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38.侯爵令嬢とイスラ王国-5

*この物語はフィクションです。登場する医療記述、その他のすべては作者の想像であり、実在する物とは異なりますのでご注意ください。


*流血・残酷・グロテスクな表現があります。苦手な方はご注意ください。

子供たちが眠る家屋から離れて、私とユザキ様、騎士団は村の横にある森の入り口に集まっている。

先ほどの子供たちの話をうのみにするわけではないが「黒髪の魔法使い」この真相は確かめる価値がある。とユザキ様、テオ隊長、クエルト叔父様の総意で目撃現場への視察を行う事になった。視察の結果次第では、すぐに王へ報告して、明日にでも正式な調査団を編成しこちらに向かわせる事になっているとのことだった。

感染者の容態確認と護衛の為、数人の騎士とヴァイス、ポイズ、エーデルを村に残すことになった。私も残るようにすすめられたが断固として拒否した。もし、何かわかれば、次の感染症を防ぐ手立てになるかもしれないし、「黒髪の魔法使い」の正体も気になる。

アルも私が行くなら。と共に同行してくれることになり、アルの部下2羽は村に留守番となった。


森の前でユザキ様が手を上げると、再び部下が獣化してドーベルマンになる。私が知るドーベルマンより何倍も大きい姿に思わず一歩下がる。何度見ても、少し怖い。

ドーベルマンの姿になった部下はクンクンと鼻を動かし、私たちを先導するように森の中へ入り、どんどん進んでいく。


木が生い茂った森の中をすこし歩くと急に開けた場所に出たとたん、ドーベルマンたちは唸り声をあげ、ユザキ様が顔をしかめた。


「酷い臭いだ。」

「臭い?…確かに少し…生臭い気が。」

「人間には感じないかもしれないが、ここは血の匂いが満ちている。しかも…獣人の血だ。」


苦々しく言ったユザキ様の言葉に私たちは驚き周囲を見回した。


「将軍!!これを!!!」


「…うっ!」

「なんて…ことだ…。」


そこに広がっていた光景を見て、騎士団の何人かが口を押えた。

緑が生い茂る森のなかの開けた空間。その中で、まるで落ち葉に隠すようにして、3体の獣人の死体が転がっていた。しかも、それぞれが獣に食い散らかされたようで一部白骨化した四肢や頭、指や眼球、耳などが遺体の周りに飛散している。破かれた胴体からは臓器が飛び出し、大腸と思われる物が干からびた状態で伸び出ていた。さらに、遺体にはおびただしい数のウジ虫が沸いている。


余りにも悲惨な光景に誰しもが動けないでいる中、クエルト叔父様がゴム手袋をはめて遺体に近づいた。それにを見た私や0番隊の騎士も弾かれたように動き出す。


『私たちは騎士であり医療従事者であり、医師である。どんなに悲惨な現場であっても、己のやるべきことを見失ってはいけない。手を止めてはいけない。常に自分にできることを考え行動しろ。』


0番隊の朝礼で毎朝クエルト叔父様が私たちに言う言葉だった。

そう、私たち0番隊はどんな時でも手を止めてはいけない。やるべきことを見失ってはいけない。今私がやるべきことは…。


「…死亡原因を調べます。遺体の損傷が激しいですが、なるべく元の状態に戻るように遺体ごとにパーツを集めましょう。」


死亡した原因を調べ、なるべく綺麗な状態で遺体を家族の元へ返してあげる事。私の言葉に0番隊の騎士たちが返事を返してくれる。そして、クエルト叔父様はまるで褒めるかのように一瞬だけ表情を緩ませた。


飛散した体のパーツを集め傷口を確認し血の乾きを見る。湧き出るウジ虫をはらい、こぼれ出た臓器を戻して、腹部を縫合する。出血の状況と遺体の腐敗具合、骨の接合部の状態。全てをくまなく観察しながら、遺体を修復していった。

途中薄暗くなってきたが、テオ隊長をはじめとする1番隊が魔法で明かりを作ってくれたのでありがたかった。そして、全ての遺体の修復が終わり、2番隊が遺体を水で清め3番隊が風で乾かした。


「各自分かったことを報告しろ。」


クエルト叔父様に集められた私たち0番隊の騎士は次々に報告を上げていく。

「死亡時刻は遺体の損傷が激しく特定は難しいです。」

「可能性として、白骨化している部分は多いですが、獣が食い散らかした事や遺体の置かれていた場所を考えると、腐敗の進行具合から子供たちが言っていた2か月前辺りかと考えてもいいと思います。」

