表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/29

5 それぞれの役目 ①

「今回の私たちの一番の目的は、陛下(へいか)を探し出して取り戻すことです。そのため、捜索(そうさく)隊が敵に邪魔(じゃま)されることなく活動できるよう、戦場に変異種狩りの領主たちの目を引き付けつつ、捜索のための時間を(かせ)ぐ必要があります。


それには籠城(ろうじょう)するのが一番手っ取り早いでしょう。この館の周りには頑丈(がんじょう)な石の防壁がありますし、対魔術用の防御壁を構築(こうちく)する大型の魔術装置もあります。


また地図を見てわかる通り、館の北側は切り立った(がけ)になっていて、その先は岩礁(がんしょう)の多い海です。この北側から敵が船で来ることはまず不可能ですが、我々には魔力の(つばさ)があるので、主に北の海路から魔力薬や魔石といった物資の補給を行います。


欠点の一つは、ここからの攻撃手段が弓と魔術という遠隔(えんかく)のみになることでしょう。弓矢はあとで多少回収できますが、魔術に関しては魔力資源を消費する一方です。


それは対魔術用防御壁についても言えることで、魔術による攻撃をそれで防ぐことはできますが、防御壁の動力となる魔石を消費します。魔力資源を提供してくださるルース様の協力により、物資に余裕(よゆう)はあるものの、何十日も守り切るのは難しいでしょう。


何故(なぜ)ならここで籠城(ろうじょう)するだけでは、相手も陸路で物資を補給し続けられるからです。相手の物資補給路を断つための別働隊(べつどうたい)が必要になります。


また、石壁を攻城(こうじょう)兵器の類で物理的に攻撃された場合、すぐには修復できないというのも欠点です。修復用の魔術をかけることは可能ですが、当然それにも魔力資源を消費します。石壁が(くず)れ、魔力資源が()きた時、我々にはなすすべがなく、しかもここを落とされたらあとはありません」


「そこで出たもう一つの案が、ここから出て外で少しでも時間を稼ぐことだ。石壁や大がかりな防御壁を張る魔術装置はないが、ここに開けた()れ地がある」


 そう言ってフィンレーは地図を指差した。館から少し離れた場所に、彼の言う通りこれといった障害物となるようなものがない平地が広がっているのがわかる。


「ここに本陣を置いて簡易(かんい)の防壁を築き、敵が攻撃してくる昼間は防衛に(てっ)して、こちらの活動時間帯である夜に積極的に攻撃に出る、という案だ」


 (こま)の一つを荒れ地に置きながらフィンレーが言うと、それに()いでイドラスが荒れ地の先の岩場を指で()し示し、「敵はこのあたりに陣取(じんど)ることになるだろう」と続ける。


「だが、館の周囲にある石壁をここから攻城兵器で壊すには距離がありすぎる。前に出てきている我々の本陣や部隊に向けて撃つにしても、岩が多くて思うように大型兵器は動かせないに違いない。


となると、敵の攻撃は弓と魔術による遠隔攻撃、そして歩兵や騎兵による近接攻撃だが、後者に関しては空を飛べる私たちにとって大した脅威(きょうい)ではない。主に弓と魔術による攻撃に警戒し、それらをしのぎながらの戦いとなるはずだ」


「弓矢には毒が()られているでしょうしね。気は抜けないわ」


 毒の入った小瓶(こびん)を持ち上げ、中の黒い液を忌々(いまいま)しそうに(にら)みながら言うキナヤトエルに、ロスレンディルも緊張した面持(おもも)ちで同意するようにうなずいてみせる。

 イドラスもそれに首肯(しゅこう)し、話を続けた。


「陛下がこの地を領地として選んだのは、土地こそ豊かではないが守りやすい地形だからだ。岩場の先――我らが領土と隣の領地のあいだにある中立地帯は谷で、道も(せま)い。大軍を引き連れている敵は動きが取りづらいだろう。館は文字通り最後の(とりで)であり、ある程度は外で守ることをはじめから考えて選んだ土地だ、それを生かさない手はない」


 それに納得(なっとく)したり同意したりする一同を見渡しながら、フィンレーは(けわ)しい口調(くちょう)で「だが」と口をはさんだ。


「この(さく)の最大の問題点は、柔軟(じゅうなん)に皆の指揮(しき)()れる者がいないことだ。住み慣れた場所でひたすら防衛のための指揮を執るのと、外で臨機応変(りんきおうへん)に敵の動きに対処しつつ、積極的に攻撃の指揮を執るのとではわけが違う。そもそも、外で戦うのは陛下自身が兵を(ひき)いていることを前提(ぜんてい)としていたしな。外で戦うなら、陛下の代役を(つと)められる指揮官が必要だ」


 その言葉に皆が一様(いちよう)嘆息(たんそく)をこぼし、表情を(くも)らせる。


「我々は戦いにおいて、あまりにも陛下の統率力(とうそつりょく)(たよ)りすぎていたんだ」


 誰かがぽつりと口にしたその(つぶや)きを、その場にいる誰も否定することができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