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「私、好きな人がいるから、その人じゃない男の子と出掛けたいとは、思わない。」
「!そ、そっか....」
「じゃあ私、この辺で。」
「え!?送ってくぜ!?」
「大丈夫。知り合い見つけたから。」
加賀亘がキョトンとする。ついさっき窓の外を見た時、目があった通行人が向こうの歩道に足を止めたままだった。
黒目の多い猫目の顔が、びっくりしたまま固まってる。
にっこりと微笑んでみせると、首を傾げて見つめられた。
それが可愛く見えて、思わずまた笑みが漏れた。
「あれ。」
ピッと指を指すと、加賀亘がそちらを向く。
「あぁ......中岡。」
「ん?」
「中岡幸太郎。好きなんだ?」
「....悪い?」
「いや、逆。いい趣味してるや。流石橘さん。」
「でしょ。じゃ、ね。」
鞄を肩にかけて、店を後にして、向こう側にいるコウの所に駆け出す。
私がいなくなった後、加賀亘が呟いた声は、凄く小さかったから、誰にも聞こえなかった。
「あんな可愛い笑顔、撮影でも見れなかったじゃんか.....ちくしょ...」