。


「服部君も点数たかいねー」


「蒼斗と違って俺のはたまたまだけどなー」


「青島くん私と同じくらいだあー」


「俺はもうちょい上になりたいから、次はもっと頑張りたいんだけど、柏木さんって──」


 入学して一月も経過すれば、もう男女などあんまり関係ない。


 席の近いクラスメイトとはそれなりに打ち解ける。


 他の人達がどうだか知らないけど、少なくとも俺の場合は小学校中学校と、いつも席の近い人達とは仲良くしているので、この辺は高校に上がっても変わらない。


 吉永と姫野が男女関係なく群がられているように、一月二月と一緒に過ごせば、仲良しグループとは関係なく、クラス全体としてのグループが構築されていく段階に移行する。


 と言う事で、席近せきちかの民なんて、仲良くならないわけがない。


 基本的にトイレ以外で席から一歩も動かないチーム青島は、必然的にそのすぐ後ろにいる女子グループ“チーム近藤”と話す機会が増えているような気がする。


 青島の後ろが、井伊いい優奈ゆうなさんで、その後ろが石井いしい理沙りささん。


 俺の後ろが柏木かしわぎ白夜はくやさんで、その後ろが城内きうち莉子りこさん、そんでその後ろが近藤こんどう凪々(なな)さん。


 俺の横の佐久間さくまさんも女子なので、俺と青島は周囲を女子の壁に阻まれている状態。


 その為、入学直後のチーム青島は、若干孤立していたような気もしないでもない。


 だが、高校生活に慣れた今は中学の頃と同じように、もう男女とかどうでもいい感じになっているので、今となってはどうでもいい。


 チーム近藤は何かと話し掛けて来てくれたので、今では自然と話す事も増えてきて、こちらから話し掛ける事も増えた新しい友達だ。


 女子の友達はそんな感じだけど、もちろんクラスの男子とは既に全員と喋ってリリンクも交換しているので、どっちと仲が良いかと言えば断然に男子の方が仲はいいけど。


 個人的に一年一組は話し易い人しかいないので、大当たりのクラスかもしれない。


 その為、男子の誰が女子の誰を狙っているかと言う話しもちゃんと流れてくる程度には、しっかりとクラスに溶け込めている。


 まあ、女子側の話はまだ箝口令かんこうれいが敷かれているのか、男子に中々流れて来ないんだけど、それもそのうち流れて来るようになるだろう。


 中学の頃から、その手の話は一部で共有されていたからな。


 行けそうならくっつけようみたいな流れはよくあったから、慣れっこなのだが……。


 今回のクラスは中学までと少し勝手が違うので、そこが影響していそうな気もしていたり、いなかったり……。


 と言うのも、クラスのそこそこの数の男子が、姫野に魅入られてしまっているんだよな。


 確かに姫野はちょっと変わっているけど、彼女が良い子であるのは間違い無いから、男子数名が水面下で姫野を狙っているのが現状。


 それにまあ、姫野は男女とか容姿とか関係なくクラスメイト全員に接する上に、あれで交際経験無しの彼氏無しって言うんだから、男子が躍起になるのも仕方ないのかも知れない。


 とは言え、姫野は誰とも付き合うつもりがないっぽいから、結構な難易度だと思う。


 一応、話せる限りの事は男子にも共有したんだけど……。


 それでも! もしかしたら! と、ワン・チャンスを夢見る夢想家がそこそこ居るのが、今の一組。


 服部が彼女持ちで、クラス一のイケメンである青島が姫野に興味ないってのも大きいのか、だったらいけるかもしれないと考えた男子が、さり気なく姫野にアプローチを掛ける姿はなんとも言えない。


 まあ、俺だっていつの間にか吉永の事が好きになってたから、姫野だって些細な切欠でコロッと恋に落ちる事はあり得るのかもしれないけど。


 望み薄だろうな。


「──井伊さん良い点取ってんねー。77点が2つもあるの凄いじゃん」


「えー、鹿島くんそれ褒めてるー?」


「褒めてる褒めてる。スリーセブンより上のフォーセブンだから凄い縁起良さそうだなって、な? 康太」


「俺は77点一つもいらないから井伊さんより上の順位になりたい」


 柏木はよくわからないけど、井伊さんはやっぱりしっかりしてるな。


 点数も良い感じに高い。


「じゃあ青島くんは私のと交換しよっかー」


「白夜のと交換しても青島くんの順位あがんないじゃん」


 所属する部活とテスト結果。


 これで入学直後、新学期の暫定的な校内ヒエラルキーがひとまず決定する。


 中学まではそこまでだったが、やっぱり進学重視の高校だと、勉強が出来る事は運動が出来るよりも評価が高いのかもな。


 俺がクラス3位とわかると微妙に見る目が変わったように思う。


 頑張って吉永より上になって“鹿島すごーい!”とか“鹿島かっこいー!”って褒められたかったんだけど……。


 難しそうな上に、吉永が絶対に言いそうに無いのが残念でならない。

上には上が居るのが世の常だったりするんだよな

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