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第34話 文字だけでは伝わらないけど


 中間終わりで部活が解禁されたと言っても、今日は料理倶楽部が無い日なのでさっさと帰宅。


『──と言う事を話してた』


 帰宅した俺はすぐに、受験前に作った吉永と姫野と俺の三人で構成された、リットリンクのグループチャットに今日の話を流す事にした。


 そうして、簡潔にまとめた話をポンと送った直後。


 十秒も経たないうちに、姫野の反応があった。


 姫野からは、最近人気の気味の悪いキャラクター。


 人参と兎を合体させたような、ゆるキャラの『ラベちゃん』が絶叫しているスタンプが送られてきた。


『いいんじゃない? こっちはこっちで相手探すから、次の遠足は別々って事で』


 続いて、しばらくしたら吉永からの淡白な返事があった。


 返事の後には、可愛らしくデフォルメされた熊が寝転がって手を振っているスタンプも送られてきた。


「うーわ……。素っ気ねぇ……」


 自室で制服を脱いでいた俺は、リリンクに送られて来た返事を見るや否や深い溜息を吐き出す。


 姫野は別として、吉永の反応が淡白だった事にちょっとだけ凹みつつも、チーム青島が自分達で決めた事だから何も言う資格が無い事もわかるので、ただ溜め息を吐き出す。


「一緒に行きたかったー、とか。そう言う感じの──いや、吉永の口からは絶対出てこないよな……。そもそも同じ班になりたいとか思ってんの、俺だけだけだし……」


 スマホを机の上に置いた俺は、独り言と溜め息を溢してから、さっさとシャワーを浴びる事にした。


 もちろん、好きな人とは四六時中一緒に居たいと思う。


 機会があるなら、いつだって行動を共にしたいと思っている。


 付き合えたらいいなーと思ってるし、付き合えたらキスもしたいし。


 ……いや、まあ、もちろん、その先もしたいと常日頃から思っているけど。


 吉永が三好と同じ高校に行こうとしていたように、青島が頑張って田邊と同じ高校に合格して、今は京大を目指しているように。


 昔の俺は『高校大学くらい自分で選べよ』とか思っていたけど、今は好きな人と一緒に居たいと言う奴の気持ちが、痛い程に理解できる。


 世界の中心が自分ではなくなってしまう感覚が、よくわかるようになった。


 だけど多分、学校生活はそれだけではないとも思っている。


 全てが全てを、好きな人を中心に考えれば良いわけではなくて、俺は友達との関係も大切にしたい。


 それこそ、恋愛と同じくらいに友達関係も大切にしたいと考えている。


 友達との関係を大切にするのと同じくらいに、勉強に集中しなければとも考えている。


 恋も友情も勉強も、目の前の全部に真剣に向き合ってこその学生生活じゃないだろうか……と思う。


 だから、今回は色々考えて別々の班になったわけなんだけど──。


「はあ……。どうせなあー……」


 それに、焦った所で吉永が俺に振り向いてくれるわけでもないからな。


 むしろ、遠足でまだ仲良くなれていない人が一人ポツンと入ってきて、そのせいでギスる可能性を考えれば、今回はお互いに友達と楽しんだ方がいいだろう。


 そんな事を考えながらシャワーを浴びて、部屋に戻ってスマホを見ると、青島と服部からもチャットが届いていた。


『田邊に話したらオッケーだってさ』


『遠足の話、愛実が良い感じに伝えとくってよ』


 いやいやいや、全員個別に話してたのかよ。


 俺は俺で吉永と姫野に話したけど、誰も勉強会グループで発言してないと思っていたら、裏で各々話してたのかよ。


「あはは!」


 馬鹿らしくなってしまった俺は、パンツ一丁でスマホを眺めたまま少し笑ってしまって、勉強会グループの方でチャットをする事にした。


『もう全員知ってると思うけど、遠足グループは勉強会のグループじゃないんで、よろしくー』


 俺が送ったチャットにはすぐ反応があって、ポンポンポンと各々が愛用しているスタンプが送られて来る。


 篠原と服部はそれぞれ女子バスケと剣道の部活中なのか、二人の反応はなかったけど。


 まあ、後で気付いたら反応するだろう。


『それと、期末前にも時間あればどっかで勉強会したいって考えてるんだけど、勉強会あれば参加したい人いるー?』


 続いて送ったチャットにも、次々とスタンプが送られて来た。


 早ければ明日にでも、中間テスト一日目の結果が出るだろう。


 そして、来週には結果が出揃って現状の順位がわかる。


 結果次第ではより本腰を入れて勉強しないといけないが、仮に結果が良かったとしても、今度はそれを落とさないように頑張らなければならない。


 だから、勉強会でお互いのモチベを上げておきたいと考えていた。


 ……それから、遠足で別々になる代わりに、それ以外で吉永と一緒にいられる機会が出来れば嬉しい、と言う下心がある事も否定しない。


 勉強会って言えば吉永もまた参加してくれるかな、とか。


『じゃあ、期末前の勉強会は私の家でやらない』


 ──下心は確かにあった。それはもちろん、あったけど。


『毎回冬の家じゃ迷惑だろうし、夕花も、鹿島も他も良ければだけど』


 でも、まさか吉永の家に誘われるとは思っていなかった。


 いやいや、俺だけが誘われたわけじゃないけど……。ないけど!


 それでも、これはヤバイ。


 今すぐにでも一番に反応をしたいが、それでは俺が吉永の家に行きたがっているみたいでキモいと思われるかもしれない。


 ……いや、もちろん行きたいけど。いいから、早く誰か反応しろ。


 そんな事を考えながらスマホを凝視していると、ようやく田邊が反応してくれた。


 一分も経ってないのにやけに長く感じた気がする。


『私はそれでいいよ』


 と言う田邊の反応を見た後で、しれーっとチャットをする事にした。


『俺も賛成』


 短い文章では相手が何を考えているのかなんて伝わるわけがない。


 それはわかっているんだけど、打った後に、これで大丈夫だっただろうかと不安になってしまって、少しそわそわして部屋の中を歩いてしまった。


 まあでも、確かに、遠足の班はもう少し考えても良かったかなと思う気持ちもあるけど、勉強会で吉永の家に行けるなら最早どうでもいいまであるかも。


 まさか過ぎる展開にすっかり舞い上がってしまった俺は、ニヤニヤしながらスマホ画面を見つめると、気持ちを切り替えて勉強を開始──。


『次の勉強会は俺も康太も愛実も。てか全員、直前で体調不良になって参加出来なくなってもいいけど、どうする』


 そうしてしばらくすると、部活が終わったらしい服部大明神からの個別チャットが届いた。


『嬉しいけど、服部達が欠席しても姫野は絶対に参加するだろうから普通に参加してくれ』


『おけ』


 大変有難い内容だったが、誰がどう説得しても姫野が参加を取りやめるとは思えない上に、そこまで参加者が減れば勉強会自体が消滅しかねない。


 と言う事で、服部の申し出は丁重に断った。

それでも、この気持ちが届けばいいなと思ってしまう

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