25話 信玄の西上
趣味がてらに書いてみました
戦国時代にネットショッピングを持っていたら、こうするだろうなと思って書きました
楽しんで頂けたら幸いです
1572年5月
足利義昭が畿内の制圧に協力を求める文を信玄に送った
その文を読んだ信玄は、上洛への欲求を強くした
1572年7月
武蔵、相模、駿河、伊豆の掌握が完了したことを受け、信玄は遠江国に侵攻した
上洛作戦である
総勢7万の大軍が駿府城を出立した
主な将は、大河、勝頼、馬場信春、真田幸隆、武田信豊、穴山信君、山県昌景、秋山虎繁、小山田信茂である
謙信は関東以北への抑えとして関東に残した
背後の心配なく出陣するためであった
徳川連絡兵
「殿、大変にございます! 武田軍が駿府を出立。その数7万!」
家康
「遂に来たか! 信長殿に知らせるのだ!」
武田軍は遠江国に入るとすぐさま高天神城を攻略
次に二俣城を攻撃した
二俣城は天竜川と二俣川に挟まれた連郭式の山城である
二俣城攻略は勝頼を大将とした2万の軍で行われた
二俣城を落とされると後がない徳川軍は士気も高く、武田軍は2月ほど攻めあぐねていたが水の補給口を破壊することで攻略に成功した
そして、武田軍は三方ヶ原へと移動した
と、そこには織田、徳川連合軍7万が満を持して布陣していた
信玄
「なんと! 読まれておったのか?」
と驚き言った
大河
(なんだこれは? こんなの知らないぞ!)
と織田、徳川連合軍の陣容を見て狼狽していた
大河は、この時期、織田家は対包囲網の対処で援軍に駆けつけることができないと知っていた
そのため、7万の大軍で進めば徳川を潰し、その勢いを駆って織田家を倒せると踏んでいたのだ
だが、目の前に布陣しているのは、まごうことなき織田家の主戦力であった
更に、織田家の主な将が皆勢揃いしていた
実は織田信長は、畿内よりも武田家の動向を気にしていた
関東を制覇した武田家が次に動くのは、遠江、三河だろうと予想していたのだ
武田家が動けば、全力を以って戦う以外に生き残る術はないと思っていた
そのため、甲府での動向など少しの違和感でも報告するように指示していたのだ
そして、信玄が軍を集め始めたとの報を聞き、急ぎ全軍を招集したのであった
今川義元との戦い以来の危機に信長は気分が昂ぶっていた
危機にこそ、チャンスがあるかのように
信玄は陣を敷き、織田、徳川軍の動向を探らせた
そして、評定を開いた
真田幸隆
「お館様。織田、徳川軍は全軍を招集したようでございます。柴田勝家、滝川一益、丹羽長秀、木下藤吉郎などの主な将が集結しておりまする」
信玄
「信長め、ここに全力をぶつけてきたか!」
と興奮したように言った
すると信玄は、突然咳をし始めた
「ごほっ、ごほっ、ごふっっ」
そして、血を吐いた
「「「お館様!」」」
信玄の息は浅く、苦しさがにじみ出ていた
「ちょっと失礼します」
と大河は言い信玄の容態を確認した
1年前、大河は信玄の体を確認したが、癌が進行しており、もうどうしようもない状態になっていた
薬で延命してきたが、まさかこんな時にと天を仰いだ
「大河よ。もう良い。間もなく寿命が尽きることは儂が一番良く知っておる」
と信玄が苦しそうに言った
「良く聞け。今後の事だ。家督は勝頼の子、信勝に譲る事とする」
「信勝様はまだ4つでございまするぞ?」
と真田幸隆が言った
「後見人を付ける。その後見人には大河、お主が就け」
と信玄が以前から考えていたかのように言った
「父上、何故でございますか?」
と勝頼が父が倒れ悲しいのか、跡継ぎになれず悔しいのか涙を浮かべて言った
「勝頼、周りが見えておらぬ今のお主が当主に就けば、武田は滅びよう。これも武田の為だ。許せ」