「上腕や大腿部など大きな破損と欠損は傷跡からして獣の仕業と思いますが、一部人間の歯型のような跡も見られました。」

「どの遺体も首にだけに刃物で出来たような切創が確認されました。この傷が致命傷かと思われます。」

「遺体の損傷の割には飛散している血液の量が少ないように感じます。地面に吸い取られたり蒸発したとも考えられますが、死亡後にここで食した可能性があります。」


「食した」という言葉にユザキ様をはじめとした獣人たちの体がピクリとゆれた。


「…全ての遺体は心臓が綺麗に取り除かれていました。」

「なるほど…。犯人は首を切って殺害後ここに連れてきて心臓を取り出し、遺体を食したのか。ユザキ殿、このご遺体の身元を調べていただき、自宅や職場でもし大量の血痕が発見された場合はそこが殺害現場と見て良さそうです。」

「承知した。すぐに王へ報告し調査隊を派遣していただきます。」

「私のほうで騎士団長に報告をしてもよろしいでしょうか。人食による魔法術式は禁術です。まだ、我が国との関係性は判りませんが早いうちに知らせておいたほうがいいかと。」


クエルト叔父様、ユザキ様、テオ隊長が今後の事を相談しているとき、ふと視線を感じて辺りを見回した。もうすっかり夜のとばりが落ちた森の奥は闇を深くしているようで、不気味だ。暗いせいもあるが人の気配は感じられない。


…気のせいかしら…?

そう思い直し、クエルト叔父様達の話に参加しようとした時だった。


「グギャー!!!」


突然アルが鳴き、空に飛びあがった。そして、森の中を見つめて嘴をカチカチ鳴らす。それとほぼ同時に、ユザキ様の部隊のドーベルマン達も一斉に唸り声をあげ武器を構えた。

ガサガサと森が大きく揺れる。騎士団も武器を抜き、テオ隊長が私を庇うように前に立つ。私も剣を抜いて森に意識を向けた。ユザキ様の尻尾と耳がピンっと張り詰める。


「来るぞっ!!」


ユザキ様が囁くのと同時に森の暗闇の中から牙をむいた肉食獣たちが大量に飛び出した。


「グギャー!!」

「ガウウウウ!」

「ギャウ!ギャウ!」

無数の動物たちが一斉に私たちへ襲い掛かる。ユザキ様やユザキ様の部隊の獣人たちは怯むことなく応戦し、騎士団たちもうまく陣形を取って猛攻を防ぎ攻撃していく。


「この獣もイスラの民だ。可能な限り殺すな!!」


ユザキ様の怒声が飛んだ。そうだ、この獣は狂暴化しているイスラの獣人!殺せない!脳裏に浮かんだの狸の兄弟だった。この獣人たちにも待っている家族がいるかもしれない。

そう思い、ハッと急所を切りつけようとしていた剣を返しその平面を叩き付ける。しかし、私の力では屈強な獣人の肉体に思うようなダメージを与えることができず、反動で飛ばされてしまった。


「アヤメ嬢!」

「私は大丈夫です!!続けてください!!」


テオ隊長の声に負けじと大声で返す。テオ隊長は2頭の巨大なトラの獣人を地面に叩き付ける。その少し離れたところではクエルト叔父様がサーベルタイガーの急所に拳を打ち込み戦闘不能にさせていた。

さすがは隊長格。襲いかかる獣をものともせずに地面に叩き伏せていく。


しかし、襲ってきた獣の数が多すぎる。

騎士たちは魔法を連携して放ち獣を無力化してくが、殺せないというのが枷になっているようで、だいぶ苦戦しているようだった。


私に狙いを定めて突進してきたハイエナの獣をかわし、その四肢を切りつけ動きを封じる。傷は後で治すから、まずは動けなくするのが優先だ。そう考え、次に向かってきた獣を捌こうと身をひるがえした時だった、


…ふわり…


目の前を真っ黒な蛾が通り過ぎる…。


蛾…?


「アヤメ!!」


蛾に意識を奪われたのと同時にテオ隊長の声が響き体がグイッと引っ張られた。


その瞬間、パァンッ!!という破裂音と共に私の右腕


肘から先が………爆散した。








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