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「反則だ...あんなの」
2年の教室の端にある階段の踊り場まで足早に逃げて来て、ポツリ、とひとりごちる。
自分が今顔が赤い事を知っていたから、それをおさめに人通りが少ない場所を選んだ。
「さ~くら♪幸太郎君からOK貰えた~!?」
「....幸乃。」
そこに、キャピキャピした甲高い声を出した、派手で明るい髪をした女子生徒が近付いて来た。
自分の幼なじみだけど。
声が大きくて眉間にシワをよせる。
「――とと。ごめん。うるさかったね」
ひそひそ、とそこまで落とさなくても、と言うくらい声のトーンを落として謝ってくる。
「....未確定の先約があった。」
「え?駄目だったの?」
「ううん。私と組むって。」
「ならよかったじゃん」
「....先約と私なら、私と組みたいって。」
「――わぁーお。大胆発言」
「どう言う意味がある?」
「意味?そのままじゃん?さくらと組みたいって事でしょ。」
きょと、と幸乃は首を傾げる。
わかってる。あいつは言葉を曲げたりしない。いつも、真っすぐなんだ。
「ただ組みたい、じゃないよ。比較して、私のが親しさが上だっただけ。」
「えぇ.....?」
「人の気もしらないで、嬉しくなるような、恥ずかしくなるような言葉を平気で使う。」
「そんな事言っても、幸太郎君があんたにメロメロなのはもう公認ーー」
「それは外見だけ。」
「そんな事―――」
「恋愛感情じゃない。」
だからーー
「あんな優しい目をして、あんな優しい声で、あんな優しい言葉をくれるのは.....反則だ....。」
こっちがただときめいてるだけみたいで馬鹿みたい。