第25話 過去はどうしようもないけど
よし、切り替え成功。
とりあえず前向きな話をしよう。
「──まあでも、いいんじゃないか? 吉永も姫野さんも結局どの部活入るのかわからないけど、折角の連休ならちょっとくらい遊びたいよなー」
「私は料理倶楽部に入るよ! 此間家でパウンドケーキ作ったらパパもママも泣いちゃって、すごい喜んでくれたから、私は料理を頑張るんだ! 紅葉も一緒に料理やろうよー! 料理楽しいよー?」
「へー?」
今の言い方だと、吉永が何処か別の部活に入ったとしても、自分は料理倶楽部に入るって言い草に聞こえたけど、どうなんだろう?
てっきり、吉永の入る部活にくっついて入るだけなのかと思ったけど、そうでもないのか。
二人とも今週の料理倶楽部の部活体験にも来てたから、もしかすると入部するのかもなーくらいは考えてたけど、吉永はどうなんだろう。
「吉永はもうどこの部活入るか決めたのか?」
「別に……。私も料理倶楽部だけど」
「やったー! 紅葉何処の部活入るか教えてくれなかったから、別々になっちゃうかなって思ったけど、これで三人一緒だね! 卒業までに誰が一番料理上手くなるか競争しよー!」
「競争はしないけど……。まあ、そうな」
週一とは言え、吉永と確実に一緒に居られる接点が出来るのは嬉しい。
「ねー、一緒だねー」
だけど、単純に喜んでいられる俺と違って、吉永の表情からは何とも言えない複雑な感じがする。
確かに、吉永と姫野の仲は良いんだろうけど、そうは言っても吉永の中では三好の事でのわだかまりはあるのかもしれない。
今も姫野の口からさらっと出て来た三好の名前もそうだけど、たぶん姫野は、吉永と三好の間に何があったのかなんて、本当に何も聞かされていないのだろう。
彼女がいつか致命的な失敗をする前に、その辺の事をやんわりと教えてあげたいとは思うけど……どうしたものか。
「まあ、それじゃあ、お互いこれから料理を頑張るとしてだ。勉強合宿は別にしても、勉強会くらいはやっときたいよな」
今は吉永の為に話題を逸らすくらいしか出来ないけど、折角なら前向きな話をしよう。
「したいしたいー! 紅葉に教えて貰うと全部わかっちゃうから、勉強会やりたいー!」
「だよなー! 俺も中間テストまでに吉永大先生様に色々と御教授願いたいと思っている」
「なによ、それ。入学してからの試験範囲なんてたかが知れてるんだから、このくらい鹿島なら余裕でしょ」
「私は不安だよー!」
「まあ俺はともかく、自称勉強が苦手っつってる康太は出来るだけフォローしてやりたいと思ってるんだよなー、これが」
「ああー……。青島君かー。うーん、だね。中間までに何処かで集まって対策するのは有りかもね」
姫野の事をずっとフォローし続けている事からわかるように、吉永は基本的に面倒見が良い。
困っている人を放っておけない損な性分をしているとも言える。
だから、青島を出汁に使ったみたいでちょっと悪いけど、俺は俺で康太の事をフォローしたいと思っているのも事実だから、卑怯とは言わないで欲しい。
「だったら私の家で合宿やろうよー!」
「だから冬──」
「ち、違うよー、紅葉ー? お泊り会じゃなくて勉強会だから、私も頑張るから! えっと、鹿島君と青島君と服部君と、えっと、後はアミちゃんも呼んでみんなで勉強会をするだけだよー」
「うーん」
肯定とも否定とも取れない表情を浮かべて首を捻っている吉永をスルーして、折角の場所提供に感謝した俺は話を進めてみる事にする。
「それなら田邊さんも声掛けてみたら? 康太達と同じ中学で仲良いんだしさ」
「夕花ちゃん! うんうん!」
「俺は姫野さんの家の事とかよくわかんないんだけど、男子が居るとダメって言うなら別の場所でやればいいっしょ。教室は、まあ、他の連中も居て邪魔になるだろうから、そこは追々考えるとして」
「うーん、かなー。冬の家なら広いし良いと思うんだけど、どうだろう」
「あー? てか、そうだよ。ほら? だったら、昼間は姫野さんの家で勉強会やって、夜寝る時は男子全員俺の家に来れば大丈夫じゃないか? あくまでも勉強会だけやって、お泊りは別にすれば問題なくね?」
「あそっかそっか。冬ん家からそんなに家遠いわけでもないしね」
「鹿島君凄い! 天才だよ!」
「だとしたら、世の中には天才が溢れかえってる事になるだろうな。でもまあ、これなら勉強会も出来るし姫野さんのやりたがってる合宿っぽくもなるし、良いんじゃないかなって」
「うんうん! アミちゃんと夕花ちゃんに早速聞いてみるよー!」
「おっけー。ただ、俺らはいつでもいいけど篠原さんは女バスだろ? ゴールデンウィークは難しいかもな。田邊さんがどの部活入るのか知らないけど、予定合うかどうかだよなー」
「うーん、愛実はそうかも。一応聞いてみるけど難しいかもね。でも田邊さんは英語研究会って言ってたから、スケジュール的にはいけるんじゃないかな?」
「ほー。へー、康太も英研だから余裕だって言ってたわー」
康太の奴そんな事一言も言ってなかったが……。
受験に役立つからーとかなんとか言っていたけど、実は田邊と同じ部活入りたかっただけだったりして。
「合宿楽しみだね!」
しかし、男女の機微など何も知らない様子の姫野が楽しそうに笑っている所申し訳ないが、こう言う事なら青島と田邊の距離を少しでも縮める為に何かしたいなー。
三人で合宿の計画を話しながら帰った道は、姫野のテンションが高くてうるさかったけど、中々に楽しかった。
これからの事は俺次第だもんな