『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品集
消えた紙飛行機
こちらは第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞参加作品四作目、キーワードは『紙飛行機』です。
『ねえ晴くん、大人になったら結婚しようね!!』
あれはいつの頃だっただろうか。
俺がまだあらゆる可能性を信じることが出来ていたからおそらく中学へ入る前だろう。
幼馴染の葵はやたら俺に懐いていた。
いつも金魚のフンみたいに後ろをついて来て――――
鬱陶しいみたいな顔をしながらも内心は嬉しかったっけ……。
この時期になるといつも思い出してしまうんだ。
お前との時間を、未来は明るく――――どこまでも広がっているんだって信じていたあの頃のことを。
『ねえ晴くん、全然飛ばないんだけど……』
『これはな、ここを折り込んで重心を前に持ってくるんだ』
『わあ!! すごい!! めっちゃ飛んだね!! 晴くん天才!!』
紙飛行機ひとつで大袈裟だなと思ったけど、葵に褒めてもらえたのが嬉しくって、しばらく紙飛行機作りに没頭したんだったな……。今となっては数少ない俺の取り柄の一つだ。
今ならわかる。俺は全部アイツから貰ってたんだ。
嬉しいことも、悲しいことも、将来の夢だって……。
「……今の俺は……アイツからどう見えているんだろうな」
このままじゃいけないことはわかっている。現実から逃げ続けていては前に進めないことぐらい。
ずっと後ろばかり見てきた。過去に囚われたままの自分にほとほと嫌気がさす。
痛いほど拳を握り締める。
こんなの……駄目だろ。アイツが嘘つきになっちまう。それだけは嫌だ。
葵と二人で遊んだ高台の公園からは街の景色が一望出来る。
誰もいない滑り台の上から紙飛行機を飛ばす。
「行け!! 俺の後悔も、情けなさも、全部乗せて飛んで行け!!」
劇的に何かが変わったわけじゃないけど――――少しだけ前へ踏み出せそうな気がした。
「……ただいま母さん」
「お帰りなさい、ずいぶん遅かったのね?」
「うん、ちょっとね……」
俺の様子を見て、母さんはすぐに何かを察したようだった。
「……晴、今日テストの結果が帰ってくる日だったわよね?」
「え……? その……実は帰り道で無くしちゃって……ずっと探してたんだけど」
「ふーん……もしかして風に飛ばされて飛んで行ってしまったとか?」
「そ、そうなんだよ、いやあ、びっくりしたよ、あっという間に見えなくなっちゃって」
母さんの視線は痛いが――――証拠は隠滅した。そう、思い出はいつだって美しいものなのだ。
「ふふ~、お帰り晴くん!! さて問題です、これは一体何でしょうか?」
なぜか家にいる葵の手にあったのは、旅立ったはずの紙飛行機だった。