失踪
正義は学校から帰ると、美津江が仕事から帰ってくるまで、香織の店に行き、夏生と宿題をしたり、遊んだりして過ごしていた。美津江は仕事帰りに正義を迎えに来て、家路につく。笑顔で迎えてくれる正義を見ては、美津江は寂しげに笑うのだった。
そんな毎日が繰り返され、月日は過ぎ、正義も高校生になった。正義は、週に3日コンビニでアルバイトをし、単発で引越しバイトや、イベントのバイトなどをして家計を助けていた。 成長した姿は享司に生き写しだった。
「やっぱり親子ねえ。亮ちゃんそっくり」
香織の家で四人で食卓を囲んでいる時、何気なく香織が言うと、正義は険しい顔をし、低い声でつぶやいた。
「あんな奴に似てるなんて、ちっとも嬉しくない」
あまりの剣幕に、香織は驚いた。そばにいた美津江も顔をこわばらせて、視線をそらした。相変わらず、美津江と正義にとっては、享司の話題はタブーだったのだ。香織が、どう取り繕おうかと困っていると、
「まーくん、お母さんの肉じゃが、おいしいよ。早く食べようよ」
夏生が唐突に話題を変え、その場は和やかに収まった。
夏休みになった。
補習授業で登校していた正義は、いつものように帰宅した。部屋に入ると、クーラーをつけ、畳に転がるとそのまま転寝をしてしまった。
気づくと、すっかり日が暮れていて、明かりもつけないままの部屋は真っ暗だった。
ふと時計を見ると、もう7時を過ぎていた。あくびをしながら起き上がると、部屋の明かりをつけ、冷蔵庫を開け、食材を確認した。中学に入ってから、少しずつ食事を作るようになり、高校生になった今では、アルバイトがない日には、夕飯の支度は正義がするようになっていた。
「冷蔵庫、空じゃん。とりあえず、買い物でも行くか」
香織の店に行けば、おかずを分けてもらえるのは間違いないのだが、あまり頼りたくない、という気持ちもあり、正義は近くのスーパーまで買い物に出かけた。
家に帰って、食事を作ると、9時近くなってしまっていた。
「母さん、遅いな」
お腹がすいていたので、先に食べ始めたが、美津江は一向に帰ってくる気配がない。
美津江の分をよそった皿にラップをして、自分の食器を片付ける。
10時になり、11時になっても母は帰ってこない。
正義は不安になった。
母に何かあったのだろうか。
何の連絡もないなんて。
どうすればいいのかわからず、ただ待つことしかできないまま、いつの間にか眠ってしまっていたが、朝が来て、目を覚ましても、母は帰ってこなかった。




