17話 武田勝頼の焦り
趣味がてらに書いてみました
戦国時代にネットショッピングを持っていたら、こうするだろうなと思って書きました
楽しんで頂けたら幸いです
――1568年3月
上野国の国主となった武田勝頼は焦っていた
それは、大河の功績があまりにも大きいからだった
まだ、勝頼は初陣すら済ませていない(本来は、1563年に初陣をするのだが、大河が箕輪城を攻略してしまい無くなった)
それなのに、同い年である大河は既に3国も攻略していた
武田家中では大河の評判で持ちきりだった
それなのに自分は何も成していない
なんとかして成果を上げる必要があった
そこに、信玄から大河を傘下に入れ関東を攻略せよと下知が来た
勝頼は、急に大河、謙信という武田家の2大巨頭を扱わなくてはならなくなったのだ
だが、勝頼の頭の中にあったのは自分のことだけであった
謙信は信玄からの下知にやっと関東へ出兵することができると喜び勇んでいた
それを大河は謙信に関東管領として仕えれば良いと約束したこともあり、無下にできず連れてきたのであった
また、北越後の国人衆達が、越中、加賀、能登での戦に参加できなかったことを悔しがっていた
武功を上げ、褒美をもらうことができなかったからだ
そのため、関東への出兵に付いて行くと聞かなかった
こうして、大河は関東への欲望を丸出しにした越後衆を抑えねばならない状況となっていた
大河達は厩橋城に15000の兵と共に入った
そこで、勝頼が評定に参加せよと連絡をよこしたことで連れてきた将達と共に箕輪城へ向かった
「勝頼様、お久しぶりでございます」
と大河は勝頼に頭を下げた
「久しいな。大河よ」
「初めてお目にかかる。上杉謙信と申す」
と謙信は臣下の礼を取らず。対等な相手として挨拶をした
「勝頼だ。よろしくお頼み申す」
と勝頼は謙信に畏怖を感じながら挨拶をした
「さて、皆集まったようじゃな。それではこれから評定を行う」
と勝頼が宣言をした
――が、始まって暫くした所
「なんと! それでは我らは何のためにここへ来たか分からぬではないか!」
と本庄繁長が吼えた
その原因は勝頼が決めた兵の配置であった
勝頼は総勢3万5千の兵の内2万の武田兵を前衛部隊とし、残りの越後兵1万5千を背後からの攻撃に備える後方部隊としたのだ
そして、大河には部隊ですらなく小荷駄を率いる将に任命した
しかも、大河に宛がった兵はたったの200名であった
「勝頼様の裁定に不服があると申すか?新参者のくせに生意気言いおって」
と小山田信茂は言った
「なんだと!?」
と今にも飛び掛からんばかりの勢いで繁長が言った
「抑えよ」
と謙信が言ったため繁長は怒りを堪えながら座った
「大河よ。お主の役目は重要じゃ。手抜かりのないようにな」
と勝頼が言った
「ははっ」
と大河は越後勢に申し訳ないと心の中で謝罪しながら言った
勝頼率いる3万5千の軍勢は箕輪城を出立し南下していった
最初の目標は鉢形城である
鉢形城は、荒川と深沢川に挟まれた断崖絶壁の上に建てられた連郭式の平山城である。
この地は交通の要衝であり、鉢形城は上州や信州方面を望む重要な拠点であった
一門衆である北条氏邦が守っていることからもこの地の重要性が分かろうというもの
その鉢形城には3000余の兵が配備されていた
勝頼は鉢形城を包囲し、2万の武田兵で攻め入った
だが、鉢形城は武田信玄、上杉謙信、前田利家、上杉景勝らの数度の攻撃に耐えた堅城である
そう簡単には落ちなかった
越後兵1万5千は鉢形城から少し離れた場所に待機、周辺を警戒していた
大河は、箕輪城に戻り集められた輜重を運ぶ手筈を整えていた
大河は、荷物を運ぶため耐荷重量150kgのリヤカーを1200台出した
その合計輸送重量は180000kgである
1日の人間の食料は(米、塩、味噌の合計)1kgであるため3万5千の兵の5日分の食料である
大河は、リヤカーを1200名の人夫に引かせ、箕輪城から鉢形城へ輸送し始めた
この辺りに敵は居ないとみられ、小荷駄隊を襲うのは野盗くらいのものであった
そのため、護衛は200名の兵で十分とみられていた
「むっ。何奴!」
小荷駄隊は森に少し踏み入れた所で立ち止まった
そこに怪しい人物が10人ほど待ち構えていたからだ
相手は何も言わず向かってきた
「野盗か応戦しろ」
と大河は言った
護衛兵は10人に向かっていった
すると突然木の上から数十人が次々と下りてきて襲い掛かってきた
それが奇襲となり、次々と護衛兵は倒されていく
「大河様、お逃げ下され」
「すまん」
と大河は戦闘場所とは反対方向である箕輪城の方へ逃げ出した
だが、突然禿げ頭の大男が小荷駄隊の真ん中に現れ、大河の腹を殴った
大河はそこで意識を失った
――暫く経過した後
「はっ」
と大河は意識を取り戻した
「ここはどこだ?」
