Sheet3:エラーインジケーター
「えっと…何の事でしょう?」
男が分からない様だったので、エルは身を乗り出し自らトラックパッドを使ってオプション画面を開く。
推しの顔が近くてドギマギする男。
「ここのチェックが外してあるとエラーインジケーターが表示されないから、エラーを見落としがちになるんです」
「インジケーターって?」
「セルの左上に出る三角のやつ」
エルはチェックを入れつつシート画面に戻ると、先ほど数値にしたセルの一つを文字列に変えた。
「これ。初めからこれが出てればすぐ気が付いたのに」
「あぁ、この印ってそういう意味だったんですか。そういえば最近見た事なかったな」
「さっきのチェックが外れてたから」
男は少しいぶかしげに、
「でも、あんな所変えた覚えないんだけど…」
「いつから見なくなったか覚えてますか?」
「さあ?ヘタしたら社会人になってから見てないかも。少なくともこの見積もり触るようになってからは見てないと思います」
「何はともあれ、解決したんでしょ?」
アキラが言う。
「そういやお連れさんも同じ会社?」
川口がアキラ推しの方に問いかける。
「いえ、僕等は大学の同期で就職先は別々です」
「彼は東証一部上場の大企業。僕は超が付く零細企業ですよ」
やや自嘲気味に言うエル推し。
「またまた〜。こいつ創業者の孫だから、ゆくゆくは社長っすよ」
四人がそんな会話をしているとエルが唐突に、
「事件はまだ終わってません!」
とのたまった。
口調はドラマの影響だ。
「事件て。そんな大げさな話じゃないだろ?」
アキラが言う。
「このファイル、一から作ったんじゃないですよね?」
自分推しの男に訊ねるエル。
もちろん推されてる事は知らないが。
「えぇ、僕が入社する前から使い回してると思います。色んな人がいじってますから、どこまでがオリジナルか分かりませんが…」
「オリジナルに近いものはありますか?」
「このPCには入れてませんが、会社にはバックアップがあるはずです」
「じゃあなるべくファイル作成日の古いやつ…もしまたお店に来てくれるなら、その時に持って来てください…ネ」
取ってつけたような営業スマイルがぎこちない。
「じゃあ俺もまた来ます!アキラさん、俺は何持ってきたらいいですか?」
アキラ推しが声を張る。
「いやあ、飲み代とそのスマイルだけで十分!」
「ハイハーイ、俺は、俺は?」
いくつになってもこういうノリには参加したくなる川口。
「そうだなー、グッさんには年相応の落ち着きを持って来てもらおうかな」
辛辣なアキラ。
川口はグラスを持つ手でアキラを指差す。
「そういうSっぽいとこ、嫌いじゃないぜ」
指差す前にわざわざグラスを手にとってるのだが、そんな事は誰一人気にも留めていなかった。




