第24話 幼馴染って本当にさぁ
高校生活も二週間が過ぎて、三週間が過ぎれば、それはもうただの日常である。
入学直後の何処か浮ついていた気持ちも、知らない者ばかりが集められた小さな部屋に漂うぎこちない雰囲気も、三週間も過ぎれば空の彼方に消し飛ぶ。
その代わりに、何処となく浮ついた気持ちが流れているのは、きっと──。
「康太と服部はゴールデンウィークなんか予定あんの?」
「俺か? 俺はないなー。野球やってた時はぎっしり練習と試合が詰まってたけど」
「俺は普通に剣道かな。一日中稽古するわけじゃないけど、何処か遊びに行くとかってのは何もないわ」
「まあそんなもんだよなー。ゴールデンウィークっつっても、普通に平日だし。三,四,五,六が四連休だけど、開けたらすぐに中間もあるっぽいしなー」
何となく浮ついた空気が流れているような、流れていないような。
そんな気がする理由の多くは、ゴールデンウィークが迫っているからだろう。
もしくは、入学直後に比べて教室の印象が少し変わったから、それで浮かれて感じているだけかもしれない。
ちなみに、教室の印象が少し変わったのは服装が原因だろう。
クラスを見れば、日々の部活動ですっかり深山高校の生活に慣れた者も多いようで、半分以上の生徒が既に私服で登校しているのが分かる。
実際、今俺の目の前にいる青島も、俺の机に尻を乗せて半分座って半分立っている服部も、二人とも私服登校なので、制服登校派はどんどん少数民族になっている。
まあ、そうは言っても、下は制服で上が私服みたいな生徒が殆どだけど。
「──だよな、中間まで一瞬だろうしなぁ。折角野球部入るの止めたから頑張らないとだわ」
「そんじゃあ、康太と俺は暇人どうし勉強合宿でもするか?」
「お、いいな。場所どうする?」
「なにそれ、それなら俺も参加したいわ」
「ういー。二人くらいなら俺の家で良いけど、それでいいか? 一応親に聞いてみるけど、99パー行けると思う」
「蒼斗の家か、俺はオッケー」
「練馬だっけ?」
「そそ。学校から三十か四十分くらいだけど、ちょっと遠い?」
「いや、全然行ける。最悪、部活終わってから参加でもいいよな?」
「そんなガチでやるかわかんないし、その辺は適当でいいっしょ」
そんな話をしていたゴールデンウィーク前のある日。
高校で出来た新しい友達二人を家に招いて、勉強合宿をすると言う話をリリンクで母に送れば、予想通りあっさりと許可された。
とは言え、世の中何がどう転ぶかは分からないものだ。
青島と服部と勉強合宿をしようと話した放課後。
料理倶楽部の最後の部活体験が終わった俺は、いつも通り吉永と姫野の二人と帰路に就いたんだけど──。
「えー! 合宿良いなー! 勉強合宿私も参加したいー! 私も鹿島君の家行っていい?! 行くよ行くよー!」
「……姫野さんはもう少し考えて発言しような」
朝、青島達と話したようにゴールデンウィークの予定についての話題が出た時、俺の家で勉強合宿をすると言った途端に姫野が噛みついて来た。
本当に何にでも噛みついてくる恐ろしい犬だな。
仮に参加する事になったとしても、何かする気とかは全くないんだけど……。
男子三人の合宿に当たり前のように混ざろうとするのは、どうかしているとしか思えない。
こんなので中学の時はどうしてたんだろうか。
まさか男子の家に泊まりまくってたのか?
どうなっているんだこいつは、と言う視線を姫野の隣を歩く女子に投げると、疑問はすぐに解決した。
「そんなのおじさんもおばさんも許すわけないでしょ。第一なんて説明する気なのよ」
「だって、お泊り会なら中学の時もやったよー」
「それは冬の家だからでしょ。男子の家にお泊りなんて絶対許可下りないでしょ」
「うーん……。あ、でも、紅葉と悠馬君の三人でお泊り会したよね! うちでだったら許可して貰えるかもー!」
「ちがっ……ぅ、から」
「おおー? やっぱ幼馴染とかってお泊り会みたいなのするもんなのか」
「いやいやいや! 全然違うからね、鹿島」
「だよー! 仲良しだよね!」
いやいや、お泊り会って。マジで仲良過ぎだろ、三好と吉永と姫野。
……幼馴染って現実だと普通に強すぎないか。
「いや、だから! それは小学生の時の話でしょって……。中学に入ってから男子とお泊りなんてしてないから! ね、違うから」
「ん? いや、ねって言われても、俺は知らないからなんともと言うか。なるほどなー」
「でも、修学旅行の時は皆でホテル泊まったよー」
「それは学校の行事でしょ!」
「そっかぁ。だったら、紅葉と私でお泊り会しよー! ゴールデンウィークなんだよ?!」
そうか、小学生の頃の話か。危うくショック死する所だったわ。
でも、小学生の頃は普通にお泊り会してたんだな……。
いやいやいや、小学生のお泊り会の話なんかで凹むなよ、俺。
あー、切り替えろー、切り替えろー。
強すぎないか? チートだろ