辺りを見回すと8畳くらいの部屋の中であった
太い木の格子が部屋の一面にはめてあり、人が抜け出せないようになっていた
その格子には扉が付いており、南京錠で鍵が掛けてあった
「どうやら捕まったようだな。でも、一体誰が?」
大河は手足を動かしてみたが、縄できつく縛られており動かすことができなかった
暫く聞き耳を立たが、あまり物音がしない
どうやら人があまり居ない場所のようだった
「人が居ない、かと言って1人で逃げ出せるだろうか? 無理だろうな」
大河はあまり強くない、対人戦闘で勝てるイメージが湧かなかった
暫くすると、数人が入ってくる音がした
ギィと蝶番の音がし、50歳くらいの歴戦の武将と思われる風貌の男と大道寺資親、それに数人の護衛兵が現れた
「お主が仏の化身と呼ばれておる大河か?」
と50歳くらいの男が言った
「俺が、大河です」
大河は頭の中で資親が居るということは川越城か、その近くだなと位置関係を整理していた
少なくとも御殿の近くではないな、少し離れた屋敷の一棟かもしれないと推測を立てていた
「ふむ。仏の化身というからには光り輝いておるのかと思うたが、普通じゃな」
「あなたは?」
と大河は問うた
「儂は北条氏康じゃ」
この男が氏康かと大河は思った
北条氏康、北条氏5代の中でも名将誉れ高い人物で
川越夜戦を経て北条を関東の雄となした英傑である
「北条家頭領がなぜ俺を?」
「お主に会うてみたくなったのよ。武田家に繁栄をもたらした人物とやらをな」
「それでどうでしたか?」
と大河は問うてみた
「普通の民と変わらぬな。これといって特徴がある訳でもない」
「そうですか……」
と大河は意気消沈した
見た目は普通だしなぁと思っていた
「だが、お主の行ったことが武田家に繫栄をもたらしたことは事実じゃ。どうじゃ北条家に仕えぬか?」
と氏康は言った
「申し訳ありませんが、一度北条家には裏切られております故、仕えることはできません」
と大河はハッキリと断った
「どういうことじゃ?お主は北条に仕えておったのか?」
と氏康は頭にハテナを浮かべていた
「俺は7年前、川越にて商人をしておりました。しかし、繁盛してきた所で座と揉め追放となりました。そこに居る資親どのもご存知と思います」
「なんと! 資親、お主こやつを知っておったのか?」
「氏康様。儂が知っておるのは商人としての大河でございまする。まさかこのような人物とは思わず」
と資親言い訳を並べ始めた
「言い訳は良い。お主に見る目が無かったということよ」
と氏康は資親を冷たい目で見つめた
「何卒お許しを」
と資親は氏康に許しを請うた
氏康は興がそがれたのか、供と直ぐに出て行ってしまった
大河は、牢屋に残された
「これだけ武田に恩がある身で、今更北条に仕えることなどできるものか」
と独り言を言った
大河は、誰も居なくなった牢屋の中で自分の状況を観察した
手は後ろに回され縄でキツク縛られていた
足も縄で縛られ、芋虫状態になっており動くに動けなかった
――丁度その頃、勝頼に大河が攫われたとの知らせが届いた
「何! 大河が攫われたじゃと? それで兵糧はどうした?」
と勝頼が言った
「奇妙なことに兵糧はそのまま残されておりまする」
「それなら安心じゃ」
勝頼は大河のことなどどうでも良かったのだ
だが同じころ、その知らせが信玄に届いた
「なんだと! 大河が攫われただと?! 勝頼はどうしておる?」
「勝頼様は鉢形城攻めを続けておりまする」
「馬鹿な! どうして大河を探さぬ?!」
と信玄は怒り露わにして言った
「謙信どのが探しておりますれば、そちらに任せているのでございましょう」
と連絡兵が言った
信玄は連絡兵から勝頼が施した大河や謙信、元上杉将の処遇、大河が攫われた状況を聞いて天を仰いだ
「武田が滅びる原因はここであったか」
と言った
すぐさま信玄は15000の兵を集めてに鉢形城に向かった
虎の子の鉄騎馬隊も含めてである
――大河が攫われて10日後
信玄率いる15000の兵が鉢形城に到着した
「父上、どうしてこちらへ?」
と勝頼は援軍が来たことに喜びを示した
「大河を探すためだ」
それを聞いた勝頼は苦々しい顔になり
「それは、上杉将らがやっておりまする」
と答えた
それを聞いた信玄は
「お主は何をしておる? 味方の将が攫われて何もせぬのか?」
と呆れたように言った
勝頼はさも当然というように
「我らは鉢形城を攻略するために来ておりまする。不手際で攫われた者などに割く人員はおりませぬ」
と言った
「愚か者が! 不手際であろうと味方を助けに行かぬ君主についていく者などおらぬわ!」
と信玄は怒りを露にした
勝頼は、まるで我儘な子供が怒られた時のように信玄を睨み付けた
しかし、信玄は追い打ちを掛けるように言った
「お主は、鉢形城と大河どちらが大事か分からぬのか?」
