86.烏のむかしばなし
今回だけ、烏のお話です。
よろしくお願いします。
むかし、動物たちが暮らす国に1羽の烏がいました。
烏は生まれた時から独りぼっちでした。
そんな烏はある日、人間の男の子を見つけました。ボロボロに傷ついていた男の子を烏は助けてあげました。そして、自分の主人のところへ連れて行きました。
男の子だと思っていた人間は女の子でした。
烏はその女の子とたくさんの時間を過ごしました。獅子の王子や他の鳥たちともたくさん、たくさん遊びました。
やがて、女の子は美しい女性になり、人間の国に帰る事になりました。
烏はとても悲しくなりました。自分にはたった1人の家族のように女の子を思っていたからです。
そして、彼女は人間の国に帰り結婚をしました。
烏は悲しくなり、寂しくなり、悔しくなり、辛くなって…たくさん泣きました。
やがて、彼女は子供を産んで母親になりました。
最初に生まれたのは彼女によく似た男の子でした。たくさんの人から祝福されてとても幸せそうでした。
彼女もとても幸せそうで、烏は心から祝福しました。
次に生まれたのは、自分と同じ黒い髪を持った女の子でした。烏は男の子と同じ様に、沢山の人から祝福されて幸せになるだろうと思っていました。
しかし、烏は、女の子が祝福されていないことを知りました。
女の子は魔法が使えなかったのです。
たったそれだけのことで、たくさんの人間が女の子を傷つけて、そしてその母親である彼女も傷つけていました。
烏は許せませんでした。
自分の大切な彼女も、その娘で自分と同じ黒髪を持つ女の子も、平気で傷つける人間たちが許せませんでした。
烏は友達の人間に言いました。
女の子を動物の国へ連れて行こうと。
しかし、友達は言いました。
大丈夫、必ず守るからと…。
烏はどうしても納得できませんでした。
しかし、烏の主人もそれを認めてはくれませんでした。
やがて烏は遠くの国に行くことになりました。
女の子のことを守りたかった烏は人間の友達に女の子を託しました。
自分の分まで守ってほしいと。
やがて何年も経って烏は、女の子の元へ帰ってきました。
女の子は、赤ん坊から、自分と同じ黒髪が似合う、母親によく似た美しい少女になっていました。
烏は嬉しくなりました。
女の子は動物の国を襲った恐ろしい病気に立ち向かい、たくさんの動物たちを救いました。
そして、女の子のために強くなりたいという子供たちがいてくれることに嬉しくなりました。
烏は誇らしくなりました。
人間の友達を信じて残してきてよかったと思いました。
しかし…
烏は見てしまいました。
女の子が魔法が使えないということで傷付けられたところを。
女の子が人知れず泣いているところを…。
烏は怒りました。
悔しくて、悲しくて、勝手な思いで、魔法が使えないというだけで、女の子を傷つける人間が許せませんでした。
それでも…
女の子は人間の国にいることを選びました。
烏はとても悩みました。
とても悩みましたが、女の子の気持ちを大切にしたいと思いました。
そして…ある日、女の子は姿を消してしまいました。
それを知った烏は再び怒りました。
どうして、誰も女の子を守ってあげないのか。
どうして、あの子ばかりが辛い思いをするのか。
烏は怒りで目の前が真っ赤になりました。
人間の友達も、烏の大切な彼女と結婚した人間にも、もう誰にも女の子を任せられないと思いました。
そして、烏は…
大きな決断をしました。