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第20話 なんでここに居るんですか


 午前の授業が終わって、チーム青島で昼食を取り、午後のオリエンテーションで受験のお話を聞いたり、高校三年間を通しての勉強計画の立て方を聞いたりしているうちに、時間は一瞬で過ぎる。


「康太も服部もまたなー」


「はいよ。蒼斗も頑張ってなー」


「美味い物作れたらリリンクにでも載せてくれ、そしたら見るわ」


「不味い物が出来ても載せるから、それも見てくれ」


 帰り支度を終えてそれぞれ鞄を持った俺達は、適当な挨拶を交わして笑った所で、各々の目的地へと向かう。


「えーっと?」


 四階の調理室に行けばいいんだろうけど、果たしてそれは何処にあるのだろうか。


 四階って事はこの校舎じゃないんだっけ?


 教室を出た俺は通行人の邪魔にならないように廊下の壁際にもたれ掛かると、学校案内のパンフレットを見て構内図を確認する事にした。


「どれどれー?」


 ここが現在地だから、渡り廊下を通って? やっぱ、新校舎の方だよな。


 あんまり儲かっていないのか、都立深山高等学校の一年生二年生三年生の教室がある三階建ての校舎は、そんなに綺麗ではない。


 ただし最近──と言っても、もう何年も前だけど、そんな最近できた新しい校舎は中々綺麗だ。


 吹奏楽部や軽音楽部が使うのか、授業で使うのか、何処の部活が使うのか知らないけどデカイ音楽教室があったり、綺麗な屋内プールがあったり。


 静かで使いやすそうな自習室なんかもある、六階建ての良い感じに大きい新校舎。


 なので、そこだけ見るとやはり、それなりに儲かっているのかもしれない。


 そんな事を考えながら、ぶらりぶらりと目的地に向かう事にした。


 つい先日まで中学生だった俺からすると、廊下ですれ違う先輩はなんだか大人に見えてしまうから不思議である。


 上級生は基本的に皆私服だから、そのせいってのもあるのかもしれない。


 学校と言う事もあるから、場違いにイカれたファッションをしている人はいないけど、みんな結構自由な服を着てる印象。


ド派手な色こそいないものの、髪を染めている人も沢山見えるので、そう言う所を見ると中学までとは全然違うのだなと思ってしまう。


 その他にも深山の制服じゃなくて、どこかの知らない学校の制服だか、制服っぽい服を着てる女子の先輩も多くて、制服じゃないと言うだけでちょっと大人に感じる。


 俺もそのうち私服で来るようになるとは思っているけど、運動部の連中と違って私服で来るメリットもそんなにないんだよなー。てか、ぶっちゃけ制服楽だし。


 そんなこんなで色んな人が居るなーとか思いながらジロジロ見ていたら、中には俺の視線に気付いて、ニコっと笑ってくれるような大人でレディーな対応をする先輩もいた。


 高校生も一年と三年では色々と違うんだなぁ。


 そうして、他のクラスの連中や先輩方を眺めつつ目的の調理実習室に到着した俺は、嬉しい気持ちと微妙な気持ちの二つが合わさる、何とも言えない気持ちになった。


「あっ! 鹿島君だー! やっほー!」


「おー、やっほやっほー」


「なんだ、鹿島も来たんだ。偶然ね」


「偶然って言うか……。まあ、偶然なのか」


 何故なら、調理実習室には先輩と思しき人達の他に、吉永と姫野が居たから。


 そして、本来であれば仮入部、部活見学に来てくれた後輩生徒に声を掛けるのは先輩なんだろうけど、先輩方が口を開くよりも前に、弾丸よりも早い姫野の言葉が俺に向かって飛んできたから。


 姫野の挨拶に思わず挨拶を返して、吉永が居た事が嬉しく気が動転してしまったが、二人と会話してる場合じゃなかった。


「えーっと、すみません、料理倶楽部の部活見学に来たんですけど、今からでも大丈夫でしょうか?」


 と言う事で、まずは口を開くか開かざるべきかを迷っている様子の先輩達に、頭を下げる。


「あ、いえいえ、大丈夫だよ。まだ開始前で、これから今日作る料理の説明をする所だったから、全然問題ないよ」


 俺の言葉に最初に反応してくれたのは、優しそうな印象を受ける男の先輩。


「では、よろしくお願いします! 席って何処でもいいんですか?」


「どこで──」


「こっちおいでよ鹿島君! 石中いしちゅう出身の私達三人が力を合わせれば、どんな料理でも作れるよ! 頑張ろう!」


 お願いだから、先輩が話している最中に当たり前のように言葉を被せるのは止めておくれ、姫野。


「えーっと?」


「あ、どうぞどうぞ、何処でも大丈夫だよ。一年生は一年生で固まっているのがいいね」


 気の弱そうな男の先輩は、困ったような笑顔を浮かべながら着席を促してくれたけど、吉永も姫野も多分今日だけだと思うから、どうにか乗り越えて欲しい。


「今年は元気な一年生が遊びに来てくれましたねー。しかも三人。部員数が一気に1.5倍以上増えちゃいましたよー」


 そうして次に口を開いたのが、まだ名前を知らない女子の先輩だった。


 まあまあ普通な感じと言うか──いや、失礼かよ、俺は。

 

 吉永と姫野が可愛すぎるってだけで、先輩女子もちょっとぽっちゃりしているだけで愛嬌のある親しみやすそうな感じがする。


「と言う事で、もう来ないかな? まだ来るかな、ちょっとわからないですけどー。簡単な自己紹介だけしておきましょうかー」


 俺がそんな感じの若干失礼な事を考えているうちに、先輩女子は話を続けた。


 調理実習室の前に立っている先輩女子が、パチパチパチと控えめに拍手をしたので、姫野は嬉しそうに盛大な拍手をして、俺と吉永も軽く拍手。


「料理倶楽部の部長をさせてもらっている、三年の安藤あんどう瑠香るかです。よろしくお願いします」


 安藤先輩はぱっと見だとぽっちゃりしているように思えたんだけど、よく見れば全然普通だった。


 健康的と言うか年相応と言うか、私服が大きめでその上からエプロンを付けているせいで、ぱっと見だとぽっちゃりして見えただけっぽい。


 とりあえず、優しそうな印象なので仲良く出来そう。


「安藤部長すごいー! エプロン可愛いー!」


「さっきも褒めてくれましたけど、元気ですねー」


 拍手をしながら楽しそうに話す姫野に、安藤部長はニコニコと笑顔で返事をしている。


「それじゃあ、今日はみんな大好きなバナナのパウンドケーキを作ろうと思います。仮入部の一年生は私と一緒に作ってみましょうか。二年三年は何回か作った事もあると思うので、レシピ通りに作って大丈夫ですよー」


「安藤部長! 私でも美味しく作れますか!」


「姫野さんは元気だねー。パウンドケーキはまず失敗する事はないので、私も一緒に作るから美味しく作れるはずですよ。頑張ろうねー」


 そうして、何をやるのも全力投球な姫野がお菓子作りに集中し始めた。


 部費の問題で材料があまり買えないなのか、それとも単に部活体験の期間中だからなのか。


 その辺の事情はわからないけど、体験入部の一年生で一個、二三年のグループで一個の計二個のパウンドケーキしか作らないので……人が余り過ぎて、やる事がない。


 難しいんだろうけど、一人一個くらい作らせて欲しかった。


 どうしよう、何もやる事がない。


 名も知らぬ天パ眼鏡の先輩男子なんて、スマホ眺めてるじゃん。

……もちろん、嬉しいんだけどさ

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