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第32話 微妙な距離感に注意して


「あんま言いたくないけど、上を目指すなら終わった事に気を取られ過ぎんなよ、康太」


「あ、ああ。わかってる」


「仮に今回の中間の結果が振るわなかったら、期末で挽回するすればいい。俺も中間終わったらまた勉強付き合うから。とりあえず今日は帰って明日の教科の復習をしようぜ」


「うっす」


「服部も家近くて暇なら康太の勉強付き合ってやれよー」


「はいよ。隣で誰か勉強してる緊張感ってのは、集中に繋がるしな。やるかー」


 田邊夕花は京大を目指している。


 東大ではなく京大なのはなんか理由があるとか言っていたけど、とにかく田邊は京大を目指していて、青島はそんな田邊と同じ大学に行きたいと考えているらしい。


 だから、入学直後の中間テストの出来で一喜一憂している暇があるなら、帰って勉強をした方が良い。


 別に今じゃなくて良い。三年後で良いんだから。


 青島は三年後、田邊に並べるように今から努力をすれば良いだけの話だ。


「じゃあ、また明日なー」 


 青島と服部と三人並んで帰るのは校門まで。


 そこからは、通学に使っている最寄り駅が違うから、離れ離れになってしまうのでちょっと寂しいと思っている。


 と言う事で、一人で考え事をしながら駅に向かって歩いていた所。


「鹿島君だー! やーっほー!」


 背後から声が掛かった。


「お? おお、吉永と姫野さんも帰りか」


「一緒に帰ろー!」


「うぃーっす。二人共今日の感触どうだった?」


 テスト期間中の好きな所は、寄り道する事なく帰宅する者が殆どと言う事だろうか。


 その結果、帰り道が同じと言う事で、吉永と一緒に帰宅できる機会が増える点は素晴らしい。


 ついでに姫野もついてくるけど、周囲の視線や姫野に突然話し掛けてくる見知らぬ男子にも今はもう慣れたから、あんまり気にならなくなってきたと思う。


 だから俺は、毎日テスト期間でも毎日テストでも構わないと思っている。


 そうすれば吉永と一緒に帰り放題だからな。


「満点は取れたと思うけど、何処かでミスってる可能性も無きにしも非ずー、かなー?」


「しれっと凄い事言ってるけ──」


「私も良い感じだったよ!」


「そ、そうか。姫野さんも良い感じだったんだ」


 テストの感触が良かった事が嬉しいのか、姫野がずいずいっと身体全体を近付けてきたものだから、思わず一歩横にずれてしまった。


 ゴールデンウィークが明けた所で、クラスの全員、もちろん俺を含む全員が私服登校になったわけだが、そうは言っても俺みたいに下は制服を着て上にパーカーを着てる男子も多い。


 それに私服と言っても、女子は女子で何処かの学校の制服なのか知らないけど、お洒落な柄のプリーツスカートにシャツを合わせた、知らない学校の制服みたいな恰好をしていたりもする。


 だから、私服と言えば私服なんだけど、ぱっと見はそこまで私服感が無いと言うか。


 制服プラス何か、みたいな感じの生徒が殆どだったりする。


「テスト期間中は毎日吉永と勉強してるんだっけ?」


「うんうん。毎日紅葉が家に来てくれるんだー」


「引きずり込んでるの間違いでしょ、全く冬は……」


 そんな生徒の中、吉永の言葉を受けて楽しそうに笑っている姫野の私服は、今の所毎日違う。


 毎日雑誌を飾るモデル並みにバシっとお洒落を決めてきているので、喋らなければ美少女である事をうっかり思い出してしまうくらいには、彼女のコーデに日々感心している。


 少なくとも俺が把握している範囲にはなるが、深山高校の女子の中で頭五つか六つは抜けて目立っていると思う。


 私服になってからは、知らない男子生徒に話しかけられる回数も激増してるから、大変そう。


 その点、吉永は俺と同じような感じで、下は制服のスカート──と言っても深山ではない何処か別の学校の制服のスカートに、上はシンプルなパーカーと言う、ちょっとリンクコーデみたいで喜んでいる自分が居る。


 尤も、下が制服で上がパーカーの男子生徒なんて山ほどいるんだけど。


「あんまり吉永をこき使っちゃ駄目だからなー、姫野さん」


「そんな事してないよー! ねー、紅葉ー?」


「えー、どうだろー、私くたくたかもー」


「えー! ホ、ホントに?!」


「ウソウソ、冗談だから、ふふふ」


 不安そうな顔で尋ねる姫野に、首を振りながら溜息を吐いた吉永が意地悪を言ったものの、秒で撤回。


「引きずり込まれてるのはホントだけど、冬の質問は時々鋭いからね。わかんない所をわかるまで聞くからこっちもわかるし、覚えなさいって言ったら全部覚えるしね」


「へー? ああ、まあ、でもそう言えばそうか。勉強会の時、確かに質問めっちゃ細かかったな。姫野さん」


 吉永に褒められた事で得意になったのか、胸を張った姫野がこちらを見ていた。


「こき使ってないなら良かった良かった。疑って悪かったよ」


「うんうん!」


 頷きながらずいずいと近寄って来る姫野から、スイスイと身体を離す。


「そんでさ、俺は康太と服部くらいしか話聞いてないんだけど、田邊さんとか他の人らって感触どんな感じって言ってた?」


「夕花はばっちりだってさ」


「やっぱそうか」


「でも、いまいちって人もそこそこ居たよ」


「ほうほう」


「それから──」


 これはマジで、テスト結果出るまで分からない感じか。


 そんな感じで、吉永と初っ端の中間テストについて話し合っていると、しばらくして姫野が割り込んで来た。


「ねね? 鹿島君はうちで勉強しないの?」


「いや、ちゃんとしてるからな? 帰ったら毎日がっつりしてるから。特に最近は朝も七時に登校して教室で勉強してたしな」


「違うよー! 私の家で一緒にしないのー? 紅葉もいるから勉強の話沢山出来るよ?」


 んー?


 俺が首を傾げたように、吉永も首を傾げていた。


「え? だって鹿島君も家近いから、勉強会出来るかなって。ママもいつでも来て良いって言ってたよ!」


 先日の勉強会から微妙に懐かれているような気がすると思っていたのは、やっぱ気のせいじゃないのか? ただし──。


「いや、勉強会はまた青島とか呼んでやろう。テスト勉強は今までの復習が大事だからさ。復習だけなら一人の方が捗るだろ?」


「そうなんだー?」


 ──チラリと見えた吉永の顔が微妙に退屈そうだったので、今回は姫野の申し出を却下。


 吉永が来て欲しいと言えば喜んで行くんだけど、そうじゃないなら遠慮しとこう。


 それにしても、姫野に他意が無いにせよ、この距離感の近さは中々に考え物かもな。


 仮に俺が吉永に惚れていなくて、更には姫野の恋愛事情を聞いていなければ、俺も数多いる勘違い男子の如く告白していた可能性があったのかと考えると、中々に恐ろしい。


「ほーら、鹿島には鹿島の勉強方法があるんだから、無理言わないの」


「はい!」


 吉永の言葉に素直に返事をした姫野を見た俺は、軽く溜息を吐いた。

地雷の回避をしていかないとな

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