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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤と雨

作者: ラバリー

私が愛したことのある人物は、私のことを決してよく思わないのかもしれません。だって赤いハイヒールも真っ赤な口紅も私には似合わないではないですか。真っ黒の長い髪の毛は映画の貞子みたいにサラサラで手入れされ過ぎている感じを相手に印象付かせるみたいですし。

私は美人でも不細工でもありません。

ただ人としての何かが欠けているのです。

それは人らしく抜けているとか一緒にいて和むとかそういうのと無縁なところでしょうか。私の隣に来た人は直ぐ落ち着かなさそうに別の人の方を向くのであります。

私ですか?

私は大和撫子として育てられました。そんなことで気を悪くすることもなくただ無表情でレモンサワーを啜っているのです。決して話かけられない訳ではありません。ただ、穏便な返答をするだけです。

もちろん愛してる人に対してもそうですよ。眼福なだけで満足してしまえるのです。ただ、雰囲気、出るんでしょうね。私の愛に気付くと気まずそうに私を避けるようになるのです。

それだけなら良いのですが、私には悪いクセがあります。

手に入らない物を壊す。と言ったら怖いでしょうか。

雨の日、特に傘を持ってない日の私は酒癖の悪い亭主のように横暴になります。赤い物が見たくて見たくて堪らなくなります。

日常的に持ち歩いている剃刀で指先を切って、血を啜ります。いえ、吸血鬼の真似がしたい訳では無いんですよ。

全ては雨の強かさの為せる技であります。

狂っている?正直、私もそう思っております。こんな薄気味悪い女、どんな男も愛せません。女の人に至っては近寄りもしません。

イジメられてるのか?ですって?

子供の頃はよくイジメられてましたよ。ただ私はそれが嬉しくて嬉しくてしょうがなかったのです。こんな凄い人が私に干渉してくれる!何て光栄なことでしょう。

イジメられると思わず微笑んでしまい、皆、私の傍からいなくなりました。

私の家庭は父子家庭でした。父上は大手会社の副社長で、私の将来に曇りなく滞るよう手を回してくれました。

お陰で無能な私でも一流会社の社員としてのポストを掴むことができました。

女の人は私にとって憧れです。男はヤリモクなら、雨の日のカモです。ホテルでヤることをヤッた後、存分に血を啜るのです。

ガッシリとした胸板。多くの女を襲って来た根。自信に満ちた口元。

その人の走馬灯を想像しながら、私なりの愛を刻みます。

結構、私って嫌な女なんです。カモが幸せであればあるだけ奪える物が多いと信じています。


その日も愛する男、透也とおやさんを目で追っていました。透也さんは同僚でしたが、管轄違いで遠目で追うしかできませんでした。

先程、述べた通り、私が壊したいのは手に入らない物です。

ジトジトとした雨が社内の人間を低気圧にさせます。雨のような私は心地好く小降りになったり大降りになったりする雨を愉しみます。

仕事が終わり、透也さんの跡を付けていると、透也さんは私に気付いてタクシーを呼びました。撒かれたと心の中で嘆いていると何とあの透也さんが私もタクシーに同席させたのです。しかも、驚いたことにホテル街に行き先を運転手に告げました。

「私、アナタを付けていました」

透也さんは屈託なく笑いました。

「アナタの熱い視線をずっと気にかけてたんですよ」

「あ、あの」と私はオドオドしながら、透也さんを見つめます。

「今夜、アナタを食べても宜しいでしょうか」

透也さんは私の手を掴み、指先をねっとりと舐めました。

「僕は変態です。そして、アナタは更にド変態です。他に言葉はいりますか?」

私達は無言でホテルの門を潜りました。タクシーの運転手は口笛を吹きながら、去って行きました。

「私は赤い物が好きです。赤い口紅、赤いハイヒール、赤いコート、赤い月、そして赤い血」

服を脱ぎながら、私は告げます。

透也さんは乱暴に私の赤いコートから落ちた剃刀を拾い上げ、自らの左人差し指の先を切って、私の唇に塗りたくりました。

「綺麗だ、姫花」

私はおぞましさに吐き気がしました。手に届いてはダメなのです。

「私を離して下さい、透也さん。正直、興醒めしました」

「離さないよ」と透也さんが乱暴に私を押さえつけます。

「雨の日、僕の血をあげる代わりに毎日、僕のための弁当を作って来てくれ」

私は一頻り暴れて、無力感に絶望しました。

「何それ…。私の亭主にでもなるつもり?」

透也さんが大きな声で「ハッハッハ!」と笑います。

「君を娶りたい」

私は怒りと羞恥心で身体が火照るのを感じます。

「毒殺してやるわ」

「雨の日」

透也がニタニタと笑い出しました。

「吸血鬼に殺られたような死体がホテルで何件も見つかっているな」

耳元でコッソリ透也が囁きます。

「君が殺ったんだろ」

私は透也をひっぱたきました。

透也の眼に危険な色が浮かび上がり、透也は裸の私を無理矢理ベッドに押し倒しました。

その後のことはご想像にお任せします。


私は惣菜コーナーにいる時間が3倍ぐらい増えました。

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