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第36話 文字だけでは伝わらないけど


 考えてもわからない事を考えて、私は足をバタバタと動かす事しか出来なかった。


「うぅ……」


 鹿島に振られたくない。


 今の関係を壊したくない。


 でも、振られるよりもずっと怖いのは、鹿島に──彼にガッカリされてしまう事。


 その事を考えると、本当に怖くて堪らない。


 好きと言うたった二文字の言葉が、どうしても口から出て来てくれない。


「そんな事ないと思ってたんだけど……」


 私って惚れっぽいのかなぁ。


 もうどうでもいいけど、中三まではずっと三好が近くに居たから気付かなかっただけで、優しくされたら誰にでも靡いてしまう残念な女子なのかな。


「ううぅ……」


 枕に顔を埋めて藻掻いてみるも、何もわからない。


 鹿島が好き、それは間違いない。


 手を繋ぎたい、キスもしたい、触りたいし触って欲しい。


 好きは好き。絶対好き。凄く好き。


 鹿島の事ばっかり考えてる。


 でもこれが、鹿島の言う真剣な恋なのかわからない。


『一年も経たずに好きな人が変わるなんて、本当に真剣に考えてる?』とか言われたらって考えると、死ぬほど怖い。


 もちろん、鹿島は絶対にそんな事を言わないってわかってる。


 わかってるんだけど、もしかしたらそうなのかも知れないと思ってしまう自分も居るから、尚更にわからない。


「──鹿島が」


 私の事を好きになってくれたらいいのに……。


 そしたら、私は大手を振って付き合える。


 こんなに悩まなくても済むのに。


 そうして、勉強をする気も起きずに、着替えもしないでダラダラとベッドの上で寝転んでいると、スマホから通知音が聞こえてきた。


『もう全員知ってると思うけど、遠足グループは勉強会のグループじゃないんで、よろしくー』


 人の気も知らないで呑気なリリンクを送ってきて──!


「バカバカバカバカ、アホアホアホアホ」


 悪口を言い慣れていない私の口からは、非常に語彙力の乏しい暴言が飛び出してきて、寝転がりながら仕方なくスタンプで返事をする事しか出来なかった。


 もうホント知らない。


 適当な男子と班決めて見せつけてやろう、私だって頑張ればそこそこモテる事をアピって……とか、そんな事をしても鹿島は何とも思わないんだろうし、そう言うの見たらガッカリされそう。

 

 でも、少なくともこの案を採用した青島には、夕花と組めなかった事を残念だと思わせてあげよう。


 なんて、黒い事を考えていると再び通知音が鳴った。


『それと、期末前にも時間あればどっかで勉強会したいって考えてるんだけど、勉強会あれば参加したい人いるー?』


 そのチャットが目に飛び込んで来た瞬間、うつ伏せを止めた私はガバっと身体を持ち上げて、ベッドの上で正座した。


 一番に反応したら私が鹿島にがっついてるみたいで恥ずかしいから、早く誰か反応してよ。


 ポンポンと押されるスタンプに紛れて、私も賛成と参加を表明。


「う、うんうん。よしよし」


 鹿島との約束が二つ目になった!


 いつ行くのかわからないけど、ボロ塾での挨拶と、期末前の勉強会。


 だけど、自然と頬が緩んだ私だったけど、すぐに色々と考え始めた。


「……」


 また冬の家で勉強会になったら、どうしよう。


 気の所為かもしれないけど、最近の冬の鹿島に対する距離が少し近いような気がする。


 もちろん、元々男女問わずに距離が近いから気にし過ぎているだけだとは思うけど。


 まあ確かに、小学生の頃は引っ込み思案だったけど、中学生になる頃にはもうずっとあんな感じで、誰に対しても距離が近いのは昔からで……。


 冬は、本当に何も考えていないと思う。……思う。


 だから高校でも、きっと──。


『こっちの鹿島君は高校じゃなくて中学からの友達だよー! ねー!』


 ──鹿島の腕に抱き着いていた冬を思い出すと、苦しい。


『あ! それなら鹿島君だよ!』


 夜の会話を思い出すと、胸に痛みが走る。


『ねね? 鹿島君はうちで勉強しないの?』


 先日の言葉を思い出すと、心がざわつく。


 冬の言葉に深い意味なんて無い。


 あの子の行動に深い意図なんて無い。


 ただ思った事を口にしただけで、鹿島だからじゃなくて、誰に対しても同じ事をしていた。


 冬とは長い付き合いだから、わかる。


 冬の言葉に引っ張られて、そう見えているだけだってわかってる。


 そんな事わかるけど。


『じゃあ、期末前の勉強会は私の家でやらない』


 鹿島をこれ以上、冬に近付けたくない。


 冬じゃなくて、私を見て欲しい。


 他の誰が冬を見て冬に夢中になっても構わないけど、鹿島にだけは私を見て欲しい。


 そんな事を考えていたせいか、あっと思った時には欲望丸出しのチャットを送ってしまっていた。


「ちっ、違う違う! ヤ、ヤバッ、えっと──」


 鹿島に家に来て欲しいみたいに勘違いされてしまうかもしれない。


 いや、それはもちろん来ては欲しいけど、それでもこんな事で気持ちが透けるのはイヤ!


『毎回冬の家じゃ迷惑だろうから、夕花も、鹿島も他も良ければだけど』


 と言う事で、急いで次のチャットを送信した。


「よ……よし、完璧。あっぶな」


 いつだったか鹿島が言っていたけど、文字だけでは相手の本音は見抜けない。大丈夫。


 言い訳も完璧だから、何を考えているかまでは絶対にわからない。


『俺も賛成』


 その返信を見た直後、もう遠足の班なんてどうでもいいかもーと思い始めた私は、鼻歌交じりにようやく着替えを始めた。


「ふふふ。新しい下着を買った方がいい──とか! なんちゃってなんちゃってなんちゃってー! 夕花達だって来るんだからねー」


 下着姿になった私は、姿見の前に立つと、ちょっとポーズを取りながらそんな事を言った。

それでも、この気持ちが届いて欲しいなって。



第一章『たった二文字の遠い言葉』はここで終了です!


以下、次章予告。


今はまだスマホ越しに静かに想い合う蒼斗と紅葉。

だけど、二人の高校生活は始まったばかり。

出会いの季節を乗り越えて中間テストが終了すれば、待っているの遠足や球技大会と言った学校行事。

蒼斗の過去に触れる紅葉、新たな登場人物との出会いと衝突、紅葉の家で開かれる勉強会。

本格的に始まった学校生活の中、二人は静かに、より強く惹かれ合って……?


続きまして、雨降って地固まる、第二章。

『不器用な努力家たち』をお楽しみください。


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