と信玄が苦しそうに言った
「大河が没して、信勝がまだ幼ければお主が後見人となれ。周りを良く見て学ぶのだ」
と信玄が期待を込めて言った
「お館様。俺にそんな大役はできません。何卒お考え直しを」
と大河は申し訳なさそうに言った
「大河よ。儂の最後の頼みだ。お主に武田を任せたい。受けてくれぬか?」
と信玄は初めて弱弱しい姿を見せ、大河にお願いをした
「お館様……、分かりました。微力を尽くします」
と大河は決意を固め言った
「お主に任せれば憂いはない……」
と信玄は言い、息を引き取った
「「「お館様!!」」」
諸将は信玄の死を嘆き悲しんだ
大河も、厳しくも温情のある主君の死に涙した
暫くして
「お館様を弔わねばならぬ、軍を引き上げようぞ」
と穴山信君が言った
「そうじゃ。お館様を弔うのじゃ」
と武田信豊もそれに賛成した
諸将もその気分になりつつあった
だが、大河は分かっていた。ここで甲斐に戻れば、武田は滅亡するだろうということを
大河は意を決し言った
「戻ってはダメだ! ここで徳川、織田を倒さなければ武田は滅ぶ!」
武田諸将はギョッとした
大河が、今ハッキリと武田が滅ぶと言ったのだ
「どういう事じゃ?」
と勝頼が言った
「武田は、お館様が亡くなりになってから10年以内に滅ぶ。徳川、織田連合軍によってな」
と大河はここで初めて未来の出来事を白状した
そうでもしなければ、諸将を繋ぎ止められないと思ったからだ
「「「何じゃと?!」」」
と諸将は驚いた
「それは真でございますか?」
と馬場信春は動揺しながら聞いた
「真実だ。これから織田家は加速的に大きくなる。勝てるとしたら今しかない」
大河は、これからの歴史を考え言った
武田が侵攻を遅らせば遅らすほど織田家は大きくなることは簡単に予想できた
「お館様に武田家を託されたんだ、滅ぼされるなんてまっぴら御免だ」
と大河は本心から言った
「そうか……。分かった。儂は大河様に付いていく」
と唐突に山県昌景が冷静な面持ちで言った
昌景は、ようやくこれまでの大河の行動に合点がいった
大河は、滅びゆく運命の武田家を救おうとしていたのだ
「「儂も、大河様に付いていく」」
馬場信春、真田幸隆が言った
2人は、大河が武田家の未来の知識を持っていることを知った
その知識で武田家を騙し、己の利益を得ようと思えば幾らでもできただろうにと思った。しかし、それをせず武田家を救おうとしている大河を見て、この者なら信じられると思ったのだ
それゆえ、今言ったことは真実なのだろうと確信していた
「武田が生き残るためにも、貴殿らの協力が必要です」
と大河は勝頼ら武田重臣に協力を求めた
「暫く放っといてもらおうか」
と勝頼は返事をしなかった
色々とショックだったのだろう。心の整理が必要なのかもしれない
他の将も今は喪に服したいと自陣へ戻って行った
――信長陣営、信玄が死んでから5日後
信長
「何! 信玄が死んだだと? それに間違いはなかろうな?」
信長は、武田軍が陣を敷いてから数日間微動だにしないことを不審に思っていた
そのため、忍びに情報収集をするように命じていたのだった
忍び
「信玄が亡くなったと泣き叫ぶ者を見ておりますれば、間違いありませぬ」
「だが、信玄の策やもしれぬ。引き続き信玄の情報を集めよ」
信長は信玄の策を警戒し、忍びを使って確かめようとした
「ははっ」
――更に4日後
忍び
「殿、やはり信玄は亡くなっておりまする。生気も無く、微動だにしない信玄の体を見たと申す者がおりました」
信長
「ハハハハハ! そうか! 信玄が逝ったか! ここに来て武田も運に見放されたようだな!」
家康
「して、跡継ぎは?」
忍び
「勝頼の子、信勝が跡継ぎとなったと。そして、大河という者が後見人となったとの噂にございまする」
