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第28話 その言葉は意外にも


 家が近いと言っても高校生は高校生。


 子供をあまり遅くに返すのは良くないと言う事で、姫野家での勉強会は二十時にはお開きに、男子は俺の家に移動した。


『ここまで来たら泊まっていけばいいのにー!』


 と言う姫野の言葉を受けた俺達が困惑したのは、彼女の言葉ではなく。


『そうね。空いてる部屋ならいくつかあるから、うちで良ければ泊まっていっても大丈夫よ』


 と言った姫野の母親の言葉で、それを聞いた時にやっぱ親子なんだなーと思った。


 当然、着替えやらの荷物は俺の部屋においてあるので辞退したが、中学生以降に姫野の家に男子を遊びに行かせないようにしていた吉永の判断は、正解だっただろう。


 そうして吉永に追い返された俺達は、苦笑いしながら帰路についたと言うわけだ。


「お風呂さんきゅー」


「ういー」


 順番にシャワーを浴びた後は俺の部屋でちょっとテレビゲームをして、小中の卒業アルバムを見たり、適当に遊んでいるうちに流石に寝るかーと言う時間に。


 母は今現在ゴールデンウィークで母方の祖父母の家に帰っているので、今この家で一番偉い俺は、当然自分のベッドで眠り、二人には床に敷いた布団の上で寝て貰う事になった。


 俺も母と一緒に祖父母の家に行くかと言われたけど、先日の一周忌で父方母方両方の祖父母や親戚にも会ったばかりなので、勉強会もしたいからと今回は辞退。


 その代わりに、夏休みには遊びに行こう。


「受験勉強かってくらい集中したわー」


「一人でやってると、どうしてもわかったつもりになってる場所あるから、助かった」


「康太は全然勉強出来てる方だから、そんな不安になる事ないと思うけどなー。な、服部」


「中学ん時も上から数えた方が全然早かったしな」


 寝る時間になって消灯したからと言って、すぐに寝るわけでもなく、何となく話は続いた。


「──なあ」


 しかし、暗くなった部屋の中で横になっていた青島が上体を起こした事で、軽かった話題は唐突に真剣な内容に変わる事となった。


「んー。明日も朝から姫野さんとこ行くから、早く寝た方がいいぞ」


「いや……俺さ、難しい事とかはちょっとわかんないし、これ聞いて良いのかもわかないんだけど──」


 一体何事かと思いつつも、ベッドで横になっている俺が横を見ると、布団の上で正座をしている青島と目があった。


「──あのさ、俺は田邊が好きだ。だから、田邊と同じ高校入る為に目茶苦茶勉強した」


「お、おう。そうか、わかった」


 と言う事で、思っていた以上に大事な話だったので、俺も上体を起こしてベッドに腰掛けて向かい合う事に。

 

 こんなにドストレートに白状するとは、やっぱ青島はカッコイイな。


 見た目だけじゃなくて、中身までイケメンかよ。羨ましい。


「だから、答え辛かったらいいんだけど……。蒼斗ってさ、好きな奴いたりする?」


「俺? 俺は……。まあ、そうだな、俺は吉永が好きだよ」


 青島に充てられたのか、この空気に呑まれたのか。


 違うか。


 単に、この二人になら話してもいいと思っただけだな。


 気が付けば、誰にも言った事のない感情が、思いの外するりと俺の口から飛び出していた。


「やっぱそうだよな!」


「やっぱってなんだ、やっぱって」


「いやいやいや、服部とそうじゃないかなって話しててさ、何となく予想してたんだよな?」


「……ま、そうだけど。ただ、蒼斗が黙ってる間は変に突っ込まないようにしようって話してたとこ。聞いたからには出来る範囲で協力するから、任せろ」


 座って向かい合っている俺と青島と違って、こちらに背中を向けて横になっている服部からは、大人の余裕を感じる。


「邪魔になるような事はしないから、中間終わりの遠足とか六月の球技大会とか、出来るだけ協力するから! な! 服部!」


「そりゃな」


「へいへい」


 暗い部屋の中でガッツポーズをしている康太を見て早く寝ろよと思いつつも、その優しさは素直に嬉しい。


「ただ、二人が協力してくれるのは嬉しいんだけど──」


「うん?」


「まあ、何て言うか、吉永の名誉の為に詳細は省くけど。吉永は中学の時──ってか、小学生の時か? そこは詳しく聞いてないからわからないんだけど、そん時からずっと好きな相手が居るから。まあ、あれだ、今んとこ俺の方の協力はいいよ」


「マ、マジか」


「あー……。そう言う感じ」


「マジマジ。服部と篠原さんと同じ感じで幼馴染みたいだから、正直どうすればいいのかもよくわからん」


 告白直後はちょっと会い辛そうな雰囲気もあったけど、一年も経てば気持ちも切り替わるだろう。


 家もめちゃくちゃ近いらしいから、春休みとかも会ってたりしたのかな、やっぱり。


 やべえ……いざ言葉にして再認識したせいか、硝子のハートにヒビが入りそうだ。


 いや、入ったかも。


「あっと、悪い、蒼斗。俺──」


「待て待て待て! 謝られると更に悲しくなるってか、別に吉永の事諦めてるわけじゃないからな? 今すぐは無理でも、何とか振り向いて貰おうとは思ってるよ」


 幸いにも深山に三好は居ない。


 努力次第でこっちを見てくれる可能性はある……と、思いたい。


「おっけ。蒼斗と吉永さんの事は俺が考えとくから、康太はとりあえず田邊の事にだけ専念しろ」


「う、うっす。わかった」


「そそ。俺は俺で何とか頑張るし協力は大歓迎だから、まずは康太と田邊さんっしょ!」


 結局、青島のせいで話が長引いてしまった俺達が眠りについたのは、たぶん零時を過ぎた頃だと思う。


 いつ寝たのか全然覚えてないけど、たぶんそのくらい。

簡単に口から出て来てくれた

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