第11話 もしかして、そう言う感じ?
「体育祭が終われば翌日は休日になって、一日休んだ後は文化祭と体育祭の後片付けを含む後夜祭ですね」
「はい!」
「どうぞ」
まるで先生と生徒だな。
「後夜祭は何をするお祭りなんですか!」
「うーん……お祭り感はあまりないかもしれないですね。どちらかと言うと、夏休み前から準備していた文化祭の飾り付けなんかを徹底的に掃除する日だとは聞いてますよ」
「お掃除ですか」
掃除と聞いて露骨にテンションを下げるなよ。
「ただ、後夜祭は教師陣がちょっとした食事なんかを用意してくれたり、先生達の出し物もあるとか? それで、受験に向けての気合を入れてくれるとか? そう言う話は聞いた事あるかな」
へー、それは初耳だったわ。
「と言う事で、この文化祭、体育祭、後夜祭の三つのお祭が開催される一週間を『宮祭』と言います。二学期は宮祭が終われば他の学校行事もないので、以降は学校全体が完全な勉強集中モードに移行するらしいですね」
「お勉強……」
だからテンションを下げるなよ。
「宮祭に全力で取り組んで、そこで沢山遊んだら後は勉強を頑張りましょう。と言うのが、深山高校ですね」
田邊の話を聞いてふむふむと頷いている姫野はまだ気になる事があるのか、再び手を挙げた。
「どうぞ」
「なんで宮祭って言うんですか!」
「うん? ん-。正確な事は先生にでも聞かないとわからないけど、ただの語呂合わせだとか」
「語呂合わせ?」
「だね。深山高校のお祭りで、深山祭。みや“まま”つりで“ま”が二つ続いていたので、省略して“みやまつり”と呼ぶようになって、それに適当な漢字を当て字したのが“宮祭”だって聞きましたね」
「俺もそう聞いてるな、多分その辺に深い意味はないと思うよ」
田邊の話に青島が乗っかって肯定する。
「だと思いますよ。それで“宮祭”の漢字を見るとなんだか宮中のお祭りみたいだなと考えた昔の深山生徒が、だったら執行部の名前をそれっぽくしようとなって、宮祭の執行部は『宮廷』と呼ばれるようになったと」
「おおー!」
「それで、もう少し時代か進んだら、宮祭の執行部──まあ、宮廷ですね。その宮廷の人達が、宮廷と言うなら和装くらいしようよ、となったようでして」
「そんで、和装した宮廷を見て色んな人が真似するようになったんだよ。今はまだ俺達一年は皆制服だけど、深山は私服オッケーってのもあるだろ? だから、最近の宮祭では生徒も保護者も一般客も和装してる人が多いんだってさ」
田邊の話を再び青島が補足するように続けると、勉強に必死過ぎてその辺の事を全然知らなかったのか、姫野のテンションは再び盛り上がった。
略字に、当て字に、ごっこ遊び。
宮祭は過去の深山高校の生徒達の遊びが詰まった青春行事なのだろう。
斯く言う俺も宮祭が面白そうだと言う理由でこの高校に入った一人なので、楽しそうにしている姫野の気持ちはわかる。
「と言う事で! 私達のクラスは全力で宮祭に取り組みますよ! 一年は基本無理だろうけど二年は宮廷に入りたいので、どうかお力添えを」
一見すると眼鏡を掛けたクラス委員長みたいな田邊が力強い言葉を放てば、皆が口々にその言葉を推す。
「当然。でも、その前に一年の宮祭だよな。うちのクラスは女子が綺麗だから舞台映えは確実なんじゃないか」
極々自然に女子を持ち上げる服部の言葉を聞いた俺は、彼我の実力差を思い知った。
なんてイケメンムーブだ、流石は彼女持ちと言った所か。
同じような事でも考えていたのか、横にいる青島も頷きながら感心している様子。
「そうね、折角姫野さんみたいな美人がいるなら姫野さん中心の演目を何か考えたいですよね。クラスでの話し合いもまだだけど、出来れば私は纏め役やりたいから。舞台には姫野さんとか吉永さんとか、愛実みたいなぱっとと見でわかる美人を配置したいかも」
そして、自分が美人側である事になんら疑問を持たずに話しをする田邊女史も強い。
なんて奴らだ、青島達の通っていた中学は強者揃いのようだな。
「いや、田邊だって、出られるなら劇に出た方がいいだろ。……だよな、蒼斗?」
と思ったけど、どうやら俺の横にいるボーイはこちら側の人間だったらしい。
今の青島の顔を見れば、どうして田邊が話す時だけ沢山喋っていたのか何となく理解できた気がする。
「だな。康太の言う通り、田邊さん綺麗なんだから劇に出ないの勿体ないと思うよ」
もちろん、それを茶化すような真似はしない。
彼女持ちの服部が姫野や吉永に興味無いのは理解出来たけど、青島が二人に興味を示さない理由が分からなかったが……。
なるほど、もしかしてそう言う感じ?
「そう? だったら女子が全面的に出る演目とかがいいのかな……。あ、うん。どちらにして、宮祭のクラス実行委員が決まってから話しましょうか」
とは言え、青島の想いが田邊に届いている気配はまるでないけど……大丈夫だろうか。
何とか応援してやりたいな。
察しの良い吉永なら青島と田邊の雰囲気を感じ取っているのだろうと思い、テーブルの上で親指を立ててサインを送ってみたが、普通に無視された。
この店に来てから、吉永の俺に対する雰囲気がなんとなくキツイ気がするけど、何か怒らせるような事でもしてしまったのかもしれない。