9話 家
趣味で書いてみました
戦国時代にネットショッピングがあったら、こうしたいなと思って書きました
あれから4日が経過した
4日間の総売り上げは1600文だった
そして餅屋での仕事を開始してから10日目
「もう餅米がないから、今日は休みだよ。これから餅米を調達しに行くから、大河達には暇をやるよ」
菊婆さんが心なしか嬉しそうに言った
商売が順調なのが嬉しいのだろう
「菊婆さん、そろそろこの家の納屋から出て行こうと思ってます」
「えっ?ここから出て行くのかい?」
心配そうに菊婆さんが聞いてきた
「いえ、手伝いには来ますが、納屋で暮らすのも辛くなってきたので家を借りようと思っています」
そう大河が言うと
「そうさね、なら知り合いの大家を紹介するから、空いている家がないか聞いてごらん」
菊婆さんが安心した様子で手紙を書いてくれた
ここまで大河達が得た金は合計1080文である
食費に多少使ったがまだ1000文以上ある
大河は収入も安定してきたし、自分たち用の家を借りようと考えていた
菊婆さんの手紙を受け取り、早速その大家の家に行く
「大家の家はこの通りを右に行って、行き止まりの右角にある大きな家さ。虎衛門という名の地主がいるはずだよ。虎衛門にこの手紙を渡せば、家を紹介してくれるはずさ」
と菊婆さんが説明してくれた
「ありがとうございます」と大河はお礼を言った
通りを右に暫く歩くと行き止まりのT字路にたどり着いた
その右角を見ると周りの家と比べても3回りほど大きな家があった
「多分ここだな」
大河達はその大家の家の前で鈴を鳴らす
「何か御用ですか?」
小姓が出てきて用件を聞いてきた
「餅屋の菊婆さんの紹介で来ました。虎衛門さんにこの紹介状を渡して貰えますか?」
「分かりました」
と小姓が言い、家の中に入っていってから暫く待つと中背で小太りの40くらいの男が現れた
「お前たちか?家を借りたいと言うのは」
「はい」
「今貸せる家は1つしかないが良いか?」
と虎衛門が言ってきた
「そんなに大金は払えませんよ?」
「ははは、それはお前らの恰好を見たら分かる。あまり高くはないから心配するな」
「それに一度家を見せてもらえませんか?」
「それなら、これから家を見に行くか?」
「はい、よろしくお願いします」
大家の家から1本裏通りに入り、暫く歩くと虎衛門が立ち止まった
「ここがそうだ」
と虎衛門が指さして言った
家の大きさは、この辺の標準サイズだ
長屋ではなく、ちゃんとした一軒家である
いわゆる町屋といった感じと言ったらいいか
「家の前部分は仕事場となっている、前の住人はきな粉屋だった。そして後ろ部分が住居だ」
前部分には竈などがある10畳ほどの土間となっていた
後ろ部分は、囲炉裏などがある10畳ほどの板間となっている
「値段はそうだな、2月で1貫でどうだ?」
虎衛門が値段を提示してきた
「それ以上負かりませんよね?」
大河はなんとなく無理だろうなと思いながら言った
「菊婆さんの知り合いだからな、これ以上ないくらいの安値だ」
「恩人なんですか?」
「ああ」
虎衛門が深くは聞くなという風に答えた
「分かりました。借ります。まずは2月分を支払います」
そう言うと大河は1貫を渡した
「決断が早いな。もっと他の家を見なくて良いのか?」
「ここが気に入りましたし、あなたが嘘を言う人とも思えませんから」
実は、大河は密にこの辺の家の相場を調べていたのである
提示された金額がこの辺では最安値の部類だということが分かっていた
「それじゃあ、証文を書くから家に戻るぞ」
そう言うと虎衛門の家に歩きだした
虎衛門の家で証文を書き終える
「良し、これで成立だな。今日から住むのか?」
「はい、そうします。ありがとうございました」
「ああ、次は2月後だな」
「はい、それではまた」
大河達は餅屋へ戻って行く
「大河、あの家で良かったの?」
と心配そうに巴が聞いてきた
「ああ、あの辺なら安い方だし家もまあまあだ。前部分に竈も複数あるし、色々なことに使えそうだ」
「何に使うの~?」
と静が疑問を言葉にした
「将来を見据えての話だよ。それより荷物を持って引っ越そう」
「あら、お帰り」
菊婆さんが帰ってきていた
「ただいま、戻りました。菊婆さん、今日から家を借りたので引っ越しします。色々ありがとうございました」
「なに、これも何かの縁さ。まだこちらに手伝いに来るんだろう?」
「はい、まだご厄介になるつもりです」
「なら良いさ」
「これからもっとこの餅屋を繁盛させますよ」
と大河が冗談っぽく言った
「ははは、そりゃ良い。それはそうと、明日から爺さんが復帰するよ」
「腰は大丈夫なんですか?」
「大丈夫だってさ」
