夏祭りに行く前に
自作品のスピンオフですが、これだけで問題なく読めますので、どうぞ!
「凪沙ちゃん、今度の夏祭りさ、一緒に行かない?」
「夏祭り? 今度の?」
同じクラスの男子の言葉に、凪沙が思い出しつつ問い返すと、相手はうんうんと頷く。
「みんなも一緒に行くからさ、どう?」
あげられた名前は、男子だけではなく女子も入っている。友達の名前もあって、だったら誘ってくれればいいのに、と心の中で友達に文句を言いながら、相手に頷いた。
「うん、行きたい」
「よっしゃ決まり。約束だからな、凪沙ちゃん」
「もちろん! 楽しみだね……」
「俺も行く」
凪沙の言葉を遮るように他の声が被る。同時に後ろから手が伸びて、凪沙の肩を掴んだ。
男子生徒が苦々しい顔をして、凪沙は慌てることなく後ろを振り返る。
「泰基も行くの? 人混みキライって言うくせに」
「行きたい気分なんだよ」
「ふーん?」
不思議そうにしながらも凪沙はそれ以上は聞かずに、男子生徒に笑いかけた。
「じゃあ泰基と一緒に参加するね! 誘ってくれてありがとう!」
「あ、ああ……」
「帰るぞ、凪沙」
「ちょっと泰基、押さないでよ!」
肩を押されて文句を言っても、力は緩まない。
しょうがなく挨拶も程々に歩き始めた凪沙だが、その後方で泰基と男子生徒が火花を散らしていることには、気付いていなかった。
※ ※ ※
「ねえ、夏祭りっていったら、やっぱり浴衣だよね。買った方がいいと思う?」
帰り道。
凪沙の問いかけに、泰基はムスッとした。
「必要ない。いつも着てるヨレヨレのTシャツで十分だ」
「えー? あれは家でしか着ないって」
「俺の前では、あればかりじゃないか」
「今さら泰基の前で取り繕ったって、しょうがないじゃない」
ゲーム好きの二人は、大体どちらかの部屋で会う。家が隣同士の幼なじみだから、色々もう今さらだ。だが、さすがに外に出かけるときにヨレヨレシャツを着るのは、女子高生として問題だということくらいは分かる。
だが、泰基の表情は不機嫌なままだった。
「あれでいいんだよ。浴衣は禁止」
「なんで? 絶対みんなオシャレしてくるのに」
「お前オシャレなんて興味ないだろ」
「それでも少しは気にするの!」
「駄目」
むぅっと頬を膨らませた凪沙を横目に、泰基は頑なだった。
「……浴衣姿なんか見せたら、また虫がつくだけだ」
「え、なに?」
「なんでもない」
モテてる自覚のない女を彼女にした時点で覚悟はしていたが、虫を追い払う作業は、なかなか大変なことなのであった。