「我が武田に大河など必要ありませぬ。それを某が証明してみせましょう」
と勝頼は本気で言った
「我が子はこれほどまでに愚かであったか。大河がどれ程武田に恩恵をもたらしたか分からぬと申すか?」
と信玄が聞いた
「この世で最も大事なのは武力でございます。武力さえあれば家臣はついて来まする」
と勝頼は本当にそう思い込んでいるようであった
「分かった。ならば、3日やろう。3日で鉢形城を落としてみせよ。大河は箕輪城を3日で落としたのだ。同じようにしてみせよ」
「み、3日でございますか?」
勝頼はゴクリと喉を鳴らした
勝頼は鉢形城を2万の兵で攻撃して10日経過していたが、北条氏邦が守る鉢形城を一向に落とせそうになかった
「出来ぬとは言わさぬぞ」
と信玄は有無を言わさぬ調子で言った
「ははっ。承知仕りました」
と勝頼は承諾したが、どうすれば良いのか見当も付かなかった
とそこに長坂虎房が勝頼に近づいてきて言った
「大丈夫にございます。お館様は勝頼様をお試しになっているだけにございまする。例え城を落とせぬとも罰せられることはありますまい」
長坂虎房は武田家の後継者が勝頼しかいなことから、勝頼の立場は安泰であり何をしても咎められることはないと思っていた
そのため、勝頼に色々吹込み勝頼にとって邪魔な大河を排除しようとしたのだ
勝頼は総勢3万5千になった軍勢で鉢形城を総攻撃したが、北条氏邦が指揮を執った鉢形城は堅く、瞬く間に3日が経過した
信玄が勝頼に言った
「どうした? 3日経ったが城は落ちておらぬぞ?」
勝頼は、下を向き歯を食いしばっていた
「3日では無理でございまする」
と絞り出すように言った
「お主の頼みにしておる武力では、あの城を3日では落とせぬという訳だな?」
勝頼はそう信玄に言われて返す言葉もなかった
「それに、お主は武力さえあれば将は付いてくると言っておったが、見捨てた将の家臣はどう思っておるか分かるか?」
と信玄は勝頼に問うた
「分かりませぬ」
と勝頼はぶっきらぼうに答えた
「裏切りを検討しておるだろうよ」
「まさか!」
と勝頼は裏切りの可能性を全く考えていなかった
何があっても主君に尽くすことが当然だと思っていたのだ
そういう風に教育されてきたからであった
「己の主君を見捨てた者に付いていく者などおるものか。次は自分が見捨てられると思い反逆しよう」
と信玄はこれまでの経験からそう断言した
「謙信達が正にそれに該当しよう。大河が死んだと分かれば、鉢形城を攻めている武田軍の背後を襲ったであろう。そして越後に帰り上杉として独立したであろうな」
勝頼は漸く自分のしでかしたことの大きさを悟り、膝がガタガタと震え出した
「某は何と言う事を」
と勝頼は呆然として言った
「漸く分かったか」
と信玄は言い全軍に撤退命令を出した
武田軍は鉢形城から離れ元上杉軍と合流しようと動き始めた
――その頃、謙信は軒猿を使い大河の囚われている場所を特定していた
左之助
「川越に12日ほど前から警備兵が多数配置されるようになった屋敷がございます。大河様は、そこに囚われて居りまする」
謙信
「助けに入れぬのか?」
「難かしゅうございます。風魔の忍びと北条兵の警備が厳しく近寄れませぬ」
軒猿衆はあらゆる手段を用いて川越城に侵入を試みた
そして、有能な忍び1人がその屋敷の屋根裏の侵入に成功し、大河らしき人物を見て逃げ帰ってきたのだった
「ならば、強行するしかあるまい」
と謙信は決意固めた
「邪魔をする」
とそこに信玄が現れた
「ふむ。その感じでは、大河がどこに居るのか分かったようだな」
と信玄は感心したように言った
「何用だ?」
と謙信はけんもほろろに言った
謙信はこれまでの仕打ちに武田家を見限りつつあったのだ
「大河の救出に決まっておろう」
と信玄はさも当然というように言った
「お主らの大事な鉢形城はどうするのだ?」
と謙信は嫌味を込めて言った
「あの程度の城、要らぬ」
と信玄はその嫌味に大した城ではないと返した
「なるほど。お主だけは大河様の価値を分かっておるようだな」
と謙信はニヤリとした
「当然だ。それで武田は大きくなったのだからな」
と信玄もニヤリと返した
「だが、大河様を秘密裏に助けるのは難しいぞ?」
と謙信はこれまでの経緯を簡単に話した
「ならば、強行するしかあるまい」
と信玄も謙信と同じ結論を下した
信玄と謙信は同じ目的のため一時的な協力体制を敷いた
「では、参ろうか」
と信玄が言った
「うむ」
謙信は頷いた
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誤字脱字、歴史考証の不備など歓迎いたします
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