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第26話 波長の合う友達だから


 五月初めにある大型連休。いわゆるゴールデンウィーク。


 とは言え、学生にとってはちょっと普段よりも休みが多いだけの、普通の週末でしかない。


 有給休暇なんて制度があるわけでもないから、部活に入っている者であれば部活動が、そうじゃなくても多くの学校では、五月中旬から下旬に新学期最初の中間テストがある。


 勉強なんか知らねー! と言う学生ならともかく、少なくとも深山高校に通っていて大学を目指していない人間なんて一人もいない。


 なので、深山の学生には嬉しいような嬉しくないような、と言うただの連休かも。


 もちろん、俺は普通に嬉しいタイプの学生だけどな。


 つい先日、四月末に父の一周忌を終えたから、しばらくは家庭の用事が何もないと言う事で気持ちが楽と言うのもある。


 それに、去年はゴールデンウィーク所の話では無かったから、普通に過ごせる今年の休みはそれだけで嬉しく感じていると言うのもある。


 それ以前だとサッカーをやっている間に休みが終わっていたので、割と初めて体験するゴールデンウィークかもしれない。


「おーい、こっちこっち」


 我が家の最寄り駅から出て来た青島と服部に手を振ると、すぐに気が付いてくれたのか、こちらに向かって歩き出した。


「ちーっす」


「おーっす」


 軽く手を挙げながら歩いて来た二人と挨拶を交わして、駅に直結している姫野が住んでいるタワマンを一旦通り過ぎる。


「とりあえず要らない荷物は全部俺んに置いてから、勉強道具だけ持って行く方が楽だろうと思ってな」


「蒼斗に言わるまで全然考えてなかったけど、助かるー」


「まあそんなに荷物多いわけでもないけど。でも、そっち泊まるからって康太と俺の家の親が用意したお土産を姫野さんの家で保管しとくってのも、変な話だとは思ってたしな」


「お土産とか良いって言っただろ」


「俺も蒼斗がそう言ってるのは伝えたんだけど……な?」


 俺の言葉に反応した青島がチラリと服部を見た。


「したら、こう言うのは子供じゃなく親御さんに迷惑を掛けるから持ってく土産なんだって言われて、無理矢理渡された」


「あー、まあ、親の視点ってのもあるのか。母さんはその辺気にしないと思うけど、お土産貰って喜ぶ事はあっても怒る事はないか。そもそも実家に帰ってるから家に居ないんだけどな」


 小学校程に保護者同士の繋がりが強くなる事はないだろうけど、同級生の親と過不足の無い関係を保っておくのは大切な事なのかもしれない。


 親の心など知る由もない俺達は、馬鹿話で盛り上がりながらまずは我が鹿島家に荷物を置いて、その後に姫野の家に向かった。


 ◇


 駅に直結している姫野の住んでいると言うタワマンに向かう途中の道で、吉永と合流した。


「悪い悪い。直で訪ねるのは抵抗あると言うか」


「いいよ、別に。共用部とかもあるから、中で迷子になって不審者にでも間違われたらこっちだって恥ずかしいし」


 軽く手を挙げて謝った俺に習って、ペコペコと頭を下げる男子に背中を向けた吉永は、すぐに歩き出して移動を開始する。


 四人居るので横に並んで歩くわけにもいかず。


 自然と俺と吉永が並び、後ろに青島と服部がついて来る形に。


「迷子は恥ずいなー。でも助かったってか、吉永はもう昨日から姫野さん泊ってるんだっけ」


「だねー。夕花ゆうかも昨日からで、愛実あみは今日の夕方に来るってさ」


 一晩泊まって間が縮まったのかな。


 いつの間にやら、田邊を名前で呼んでいる吉永の横顔を見て、そんな事を考える。


「勉強どの辺までやった感じ? 英数?」


「ん-ん。ちょっとやったけど、メインは普通に暗記だけ。英数国はわかってない所あれば、みんな集まってから苦手なとこやってった方がいいかなーって」


「暗記は勉強会でやっても仕方ないしなー。その辺は家でやるかどうかだから、やっぱり古文あたりと数学やって、後は英語って感じかー」


「そんな感じかな? そっちが何時まで冬ん所に居られるかわからないから、一日じゃそこまで沢山詰め込めないだろうけどね。愛実が来るまでにまずは青島君が何処苦手なのかだけ調べるとして、後は──」


