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14.侯爵令嬢と騎士叙任式

王城から少し離れたところにある大聖堂。

王族と国の重鎮、貴族たちが集められたその真ん中に騎士団長と副団長を先頭に騎士たちが列を作り、騎士が作った道の中、新しく騎士団への入団が認められた数名の青年たちが騎士の制服にマントを揺らして颯爽と入場してくる。

騎士たちが深い藍色のマントを纏う中、新しく騎士団に入った青年たちの最後尾の少女が纏うのは深い臙脂色のマント。そのマントに銀糸によって大きく刺繍されているのは、この国の建国記にも記載されている最古の貴族「アールツト侯爵家」の家紋。



主君である国王が祭壇に飾られた、新しい騎士たちに贈られる真新しい剣に祈りを述べる。


「彼が、悪となる全ての暴虐に逆らい、国に奉仕するすべての者の守護者となるように。」


そして、国王はその剣を手に取り、跪く青年に剣を授ける。剣を授かった青年は鞘から剣を抜き、国王に剣を渡す。

剣を受け取った国王は剣の平を以て騎士となる者の肩を叩いた。


「騎士としての真理を守るべし。礼節を重んじ、主君への忠誠を守るべし。慈愛と勇気を忘れず、国に奉仕するすべてを守護すべし。…汝、…をインゼル王国騎士として認めん。」


こうして晴れて騎士団の一員になれるのだが、最後の少女の番になると国王が手にするものが剣から銀でできた杖に変わる。その杖には蛇が巻き付くように彫られており、建国記にも記載されている、初代アールツトの者が持っていた杖を模したものでる。


国王は跪く少女の前に立つと、その杖を高く掲げた。


「医師としての真理を守るべし。騎士として礼節を重んじ、主君への忠誠を守るべし。慈愛と勇気を忘れず、国に奉仕するすべてを救済すべし。…汝、アヤメ・アールツトをインゼル王国騎士として認めん。」


国王はその杖を少女に手渡し、少女は両ひざをついて杖を両手で掲げる。そして、少女は口を開いた。


「我は、任務を忠実に尽くし、毒あるもの、害あるものを絶ち、病める者たちへの奉仕に我の身を捧げることをここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん。」


叙任式にアールツト侯爵家の者が参加するときのみに行われる、宣誓は厳かな大聖堂に声高らかに響きわたった。


こうして、インゼル王国史上初の治癒魔法を使わないアールツト侯爵家の令嬢が騎士団へ入団した。




叙任式終了後は城の宴会場で叙任式に参加したほとんどの者が参加する入団祝いのパーティが催される。


ソフトドリンクが入ったグラスを片手に、私は会場の隅で人知れずため息をついた。王族や主要貴族への挨拶は済ませたし、お父様やお母様にも叙任式の事で褒めてもらえたし…。

このパーティでこれ以上自ら進んで動く必要がなくなった。そう思ったとたんに、疲労がどっと押し寄せてきた。

思えば、昨夜はあまり眠れなかったし、叙任式での宣誓の事もあり緊張もしていた。自分が思ったより疲れているのかもしれない。

ため息を押し殺すように、グラスの中身を飲む。視線を床に落としていると、きれいに磨かれた革靴が目に入った。

そのまま自然に視線を上にたどるとそこにいたのは銀髪碧眼の美青年。


「アヤメ嬢。本日は騎士団入団おめでとう。実に見事な宣誓だった。」


フェアファスング公爵子息レヒト様は少し頬を染めながら、緊張した面持ちで私に告げた。


「…ありがとうございます。」


逃げるようにレヒト様の前から去ってから半年。

連絡を取ることも会うこともほとんどなかったので、すっかり彼の存在を忘れていたが…まさかここにきて現れるとは思っていなかった。

確かに最高位貴族であるフェアファスング公爵がこの式典に参加されるのは当たり前だけど、そのご子息、しかも家督を継がない次男が参加するのはなぜだろう。

まじまじとレヒト様を見ていると、その服装が騎士団の制服であることに気がついた。

王族が参加するような式典やパーティの場合、正礼装が義務付けられているが、騎士団に所属している場合は騎士団の制服の着用が許されており、今日のパーティでも礼装の貴族たちに混ざって騎士団姿の人は何人か見つけることができる。

いつもは制服にマントや装飾品はつけずに過ごしているが、今日は完全装備の様だ。


レヒト様が身に着けているのは騎士団の制服に藍色のマント姿。

…ということは…?


「レヒト様は騎士団に所属されていたのですか?」


私が問いかけると、レヒト様は頷いて左の腕にある腕章を見せてくれた。

その腕章の色は深い緑色。


騎士団は各隊を

1番隊は紫色「火魔法の使役者。」2番隊は青色「水魔法の使役者。」3番隊は緑色「風魔法の使役者。」4番隊は山吹色「土魔法の使役者」0番隊は赤色「救護者」

と色分けしていて、隊に所属した者はその隊の色の腕章をつけることが義務になっている。

そして、レヒト様が付けているのは緑色の腕章なので3番隊の所属ということになる。


「ああそうだ。私は公爵家の人間とは言え、家督を継ぐのは兄上と決まっている。その為、将来は騎士として国の為に働こうと思っていた。」


爵位は兄弟全員が継承できるわけではない。この国の爵位は常に一人だけが相続するもので爵位継承法は「初代の直系の嫡出の男子または女子」となっており、長男・長女以外の子供たちは将来設計を早い段階で始めなくてはならない。

爵位を継がない場合の選択肢は

1.ほかの貴族と婚姻すること。2.自分の生家に大きく貢献する事業や業績を上げて、領地の発展に努め管理者として爵位を継いだ長兄に仕えること。3.平民に下る事。4.騎士になる事。

の4つで、1と4が一番多く選ばれる選択肢になっている。

1の場合は、貴族同士の結婚は政治的な意味合いも強いので、自分の後ろ盾が高位貴族だったりすると、婚約が結ばれやすく女子には人気の選択肢となっている。

ちなみに私は将来結婚の予定は無いし、現段階での婚約者はいない。

4の場合は、騎士になるのは狭き門だが、騎士になれば一定の収入と兵舎での衣食住が保証される。その為、貴族の男子たちの多くが幼いころから、剣術や魔術の家庭教師を雇い騎士団の入団に備えている。

一見華やかに見える貴族の社会はとてもシビアである。


その点私は、平民に下っても何も苦ではないし、むしろ前世が平民だったので毎日ドレスを着る貴族よりもよっぽど馴染めそうだと思う。

そういえば、お母様はお父様と結婚しなければ山奥に開墾して畑を作り、薬草を育てて、一生を過ごそうと考えていたとか。お母様のご実家も伯爵家だったのに…。我が母親ながらすごくワイルドである。


「14歳の時に入団して、今は3番隊に所属している。

「すごいですね!」


騎士団の入団試験に一回での合格は素晴らしいことだ。


「幼いころから、ずっと騎士団に入団するために努力していた。そして、入団後も周りの同志たちと切磋琢磨してきた。その結果を評価してもらえたと思うととてもうれしい。」


誇らしげに笑うレヒト様につられて私も自然と笑みが漏れる。


「本当にレヒト様はすばらしいお方ですね。私も騎士団の一員として精進いたしますので、どうぞご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」


騎士の礼をすると、レヒト様もそれを返してくれて、また二人で笑みがこぼれた。



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