信長
「大河だと? 仏の化身と言われておる、得体の知れぬ人物であるな」
家康
「某が掴んだ情報では、大河は謙信を倒し、加賀一向宗を丸め込み、北条に攫われた人物と聞き及んでおりまする」
信長
「それは嘘か真か?」
家康
「真偽の程は分かりませぬが……」
信長は大河の情報を集めたが、そのどれもが信じられないような話であった
そのため、本当の事なのか、信玄の策なのか、それともホラ話なのか判断できずにいた
接触も試みたが、全て袖にされていた
忠誠の厚い人物であるがゆえに信玄の策である可能性も高かった
家康も大河の情報を集めていたが、荒唐無稽な話ばかりで本当に実在の人物なのか分からずにいた
一応、それらしき人物は実在している
しかし、その人物が成したことが信じられなかったのだ
そのため、信玄が作り上げた仮の人物なのではないかと思っていた
とその時、木下藤吉郎が本陣に入って来た
藤吉郎
「殿、良い情報を掴みましたぞ」
信長
「何だ?」
藤吉郎
「どうやら武田は内部分裂しておる様子。信玄亡き後、大河と勝頼が仲違いしておるとの情報でございまする」
藤吉郎は竹中半兵衛に武田の内情を探らせていた
そして、この情報を掴んだのだった
信長
「ほう、どうやら信玄が亡くなったというのは間違いなさそうだな。藤吉郎、後見人になれなかった勝頼を調略せよ。内応し、大河を討てば後見人として認めると申せば応じよう」
藤吉郎
「ははっ」
――勝頼側
勝頼が自陣で1人ふさぎ込んでいると、連絡網で信玄の死と後継者を知った長坂虎房が、急遽諏訪の高島城からやってきた
長坂虎房
「勝頼様、此度の処遇、真に遺憾でございまする。何故、勝頼様が跡継ぎとなられないのか不思議でなりませぬ」
虎房は、勝頼が武田家の跡継ぎとなることを疑ってもいなかった
しかし、信勝が跡継ぎとなり、大河が後見人になったことを信じられない思いであった
虎房は、長年勝頼の側近を務めていたため、勝頼が当主となれば自らの地位が上がり、武田家を思いのままにできると思っていたのだ
それを、大河に邪魔されたと逆恨みしていた
すると、そこに信長からの使者がやってきた
使者
「某は木下藤吉郎配下の者でございまする。勝頼様に藤吉郎様より書状を仰せ付かっておりまする」
虎房は、使者から書状を受け取った
書状を受け取ったのを確認した使者は織田陣営の方へ戻っていった
虎房は、使者が去ったの確認し書状を読み始めた
一通り読むと虎房は明るい表情で言った
「勝頼様、渡りに船でございますぞ。此度の戦で内応し大河を討てば、後見人に認めると申しておりまする」
「なんじゃと! 儂に武田家を裏切れと申すのか?」
と勝頼は怒りを込めて言った
「勝頼様、そうではありませぬ。大河は武田家を乗っ取った大罪人でございますぞ。勝頼様はその大罪人を討つのでございます」
虎房は、己の地位を向上させるため、勝頼を丸め込もうと説得し始めた
「大河が大罪人だと?」
勝頼は、虎房の言葉を疑問に思った
「そうではありませぬか。本来、勝頼様が武田家を継ぐはず、それをかすめ取った大河は大罪人にございまする」
「むう」
と勝頼はそうかもしれない、大罪人の大河を討てば当主になれると思い始めていた
「ここで大河を討たねば、次は有りませぬぞ!」
と虎房は脅すように言った
「分かった」
勝頼は藤吉郎宛に書状を書いて、配下に届けるよう命令した
その後、勝頼が戦に協力すると言ったことから、全諸将は織田、徳川連合軍と戦うことを承諾した
そして、決戦の時を迎えようとしていた
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