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第19話 悩み事は尽きないけれど


 土日を挟んで週が明ければ、いよいよ高校が始まった感じがする。


 そうは言っても、最初の授業なんてどれもこれも掴みや自己紹介だけでたいした事はない。


 最初の一週間は午前中こそ全部授業らしいけど、午後は受験に向けたデータを見たり、在校生や卒業生の話を聞いて、受験までのスケジュールを立てたりするオリエンテーションがあるとか。


 もう受験を意識しなければいけないのは気が早いようにも思えるけど、たぶん高校の三年間なんて一瞬で終わるだろうから、早め早めに考えた方がいいのだろう。


 そんなわけで、本格的にゴリゴリな授業が始まるのは来週以降かなと思っている。


 と言う事で、のらりくらりと授業を受けているうちに、あっと言う間に週の半分が終わった木曜日の朝。


 今日も今日とて教室に到着すれば、入学したてのまだまだぎこちない空気を感じるが、俺自身多少はぎこちない所もあるだろうから、気持ちはわかる。


「おっすー、蒼斗ー」


「おーっす」


「うぃーっす。とりあえず俺の席からどいて貰おうか、服部ぃ~」


「机に座ればいいじゃん」


 とは言え、青島と服部に対する遠慮や恥じらいと言った気持ちはもう全然無い。


「いいや、俺は服部の上に座る」


「やめい、気持ち悪い」


「あはは! そりゃ服部が悪いわ、そんじゃ服部は俺の膝に座るか」


「誰が座るか、いいよ立ってっから」


「遠慮すんなよー、服部ぃ~。康太の膝に座るのが恥ずかしいなら、俺の膝でもいいからさー」


「んじゃ、お前らのどっちかがどっちかの膝に座ってろ。空いた席を俺にくれ」


 幸い、二人も俺に対して辺に遠慮するような事も無いので、姫野が暴走したお陰で良い感じに波長の合うメンツと知り合えたのは良かった。


 まだ始まったばかりの高校生活。


 当然ながら、まだまだ友達の居ない奴はいるし居て当然だろう。


 俺の場合も、姫野が切欠になって青島から話し掛けられると言う形だったから、あれがなければまだボッチでスマホを眺めていた可能性もあり得る。


 何がどうなって友達が出来るのか、そんな事は誰にもわからない。


 女子は姫野を中心にして吉永や篠原が舵取りをする、クラス全員仲良しグループみたいなのが出来ているが、男子はまだまだバラけている。


 まあ、そうは言っても、所属予定の部活毎に分かれているみたいなので、全然問題ないし全然健全なバラバラだろう。


 同じ部活ってだけで、ある程度は仲良くなれるから、新学期や入学直後なんてそれだけが頼みの綱まであるもんな。


 だから、今は各々部活仲間と仲良くするくらいが丁度良い。


 そう言う意味では、それぞれバラバラの部活に入る予定の“チーム青島”はちょっと変わっているのかもしれないな。


 ちなみに、何故チーム鹿島でもチーム服部でもなく、チーム青島かと言うと──。


「青島君達おはよー、三人とも今日も元気だねー」


「三人って同じ中学なんだっけ?」


「いや、俺と服部は同じだけど蒼斗──鹿島は違うな」


「どうも、仲間外れの鹿島蒼斗です。良かったらそちらの仲間に入れてください」


「あはは、鹿島君うけるー。仲間外れなら私達んとこおいでよー」


「お、マジで? 悪いな、康太、服部。どうやら新しい仲間が出来てしまったらしい」


「おおー、そっかー。俺達と離れても元気で暮らせよ」


「たまには手紙くらい書けよー」


 何故チーム青島なのか。その理由はとても単純だ。


 今話し掛けてきた俺や青島の席近(せきちか)女子である近藤さん+α達のように、それとなく接触してくる女子の多くは、青島康太に話し掛けに来ている。


 要するにどう言う事かと言うと、一年一組で一番顔面偏差値の高い男子が青島康太であるが故の“チーム青島”と言う事だ。


 俺や服部はチーム青島に所属するバックダンサーであり、ガヤみたいな感じだと考えて貰えればいい。


 いや、それも少し違うか?


