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第103話 期末試験の結果


 吉永とのデート(自称)を楽しんだ翌日。


 予想通り放課後のHRで期末の順位が発表された。


 発表と言っても何処かに順位が張り出されるわけではなく、中間の時と同じように答案用紙とは別の細長いペラペラの紙を渡されるだけなんだけどな。


 ペラペラの紙には全教科の点数と平均点、教科毎の順位から総合点でのクラス順位と、学年順位が細かく書かれている。


 そんな一枚で全てがわかる有り難い紙が、担任の手より一人一人に配られた。


 この調子で三年間を走り切りましょう、と。


 ミヤちゃん先生に手渡された紙を見た俺は思わず呟いてしまった。


「……やべぇ」


 と。


「蒼斗どうだった! 俺中間よりちょい上がってた!」

「シマっちどうよー、私の見したげるー」

「どうしたの? シマシマ点数落ちた?」


 背中に冷や汗を流しながら着席した俺は、最早お馴染みとなった青島、井伊、柏木の席近せきちかの民に話し掛けられたものの、心ここに在らず。


「蒼斗また三位かー。って事は一位が田邊で二位が吉永さんかな?」

「じゃない? シマっちホント頭良いよね、今度私にも勉強教えてよー」

「てゆーか、何でそんな顔固いのー?」


 俺の手から勝手にペラ紙を奪い取った三人が呑気に喋っているが、冗談ではない。


「そりゃ顔だって固くなるわ。クラス順位じゃなくて学年順位の方をよく見ろって」


「17位か。相変わらずたっけー……。俺も頑張ったのに……」

「17? 17嫌いなの?」

「え、私107位だったんだけど? シマっちとおそろだ」

「おそろじゃ無くない? 白夜の基準ゆるすぎでしょ」


「17が嫌いでもないし柏木とおそろでもねえって。そうじゃなくて、中間から学年順位が二個落ちてんだよ」

 

「ああ、そういや中間ん時は15位だったっけ?」

「全然覚えてないけど、そんなだっけ?」

「シマっちが15でアオチが99だよねー」

「そうだけど、よく覚えてたな柏木」

「記憶力はいいんだよねー、見直したでしょ?」


 楽しそうに話している御三方には悪いが、俺は全然笑えない。


 だって、安藤部長に絶対に何か言われるもん……。


 あの人いつもリリンクでめっちゃ煽ってくるから、俺もムキになって大口叩いたりしちゃったりしたわけで──。


「……次の部活行きたくねえ」


 勉強はしていた。当然だ。


 だけど、常に集中して取り組んでいたかと言われると、その答えはNOだと言える。


 それがわかっているからこそ自分が情けない。


 何でも見透かしていそうな部長と顔を合わせたくない。


 散々な思い出にしかならなかったとは言え、吉永の家に行く前はずっとそわそわしていて、意味もなく部屋の掃除をしたりもした。


 いつも参考にしているのとは違うヘアアレンジの動画を見たりもして、普段やっているのと違うスキンケア動画を見たりも。


 正直、少し浮かれていた期間があった事は確かだ。


「え、じゃあこの中で順位落ちたのシマっちだけ? うわー」

「あーあー、可哀想だから背中さすってあげるよー」

「井伊も柏木もそうは言うけど、10位とかそこら辺の順位は一点差で順位入れ替わったりしそうだしさ」


「……まあ、実際そうだとしても、受験で一点足りなかったは言い訳にならないからな。──って事で、柏木は背中をさすらなくていいし、言っとくけど俺の方が順位上だからな? なんで俺が慰められてるんだよ」


 背中をさすって遊んでいる柏木の腕を掴み、彼女の点数が書かれているペラ紙を奪い取ると、視界の端に吉永が見えた。


 ただ、何よりも俺が堪えてる要因は別にある。


『私は三年間この成績をキープしつつ上を目指します。鹿島も私より頭良いので上を目指して貰います』


 好きな人の期待に応えられなかった事実が、他のどんな事よりも辛い。


 軽く溜息をついた俺は、あまりの情けなさから吉永を視界から追い出すように顔の向きを変えた。


 ◇


 今日は部活も無いので、会話を切り上げた俺はこれ幸いとそそくさと帰宅。


「紅葉ー! 鹿島君ー! 一緒に帰ろー!」


 とは、いかなかった。


 部長から送られて来たリリンクに気付かない振りをしつつ、吉永から隠れるように退室しようとしたが、敢え無く失敗。


 私の視界は360°死角なくカバーされているんだよ!


 と、自称していた姫野に捕捉されてしまった。


 360°て……人間か? もしかして違うのか?


「……おーし、帰るかー」


 そんな事を考えながらも、気は進まないけど逃げてどうこうなる問題でもないからな。


 帰ったら部長にも返事しよう。


「紅葉! 鹿島君!」


「っと、なになに?」


「こーら、ベタベタくっつかないの」


 廊下に出た所で呼び止められた俺が振り向くのと、肩に下げた鞄に姫野がしがみついてくるのは同時だったが、すぐに吉永が姫野を引っ張る。本当に距離感がバグってるな、姫野。


 もちろん、姫野に近付くと吉永が良い顔をしないから、さっさっと引き剥がす。


 中学生だった三好は、このボディタッチにコロッと落ちたと言うか勘違いしたのかもしれない。


 だけど、よくよく見れば姫野の場合は誰に対しても大体こんな感じだから、周りを見てない奴が悪い。とは言え、だ。


「機嫌良いね、姫野さん。期末の結果良かったのか?」


 機嫌良さそうにしてる人を邪険にするつもりもない。


 ……つもりもないけど、話し掛ける相手は姫野ではなく吉永にしておく。


「中間より上がったんだよね、冬」


「だよ! 学年順位57位だったんだー、いい感じ!」


「は? なんて?」


 ……は? なんて?


 何をわけのわからない事を言っているのかと思って、グイグイ顔を近付けてくる姫野を無視して吉永に視線を移す。


 本当なのか? と言う想いを込めた視線を送れば、すぐに吉永が反応してくれた。


「ん? ……ああ、冬はちょっとムラあるからね。昔からこんなだよ」


「はー……。なるほどなー」


 ちょっと? 言う程ちょっとのムラか?


 姫野の事がマジでわからなくなってきた。


 能力がピーキー過ぎないか……。

その場から逃亡を決意したけど、普通に無理だった。

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