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1 イリスとその故郷
そこは、寒い季節になると辺り一帯が真っ白になり、家を覆う針葉樹たちもが白銀の世界に包まれる。彼の幼馴染も住み、少し離れたところにある集落は、高齢者が多い、云わば限界集落であった。
「イリス、ここに野菜置いとくからね!またいつでもおいで。」
彼の友人、マリーナの母は、あたたかく声をかけた。
「ありがとうございます、おばさん!」
大声で爽やかに礼を言うと、背を向け来た道を引き返そうとする彼に、マリーナは、
「ちゃんと食べるのよ。いつでも来ていいのだから。次は、いつこっちに来る予定?」
と問う。
「心配してくれてありがとう。暫く忙しくなる予定なんだ。」
「そうなの・・・。残念だわ。体にお気をつけて。」
「ああ。」
軽く手を挙げて馬に乗り、去っていく彼に、マリーナは小さなため息をついた。