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第105話 珍しい呼び出し


 最寄り駅に到着して姫野と別れると、ようやく待ちに待った吉永との二人きりでの短い帰り道。


「──え、そんな事気にしてたの? あはは!」


 中間より順位が落ちて申し訳無いと言ったら、吉永は楽しそうに笑いながら俺の肩を叩いてきた。


「そうは言うけど、姫野さんも中野も順調に伸びて吉永はまた学年七位でさ。俺だけ順位落ちてるってのはさー」


「二個なんて誤差だって、次また頑張ろうよ? どこミスったのかも今度見ようよ」


「……うっす」


 吉永はいつも通り優しい言葉を掛けてくれたけど、次もまた順位を落とすような事になれば流石に呆れられるだろう。


 気を引き締めないと。


「……で、さ。それよりさ」


「それより?」


「あ、ううん。……ただ、さっきは冬の事ありがとね」


「あー、うん。アレはちょっとないかなーって」


「ちょっとねー」


 軽く目を伏せた吉永が、何を考えているのかまではわからない。


 だけど、姫野の事を心配しているのはなんとなくわかる。


「あんなに困ってる冬見るの、久々だったから……。私もちょっと、反省……みたいな」


「なんで吉永が反省するんだ?」


「……そこはまあ、色々あるのよ」


「色々かー」


「そ、色々。それじゃ、また明日学校で」


「うぃーっす。またな、吉永」


「うん、またね」


 なんだか疲れる一日だったな……。


 なんて事を考えつつ自宅に到着した俺だったのだが、残念ながら、一日はまだ終わっていないと言う事を思い知らされる事となる。


「んー」


 帰宅早々、シャワーを浴びようとした所。


 洗面所に置いたスマホにリリンクの新着チャットが届いた表示を見た事で、終わったはずの一日の続きが再開してしまう。


 スマホ画面には、兎と人参を組み合わせた化物ことゆるキャラである“ラベちゃん”が、人参のクッションを胸に抱いて、項垂れているアニメーションスタンプが表示されていた。


 その送り主はと言うと。


「姫野さんか。なんだろ」


『どうかした?』


 とりあえずシャワー浴びたいんだけど、どうするかな。


 と考えながら送ったチャットだったのだが、姫野からの返事はすぐにきた。


 返事と言っても、さっきと同じスタンプが送られて来ただけなんだけどな。


 何度かスタンプが送られて来て、要領を得ない謎のメッセージが続いたので、しびれを切らした俺が一言。


『悪い。とりあえず汗流したいから、何かあるならシャワー浴びた後で聞いてもいい?』


 夏は汗ばむので、家についたらまずはさっぱりしたい。話しはそれから。


 そう思ってのチャットにはやはりすぐに反応があって、次はラベちゃんが頷いているスタンプが送られて来た。


 と言う事で、さっとシャワーを浴びる事に。


 本当はシャワーを浴びた後は、ストレッチをしながら少しのんびりしたいんだけど、姫野を待たせている事もあるので、生乾きの髪もそのままにドライヤー片手にスマホに手を伸ばした。


『お待たせ。何か聞きたい事でもある感じ?』


 すぐに、フルフルと首を振るラベちゃんのスタンプが送られてきた。


『テストの話?』


 またもやラベちゃんが首を振る。


 何なんだよ。


 普段から何を考えてるのかよくわからない所がある姫野だけど、文字やスタンプだけのリリンクでのやり取りになると、解読は更に難解。


 そんな訳で、仕方ないから俺もスタンプで返事をする事にした。


 サッカーボールから手足が生えた化物がピースサインしているスタンプを送れば、やはり、すぐにラベちゃんのスタンプが送られてきて。


 サッカーボールの化物がサッカーボールを蹴っているスタンプを送れば、人参の化物ことラベちゃんが人参を食べているスタンプが送られてくる。


 ドライヤーを片手にスマホを眺めて、そんなやり取りを繰り返す事しばらく。


 髪を乾かして部屋に戻った所で、ようやくスタンプ以外のチャットが返って来た。


『紅葉、怒ってなかった?』


 やっぱりわからない。


『怒るどころかめちゃ心配してたよ』


『何か言ってた?』


 反省がどうとか言ってたけど、どうするかな……。


 そのまま伝えていいのかどうか、判断が難しい。


『姫野が心配だって言ってたよ。どうかしたのか?』


 いや、そこはとりあえずぼかしておいた方がいいだろう。


 友人との関係は、全部が全部“白”と言うわけではない。


 多少の軋轢や、黒い気持ちが全く無いとは限らないだろう。


 家族間ですら価値観のズレがあるように、友達同士にも色んな感情が渦巻いているものだと思う。


 吉永と姫野。


 端から見ればこの二人以上に仲の良い親友なんて居ないと思えるけど、胸の内は誰にもわからないからな。


 それに、少なくとも俺は、吉永が姫野に対して多少の苦手意識をもっている事を知っていて……その理由も、知っているつもりだ。


「おーっと……。そうくるか」


 しかし、次に来たチャットは予想の斜め上のもので、思わず呟いてしまった。


『もし忙しくなければ今から会って話せませんか?』


 シャワー浴びたばっかりだって、知ってるはずだよな……。


『いいけど、電話じゃ駄目なの?』


『長電話するとママに怒られちゃう』


 目を潤ませたラベちゃんスタンプも一緒に送られてきたけど、長電話で怒られる事なんてあるのか。


『ういー。石中近くのコンビニ待ち合わせでいい?』


『すぐ行く!』


 吉永ではなく俺に話したい事があると言うのだから、その内容は気になる。


 適当にやり過ごしたり、無視出来るものではないだろう。


 と言う事で、シャワーを浴びたばかりの俺は再び出掛ける準備をした。


 ◇


 自転車に乗って指定したコンビニに向かうと、そこには既に姫野が居た。


「悪い、待たせたか」


「全然待ってないよ!」


「それなら良かったけど、暑いんだからコンビニの中で待ってたら良かったのに」


「何も買わないのに入っちゃ駄目だよ?」


「そう、か。まあ、うん」


 別にそれくらいいいと思うけど、何処にNGラインがあるかは人それぞれだしな。


 コンビニの前に立っていた姫野は、学校とは別の服に着替えていたと言うか、どう見てもランニングウェアだった。


 このクソ暑い中を走ってきたのか。気合入ってるな。


「そんじゃ、そうだな。あんまり遅くなっても悪いから、何処で話すかな」


「あ、えっと……。歩きながらで大丈夫、だよ」


「わかった」


 自転車を押しながら歩く俺と、その横を歩く姫野。


 体育の時も料理倶楽部の時もそうだけど、身体を動かす時はポニーテールと決めているのか。


 俺の隣で尻尾をゆらゆらと揺らして歩いていた姫野は、しばらくするとポツリポツリと話し始めた。

何の相談をされるのやら。

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