1--1.春から夏へ。出会いから...
立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花――――――
その諺が当てはまる奴なんて、この世にいると思ってなかった。
「コウ」
空気が澄み渡るような透明な声で、ぷっくりとした薄いピンク色の口が自分の名前を呼ぶ。
「幸太郎」
もう一度呼ばれて、ハッとする。
「あ....悪い。ぼーっとしてた。...何?」
「.....なんでもない。」
不機嫌になったらしいそいつは、踵を返して歩き出す。
姿勢のいい歩く姿に今度は見とれない様に肩をつかむ。
「ま、待てよ。何、何で怒るの」
肩をつかまれたのがカンに障ったのか、更に不機嫌な顔をして手を払われる。
「私が話しかけて気づかないとかコウのくせにムカつく。」
ムッとした顔をして目を逸らされる。
こんな事を言われて腹が立たないのはこいつだからだ。
込み上げる嬉しさを隠す。
まずはこいつの機嫌を直さなけばいけない。
「あー....違う。お前に見とれてたんだ。あんまり綺麗だから。」
正直に話す事が1番だって俺は知ってる。
ただでさえ大きな目をさらに大きくして、でもすぐに目を細めて笑うこいつの顔がすげぇ好き。
「なんだ。それなら許す。」
高飛車な返事が心地好いのも、相手がこいつだから。
俺が愛してやまない、こいつだから。