「それなら餅の生産も楽になりそうだな」
「何言ってるんだい?明日は150組作るんだから、大河の労力は変わらないよ」
と菊婆さん
「そ、そんな~」
菊婆さん、巴、静
「「「ハハハハハ」」」
それから3人は納屋から僅かな私物を持って、新しい家に居を移した
「今日は引っ越し祝いだ。2人とも、何か食べたい物はあるか?特別にリクエストに応えてやるぞ」
「リクエなんとかってなに?」
と聞いたこともない単語に不思議がる巴
「つまり要望ってことだな」
「要望か~、それならあんぱんかな~」
「私も~」
巴と静はあんぱんらしい、欲がない2人である
「分かった、それなら。・・・・・・・・・・・」
大河が適当にそれっぽい呪文を唱えると
いくつかのパンを楽市楽座で購入した
ポンッ
「出てきたよ。あれ?前と違うやつがある」
目ざとく静が違いを見つける
「フフフ、これはクリームパンとチョコレートパンだ。うまいぞ~」
「なんか大河が怪しい」
「まあ、食べてみろって」
巴と静は黙ってクリームパンの袋を開けると
ガブッと食いついた
「「!!」」
2人は目を見開き夢中で食べ続ける
大河は面白そうにそれを眺めてる
2人が食べ終わると
「大河、何これ凄い。このとろっとした甘い汁が最高に美味しかった」
と巴
「美味しすぎるよ~。甘い香りとトロ~と口の中にとろける汁が良い~」
と静も大層ご満悦だ
「そうだろ~。ほらもう一つもうまいぞ」
2人はチョコレートパンを見つめた
黙ってパンを手に取り袋を開けかぶりつく
「「!!」」
「こっちもおいし~!!この独特な香りが素敵」
と巴
「凄くおいし~。この香りと甘さが最高だよ~」
と静
巴と静は2つともペロリと食べると残っている大河のパンを見つめた
まるで獲物を前にした猛獣である
「大河、それ欲しい」
「大河お兄ちゃん、静も」
「しょ、しょうがないな、食べてもいいぞ」
2人に気圧される大河であった
まるで猛獣を前にしたウサギである
「「やった~」」
巴がチョコレートパンを静はクリームパンを手に取り食べ始めた
そして、大河は残ったあんぱんを食べるのであった
その夜
「明日も早いし、そろそろ寝ようぜ」
「そうね」
「ええ~」
巴と静の2人は菓子パンを食べた興奮からずっとおしゃべりしていたのであった
「明日に響くぞ」
「「分かった・よ~」」
巴が準備良くブランケットを敷き始めた
「巴、ちょっと待ってくれ。板の間だし、今日から布団で寝よう」
「布団って何?」
「布団というのはこれだ」
楽市楽座でキングサイズの敷布団を購入
ポンッ ドサッ
出てきた布団袋を開封し、敷布団を広げた
「「何これ~?」」
2人が見たこともない品に興味深々だ
「これが敷布団だ。柔らかくて寝心地が良いぞ」
「ほんとだ~、ふかふか」
静も気に入ったようで、布団の感触を確かめている
「これも大河の世界の品なの?」
と巴が聞いてきた
「ああ、そうだ。俺の時代なら大抵の人が使っている普及品だ」
「これが普及品なの?凄い品に見えるけど・・・。大河の世界ってどんなのよ・・・」
「そりゃ~、450年後の世界だしな。色々発展しているさ。まあ寝ようぜ」
「は~い」
寝るのが楽しみになったらしい静が元気よく返事をした
ブランケットを掛けて3人で寝る
「うわ~、心地よくてすぐ寝ちゃいそう~」
「ほんとね、心地良いわ」
大河、巴、静
「「「おやすみ~」」」
3人ともすぐ眠りについた
・・・・・・・・・
朝日が昇る頃、大河は目が覚めた
「さて起きるか」
ふと2人を見るとまだ夢の中のようだ
幸せそうだ、きっと良い夢を見ているのだろう
「クリームパン待て~。そこで大人しくしてるんだよ~」
寝言を言う静
クリームパン狩りでもしているのだろうか?
「顔でも洗うか」
近くにある井戸に水を汲みに行く
戻ってきて顔を洗う
「あれ?起きてこないな」
大河が布団を見に行くとまだ2人共寝ていた
「お~い起きろ~。間に合わなくなるぞ~」
「う~~ん」
「もうあさ~?」
2人がやっと起きた
「この布団まずいよ~」と静
「こんなに起きるのが億劫になるなんて」
と巴が驚く
「まあ、まだこんなもんじゃないけどな」
と大河が小声で言った
「さあ準備していくぞ」
今日も元気よく餅屋に働きに出る
初めて投稿致します
拙い所もあると思いますが、広い心でお読みいただければと思います
誤字脱字、歴史考証の不備など歓迎いたします
しかし、物語優先で時代考証は完璧にしようとは思っておりませんのでどうぞよろしくお願いいたします
また、告知なしでの変更等がありますことをご了承ください
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