4 死に至るもの ④
彼らが食堂に戻ると、ほとんどの者が集まって思い思いに席に着き、深刻な表情を浮かべていた。そこには怪我人の治療をしていたはずのルクァイヤッドの姿も見える。彼の手伝いに行くと言っていたキナヤトエルも、うつむきがちにルクァイヤッドの隣の椅子に腰かけていた。その表情はいささか暗い。
何があったのかとフィンレーが尋ねようとした時、イドラスが大股に部屋へと入ってきて、彼よりも先に「どういうことだ?」と普段よりもいっそう険しい顔でルクァイヤッドに問い詰めるように訊いた。
そんなイドラスのあとからサムも息を切らせながらやってくる。
全員がそろったのを確認したルクァイヤッドは、傷を負って帰ってきた王の捜索隊の一人が死亡したことを静かに告げた。
「やはり肩の傷が原因ですか?」
妖精族の一人が不安そうに尋ねる。
しかし、ルクァイヤッドはそれに首を振って「いいえ」と答えた。
「おそらく彼の主であるヴェルナンド卿が亡くなられたからです」
その返答に一同が息をのむ。
報告に帰ってきた怪我人は、潜入や斥候任務を得意とするヴェルナンド卿の眷族であり、主であるヴェルナンド卿や他の眷族と共に、封印された王の居場所をつきとめるべく捜索に出ていた。
だが、帰ってきたのは彼一人だけだ。
「毒矢を受けたと思われる肩の傷は確かに深手でしたが、彼はヴェルナンド卿と血の契約を結んで眷族となった者です、純粋な月夜の民を殺害することに特化した毒は、眷族にはそこまで効かないはずですから、快復すれば目を覚ます見込みは充分にありました。ですが、突然彼は灰になったのです」
「彼を眷族にしたヴェルナンド卿が死んだってわけか……」
フィンレーの言葉にルクァイヤッドがうなずく。
「おそらく、卿の他の眷族も同じ運命をたどったでしょう」
それは捜索隊の一つが全滅したことを意味していた。何があったのか尋ねようにも、答えられる者はもはやいない。
「彼は結局、目を覚まさなかったわ。だから詳しいことは何もわからないけど……」
そう呟くキナヤトエルに続いてルクァイヤッドが再び口を開く。
「灰になった彼の中から、これが出てきました」
ルクァイヤッドは懐から一枚の紙を取り出し、テーブルに広げてみせた。
誰かがそのそばに燭台を寄せる。
ゆらゆらと頼りなげに揺れるろうそくの炎の明かりに照らされた紙切れには、短い走り書きがいくつか記されていた。
「封印場所の可能性高し。警備あり。弩装備」
イドラスが読み上げ、眉をひそめる。
「あと、彼の傷口に残っていたものがこれ」
そう言ってキナヤトエルがガラス製の小瓶をテーブルの上に置いた。その底には黒い液が付着している。
「ロスレンディルが成分を調べてくれた結果、血液の混ざった薬品であることがわかりました。十中八九、エンリェード卿が仰った通り、狩人の使う死者の血を用いた毒でしょう」
「弩も狩人が好んで使う武器だ」
「警備に狩人がいると?」
ざわめくように口々に言う皆の顔を見渡し、ルクァイヤッドは「わかりません」と応えた。
「武器と毒を支給されているだけ、という可能性もあります」
「だが、何もなければそんな武装をして守る必要はあるまい。ましてや、狩人の使う毒を持っているなど、これまでの反変異種派の中ではなかったことだ。狩人と手を結んだセント・クロスフィールドの領主が置いた警備に違いない。ならば……」
イドラスの指摘にルクァイヤッドも首を縦に振ってみせる。
「このメモにある通り、陛下が封印されている場所である可能性は高いでしょう。少なくとも、これまでの調査の中でもっとも信憑性のある情報です」
ルクァイヤッドのその言葉に一同がうなずく。
その中で唯一、微動だにしなかったのはエンリェードだ。彼はひやりとした静かな声音で、ぽつりと呟くように尋ねた。
「そもそも、陛下がすでに亡くなっている可能性は?」
その問いは、ともするとこの場にいる全員を刺激しかねない危険なものだったが、誰よりも早くフィンレーがいつもの軽い口調で「それはない」と答える。
「何故なら、サムが生きているからだ」
フィンレーはそう言って若い料理人の方へと視線を向けた。それを追うように他の者たちも一斉にサムのことを見やる。エンリェードも驚いたようにわずかに目を見開きながら彼の方へ顔を向けた。