 勉強会なんて言っても、結局は皆で集まって遊ぶだけのお遊び会──なんて事にはならない。


 そうならないのは、隣で真剣な顔をしながら予定を考えている吉永とか、田邊のお陰なのだろう。


 いつも姫野を後ろから支えて、今日は青島の事を考えて。


 誰かの為にいつでも真剣な吉永だから、せめて俺くらいは彼女の為に何かをしてあげられたらいいなと考えているが、中々上手く行かないんだよな。


「──な、なに?」


 そして、徐に俺の方を向いて首を傾げた吉永を見て、我に返る。


 勉強会の話を真剣に話している吉永に、普通に見惚れていた。


 吉永が勉強会について話していると言うのに、俺と言う色惚けは何を考えているのか。


「あ、や、別に、私服がさ! 吉永の私服久々に見たなって」


「え? あ、うん。な、なんか変?」


「違う違う、そうじゃなくて……。何て言うか、久々だなって。吉永も姫野さんもまだ制服登校だから、塾とか思い出して久々だなーって。マジでそれだけ」


「え、うん、久々かも?」


 俺の言葉が意味不明だったからだろう。


 吉永が困惑しながら自分の着ている服を見始めてしまった。


 ……すまん。てか、困らせてどうすんだよ、マジで。


 久々に見たけどやっぱり吉永の私服はセンスがあって可愛いって、そう言える勇気が欲しい。


 ◇


 真剣な顔をして話していた吉永の口数は急激に減ってしまって、なんとも言えない居た堪れない空気が二人の間に流れた、少し後ろ──。


「なあ、服部」


「んー」


 少し離れて後ろを歩いていた青島と服部の二人が、そんな二人の様子を見ながら会話をしていた。


「蒼斗ってさ、吉永さんの事好きなのかな? なんか、なんだろ? なんか、他の女子と話してる時と、なんとなく違くね」


「……さあな。どうだろうな。でも、本人黙ってるから突っ込んでやるなよ」


「まあ、そうか。それもそうか」


「機会があればそのうち話してくれるんじゃないか」


「そう、か。そうなのかなぁ」


 落ち着いた服部の言葉を受けた青島は、少し前を歩く二人を見て首を捻って考えていた。


 服部の言っている事はたぶん正しくて、高校で出会ったばかりで友達になったばかりの自分が、そう言う話題に突っ込むには少し早いのだろうとも思う。


 だけど、吉永さんの気持ちはわからないけど、蒼斗の為に何か出来る事があるなら手伝ってあげられないだろうか、と。


 青島がそんな事を考えている一方で、服部も色々と考えていた。


「こう言うのは周りが突っつくと変に拗れる事もあるから、何か言われたら協力するくらいでいいんだって」


 蒼斗も康太もあんまり自分が見えてないと言うか。


 教室の女子がひっきりなしに声掛けて来てる理由とかわかってんのかね、こいつらは。


 蒼斗に関しては姫野と吉永と仲良く喋ってっから、女子も遠慮して近付かないようにしてるけど、康太は無防備過ぎんだっての。


 田邊の事好きなら興味ない相手に優しくしてないで、まずは田邊にだけ集中しろよ。


 ただでさえ田邊は恋愛に興味ないみたいロボットみたいな奴なんだから。


 マジで気合入れて動いてくれ、マジで……。


 中学の頃から青島と友達であり、彼がその頃から田邊の事を好きだと言う事を知っている服部。


 彼は、青島に近付く女子をやんわりと遠ざけたり、二人の関係が周囲に茶化されたりしないようにと、人知れず見守っている苦労人。


 そんな服部にとって、これ以上面倒を見る相手が増えるのは考え物だったりするのだが──。


「でもさ、一応今日の夜に蒼斗の家で泊まる時に聞いてみるわ」


「……まあ、聞くだけならな」


 他人の恋愛事情に首を突っ込んでる場合じゃないだろう、と。


 ツッコミを入れたい気持ちを我慢した服部は、心の中で溜息を吐いた所で、結局友人二人をフォローする事に決めた。


 他人の事ばかり考えていないで、自分の為に頑張ればいいのに。


 康太も蒼斗も面倒臭い性格をしていると言うか……。


 まあ、そう言う奴の為になら動いてやってもいいとも思うけど。


 そんな事を考えている服部を含めて“チーム青島”は、高校入学一カ月にしか経っていないにも関わらず、早くも旧来の親友のように打ち解けていた。


「何にせよ、康太はまず勉強だな。クラス委員長が勉強できないとだせぇだろ、ははは!」


「うっす! ちょい二人と離れすぎたから走るか」


「はいよ」


「蒼斗ー! 吉永さんー! ストップストーップ!」


 蒼斗と吉永に追いついた二人は、先ほどまでしていた話を胸の奥にしまうと、勉強会の内容について口を開いた。

出来る限りの応援はしたいよな

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