 服部は服部で、剣道で鍛えた精神が表に出ているのかどうか知らないけど、青島とは別ベクトルの男前なんだよな。


 ザ・日本男児みたいな? しかも彼女も居て関係も良好だから、こっちの方が凄いかも。


「へー。鹿島は私と同じ中学だと思ってたんだけど、今まで馴れ馴れしく話し掛けてごめーん。どうぞ新しい仲間の所でお達者にー」


「何言ってるの紅葉ー? 鹿島君は私達と同じ学校だよー! そうだよね?」


「そりゃそうだろ、そこ不安になるなって。って事で、吉永も姫野さんもおはーっす」


 尤も、女子が青島に近付いてくるとすぐに吉永が参加してきて、吉永が動くので必然的に姫野も一緒にやって来る。


 時々篠原も一緒になってやって来ては、青島狙いと思しき女子にやんわり接触。


 吉永が接触したら最後は姫野がモリモリと会話を広げて、いつの間にやら女子同士で会話を弾ませ何処かに姿を消していくと言うのが鉄板の流れ。


 田邊がこっち来てくれたらいいんだけど、彼女も青島と同じく席から一歩も動きたくないタイプの人間らしくて、自分の席から微動だにしない。


 百歩譲って、今の所恋愛に興味ないっぽい田邊は仕方ないとして、青島はもうちょっと動いても良いと思う。


 同極の磁石じゃないんだから、お互い席から動かなければ一生近付かないって事くらい気付いて欲しいものだ。


「あ、吉永ちょい待ちちょい待ち」


「なによ」


「いやー……」


 姫野台風に巻き込まれた女子が楽しそうに会話をしながら離れて行こうとしたので、その前に吉永を呼び止めたのだが……何か、機嫌悪くね。


「いえ、大した用事じゃないです。また後で大丈夫です」


「そ。じゃ」


 なんだろう、なんか怖い。


 もちろん、怒っている理由は何となくわかる。


 一緒に青島をアシストして行こうと言ったのは俺なのに、思い返してみれば吉永ばかりが苦労している気がするから。


 本来なら俺が青島に近付く女子を牽制しないといけないのだろうけど、そんな都合よく女子だけを排除できるような会話は思いつかないし、かと言って嫌われるのは流石に嫌なわけでして……。


 結果的に、いつも吉永が対処しているので頭が上がらない。


「おお、吉永さんなんか機嫌悪そうな感じ?」


「うーん……。多分俺のせいだと思うから、すまん」


 近藤達が周りから消えた後、青島が小声で話し掛けて来たので、俺も小声で謝った。


「別に俺らが睨まれたわけでもないから良いけど、なんかしたならさっさと謝っとけよ」


 ついでに、近くで立っていた服部もしゃがんで、小声で話し掛けて来た。


「てかさ、何で機嫌悪いのかわからない場合ってどうすればいいんだ?」


「そんでもまず謝っとけ。悪いのが自分だってのがわかってるなら謝っとけ、話はそこから。理由聞いたらその後も謝っとけ」


「うっす。とりあえず後で謝っとく」


 服部大明神には今後もアドバイスを貰おう。


「まあ、それはそれとしてだ」


「切り替え早いな蒼斗」


「なんだ?」


 小声で話す為に少し近付いていた俺達は、再び距離を取った。


「たいした事じゃないんだけど、今日やっと料理倶楽部があるらしくてさ」


「今日なんだっけ?」


「そう言や週一なんだっけか」


「そうそう。木曜日だけ。そんで、どうせ仮入部だから二人とも暇なら一緒に行くかー? って話よ」


 俺が料理倶楽部に入ろうと考えたのは、単純に学校案内で色々なクラブ紹介のページを見た時に料理“おもしろそー”と思った事もそうだけど、部活動が週に一度しかないと言う点を高く評価しているからでもある。


 確かに、今現在の部員が二年三年合わせて五人しか居ない弱小部である事は、少し寂しいかもしれない。


 だけど、人数が少ないと言う事は、全員と話が出来て全員と仲良くなれるかもしれないから、悪い話ばかりではないだろう。


「うーーん!」


「いやいやいや、そんな悩まなくていいって。康太も見てみたい部活もあるだろうしさ。色々見てから、暇だったら見に来くれたらいいからさ」


「おけおけ」


「俺はパース。仮入部とか部活体験っつっても、マジで入る気ない奴が行くのって冷やかしみたいになっちゃうだろ? それに、俺の場合先週の金曜日にもう剣道部に本入部届け出しちゃってるしな」


「ういういー。宗ちゃんのそう言う真面目な所、好きよ」


「殴るぞ」


「そうなれば、こっちに非があるとわかっている俺は無抵抗で殴られるだろうな。それで服部の良心が痛まないなら好きなだけ殴ってくれ」


「どう見ても非がある思ってる奴の態度じゃないだろ、なんで偉そうなんだよ」


「あはは! っと悪い悪い、笑っちったわ。ぷふっ!」


 ゲラゲラと笑う青島と、それに釣られて笑う俺、そんな俺を見て溜息を吐いてから笑う服部。


 チーム青島は動き出したばかりだけど、チームメイトの間に流れる空気は心地良い。


 吉永の事を考えると複雑な気持ちになるけど、少なくとも新しく出来た友達との関係は悪くないから、今はそれで十分だ。

友達との関係はとても良好だと思う

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