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(着る服まで考えてどれだけ楽しみにしてるのよ。乙女かっ)
心の中で自分で突っ込んで、湯舟に入る。
でも一人だし、表情は気にしなくてもいいし、心の中なら誰にも聞こえない。
たとえ声に出てたとしても、ここは自分の家であって、しかもお風呂だ。気兼ねする必要もない。
そう思い直す。
(海ね。水着新しいの買おうかなぁ....)
はっきり言って、海にはいい思い出がない。
自分で言うのもなんだが、この容姿のおかげで小学生の時は両親の目の届かない岩場まで行くと、怪しげなおじさんに声をかけられ、人気のない所に連れ込まれそうになったし、中学生の時女友達数人で遊びに行った時は、大人びた顔立ちのせいかうざいくらいに声をかけられ、遠巻きに見ていた女友達の視線は冷ややかに見えた。
(あの時から友達は選ぶ様になったのよね。だいたい助けてくれてもよかったのにあの子達も。どう見ても中学生くらいにしか見えないんだから巻き込まれる事もないのよ)
ハン、と鼻で笑ってみせると、息遣いが反響した。
海ってのはみんな浮かれて隙が出来る。変な人や迷惑な人もいる。
それでも。
(....コウと行ったら。)
フフ、と笑みを浮かべて、さくらは湯舟からゆっくりと出て行った。